MISSION10:モカ・マーフ捜索任務(7)
(さて、この構図は…… この前のジャックの時と近いが)
ゲッカ・シュラーク自治区を巡る攻防、
(同じルートは進みたくないもんだがねぇ)
半ばあきらめに近い感情と共に、ニアド・ラックは
「――速いな、予想よりもずっと」
その上で、ディサイドの駆るコンツェルトの機動力はそのロックオンを振り切ってみせる。物理的に速度があるのは確かだ、コンツェルトは一般的なアームドマキナとして限界に近い速度を誇る。
これ以上を求めるなら、ライテック社のイーグルか、レイリーブルー社のイカロスのレストア品。あるいは独自に設計された
だがそれだけではなく、判断の速度と動きの切り替えが早い。逃げに徹するディサイドを撃墜しようと思うなら。アキダリア
(しかし脅威かどうかを考えるなら。そこまでではない)
確かに動きは速い。その上で今ニアドの駆るオーガ・ヘッドは
だが、その上で。
それらをすべて有機的に駆使されたとしても、ニアド・ラックは捌き切るだけの自信があるし。多少のリスクを許容すれば距離を詰めて来た時にカウンターを叩き込むという手だって選べる。
(時間はこちらの味方だ、完全に包囲出来れば。
なにより、真っ当な戦力を持った
(お前のように、自由に戦えるものじゃない。
CASH、これまで積み重ねてきた実績、縁、貸し借り――
半世紀も続ければ、どこかの企業から首輪の一つも用意される。
それは、悪い事だけではない。だがこういう、どうしようもない汚れ仕事をやらされることだって少なくない。
「だが、それでも……」
生身の未登録市民をナパームで焼き尽くす光景、あるいは逃げようとする彼らをアームドマキナで踏みつぶす感覚。一度でも味わえば、二度と忘れる事は出来ない。
それと比べれば、
(そうやって、世界はより平等に、マシになる)
夜の闇の中を、
僚機もフル・オーク。センサーの性能こそニアドのオーク・ヘッドに劣るが。それでも機体同士のデータリンクによって底上げはされている。
他の小隊と合流出来れば、確率の上で
(弾幕の中で、踊るような人生がいつまでも続くわけがない)
だから、正しい。いつ死ぬか分からない。未登録市民というあり方よりも。ネットワーク上で永遠に等しい保証を受ける方がずっと。確率の上ではマシなのだ。
(――正しい、筈だ。理屈の上では)
「そもそも、時間を稼ごうと。逆転の一手が無い……」
賭け事なんてものは命と無関係な所でやるべきことで。娯楽ではない
雨が降りしきる夜の中を、青いコンツェルトが舞い続け。自機を含め3機のオークタイプによる
(確率と、
そこでようやく、ニアド・ラックは違和感に気が付いた。こちらに向かっている味方の小隊が予想以上に遅れている。
「第2、第3小隊。どうした、何故遅れている?」
『こちら、第2小隊。スモークと地形を使ったトラップに……』
「突破は?」
そういえば、ヤンスド・ナンデーナもこの
『……強引に突破を図ったNo.5962が、
「確かに、ギリギリ
随分と、危ない橋を渡っている。実質非武装のレイブ1機でオーガタイプ3機を足止めする程の報酬はこの依頼にはなく。将来的なコネクションを理由にしたとしてもあまりにも勝てる確率が低い。
『こちらNo.5962! あのレイブは、放置するべきでは――!』
「No.5962、
『こちらにも、面子がある! 違約金を払ってでも……』
ニアド・ラックは操縦席の中でため息をつく。No.5962の頭に血が上っているのは事実、だが冷静な判断が出来ていないと言い切ることも難しい。
自分が抜けても問題が少ない
「……一分だ、それ以上かかるなら。違約金を支払いこの
『……了解! それだけ時間が貰えればっ!』
わざわざアキダリア以外の
その結果として、ニアド・ラックが強く命令出来るメンバーを揃えられなかった。
(それでも、3分後には8機のオークタイプで包囲網を――)
『あぁ、めんどくせぇ! 所詮オリンポス杯でビリだった
No.5962の離脱を皮切りに、部隊の雰囲気が嫌な方向に傾いていく。僚機として小隊を組んでいたNo.5421がいきなり
『びりっけつの速度で、逃げ回る位しか出来ねぇ三下じゃねぇか!』
No.5421もニアド・ラックが提示した
(――諫めるのも、悩ましいが)
一応ニアド・ラックがこの依頼における
ただ挑発し、自分に接近させ返り討ちにしようとしている。
「No.5421、相手は
だが
『舐めやがって! その言葉300%後悔させてやらぁ!』
闇の中、雨の向こう側で。青いフル・コンツェルトがマントを翻して加速する。
「っ!? 作戦を修正、No.4999、No.5421を援護!」
このまま援軍が来ないのならば、
(……いや、これはっ!)
No.4999とニアド・ラックの射線が重ならない。
「このタイミングを、狙っていた……!?」
ここまで来てニアド・ラックはようやく理解する。
(これまでの嫌な予感は、
漠然とした不安を、形に出来なかった事を悔やみながらも。ニアド・ラックは
『この俺の間合いに踏み込んでくる度胸は、認めてやるわっ!』
No.5421の駆るオークタイプは
3本の
その分、習熟に時間が必要な装備ではあるが、No.5421は20年以上
間合いにさえ捉えられれば、
『そんな棒きれ振り回したくらいで、AMが落とせるかよ。ド100%の三下ァが!』
あるいは
(ここまでよく持った、そう考えるべきだな)
もう、この戦闘は終わったと考えていい。ニアド・ラックの意識がこの後に向きそうになったその時。信じられない光景が、視界に飛び込んで来た。
亜音速で青いコンツェルトが、フル・オークとの
青いコンツェルトの左肩に装備された対ビームマントが薙ぎ払われ、フル・オークが振った
『なっ!?』
『まだだっ!』
更に、対ビームマントの内側から
『これで左手のシールドは100%張れはしねぇ!』
コンツェルトの右手に、
「――ここまで、伸びを見せるか。
『これをあと8回繰り返せば、こっちの勝ちだぜ。ニアド・ラック!』
ニアドは操縦席の中で苦い顔をしながら、
半年前と比べれば、一回り。いいや二回りは強くなっている。No.5421もこと白兵戦に限れば一目置かれる
そもそも、
「その無理筋を、通せると思うな!」
そう、無理筋だ。あんな力技を何度も通す事は出来ない。そもそもアレはNo.5421が
当然、
この
「ニアド・ラック! レーダーに反応が。マッハ20!? 高高度から――!」
No.4999の警告に返事を返す前に、操縦席にアラートが鳴り響き。ニアド・ラックの目の前に広がるモニターに表示されていたレーダーが、二次元から三次元に切り替わる。
「高度―― 2万からの、動体反応!?」
『
ニアド・ラックが状況を認識する前に、夜空を覆う雨雲を白い何かが貫いて。次の瞬間遠くで轟音が鳴り響く。
『だ、第3小隊―― か、壊滅!』
レーダー上から消えた第3小隊の反応を見ながらニアド・ラックは理解する。
使用されたのはおそらくは
『――フォルテイオ、この街の防衛戦に参加させてもらおう』
急降下後の急上昇。雨の降る夜空に、白いAMが戦場を俯瞰しながら弧を描く。
「フォルテイオー!? 確かに
フォルテイオー、この
『――レイリーブルー社からの依頼となれば、受けん訳にはいかんのでな』
『……まぁ、来るなら90%アンタだと思ってたよ。フォルテイオー』
『ふん、貴様とまともにレースをしたいという欲もある』
そもそも
それを飲み込んでまでこの
「……だが、それでも」
しかし、
それでも、まだこちらの方に分がある。コンツェルトもイカロスも、
まだ、確率の上ではこちらに分がある。ニアド・ラックはそう己を鼓舞して操縦桿を握り直した。
◇◇◇ The balance tilted to the horizontal...... ◇◇◇
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