MISSION08:惑星周回レース護衛任務(7)



 アキダリア傭兵組合マーセナリーズシップ併設されたカフェステーションは、太陽系力学時19:00以降はアルコールを提供するバーステーションとしても機能する。


 ただ主観クオリアをネットワークに接続した人間なら。タッチ一つで好きな時にアルコールを摂取した時と同じ酩酊状態に陥れるし。多少のCASHを支払えばデータ化されたありとあらゆる銘酒を味わう事が出来る以上、利用者の数は少ない。


 定期的に飲みに来るのは、それこそニアド・ラック位で。普段なら依頼が終わった後一人で酒を飲む事になるのだが。今日は意外な先客がいた。



「ジャック、珍しいな。お前がステーションに来るなんて」


「ニアド・ラックか…… まぁ表沙汰に出来ない依頼を受けてな。厄除けだ」



 長く登録傭兵ナンバーズを続けていればそういう事もある。愚痴りたいなら詳しい内容を話すだろうと。ニアド・ラックはジャックの一つ隣の席に腰を下ろす。


 ふと壁を見やれば、未だにオリンポス杯の中継が投射され続けていた。



「しかし、レイリーブルー社は2位になったな……」



 昨晩、レイリーブルー社と、フォルテイオーのデッドヒートを思い出す。フル・イカロス2機が超音速で空を裂きながら、中継のドローンすら置き去りに0.02秒差でゴールした瞬間。


 このバーステーションの中で濃縮された熱狂が爆発したのは記憶に新しい。



「ったく、初参加のレーサーでよくやったもんだ」



 いつものしかめっ面をすこし緩めて、ジャックがカルーア・ミルクを口にする。



「よくもまぁ、そんな甘ったるい酒を飲むな」


「口当たりがよくて、酔いやすいからな」



 酒の趣味なんて人それぞれだと思いながら。ニアド・ラックは端末を弄ってウィスキーの水割りを注文する。現実でアルコールを飲まなくとも、自由に酔えるこの世界で、わざわざ酒仲間と無駄な喧嘩をすることもない。



「なぁ、お前はどこに賭けてた? ニアド・ラック」


「いつも通り、マグガイン社に100CASH。まぁブロッサムストームよりましだ」



 ゴールしてから、しばらく固まって。結果が出た瞬間ウギャァァァぁ――ッ! と淑女にあるまじき叫びをあげていた。あと一歩にまで迫った100000CASHが失われたのだから痛いほどに気持ちは理解出来る。



「なんだ? あいつ、レイリーブルー一点買いでもしてたのか?」


「ああ、それも1000CASH」


「桁がおかしいんだよ、まったくいい気味だ」



 ジャックは心の底から意地の悪い笑い声をあげた。


 ブロッサムストームとミッションで対立し、手痛いダメージを受けた登録傭兵ナンバーズは少なくない。ジャックもニアドが知る限りですら片手の指を超える程度には煮え湯を飲まされていて。


 ついでに、ニアド自身も2~3度程彼女の無茶に振り回された経験がある。


 少しだけ、一緒になって小さく笑う。実戦でのミスやトラブルで留飲を下げるより。こういうどうでもいい処で発散する方が恐らくマシだと思いながら。



「しかし、レイリーブルー社としては最良の結果だと思わないか? ニアド」


「そうなのか、優勝は出来なかっただろう?」



 ジャックの言葉に疑問を返す。完走は出来た、標準規格スタンダートAMによる無補給火星周回ノンサプライマーズアラウンド、レコード28:58:46を4分23秒上回るタイムで。


 ただ、フォルテイオーに0.02秒差で2位に甘んじてしまったという事実は。どうせなら優勝を掻っ攫った方が大番狂わせとして面白く、またレイリーブルー社としては良い結果だったのではないかと、そんな事を思ってしまう。

 


「一流のレーサーであるフォルテイオーが、機体を焼き切る勢いで駆け抜けた」


「つまり、イカロスのラインを復旧させる力があると保証したと?」



 確かに言われてみれば、社外のトップレーサーが。これからブルーレイリー社はイカロスのラインを復旧することが出来ると信じていると身をもって示した。


 その事実は単純な完走は勿論。下手をすれば優勝するよりも大きな額の投資を引き出せる要因になる可能性は確かにあり得る。



『――カメラに最後のAMが映りました! どう見ますか?』


『ダメージが大きく、難しそうですが。出来れば完走して欲しいところです』



 急に大きくなった実況の声に、改めて壁に映されるレースの様子を見れば。翼が砕かれて、半ば半壊した青いAMが赤茶けた荒野を進んでいくのが目に映る。



「しかし、今走っているのは――」


傭兵登録番号マーセナリーズナンバー0874、一人だけらしい」



 まったくと、ジャックはカルーア・ミルクをちびりと飲んで。



「まったく、無様だなぁ、普通に完走を諦めりゃいいのに」



 その声には、強い皮肉と。微かな憧憬が含まれている様に思える。



「なぁ、ジャック。今からちょっとした賭けをしないか?」


傭兵登録番号マーセナリーズナンバー0874が完走できるかどうか。か?」



 ジャックは楽しそうに口角を吊り上げた。



「ああ、賭けるのは今日の支払いでどうだ?」


「俺は完走が出来ない方に賭ける」



 ディサイドに対するジャックの態度は辛辣に見えて、そこには妙なやさしさのようなものも感じられて。



「じゃあ、俺は完走する方に賭けるぞ」



 ちょうどここで、注文したウィスキーの水割りが届く。近づいて来る配膳用のロボットからニアドはグラスを受け取って。デジタル表示の顔に笑みを浮かべて去るロボットを見送っていると、ジャックがポツリと呟いた。



「狙う側なら、弾をどこに当てられるか選べる……」


「やることが遠回りなんだよ、お前は」



 これまで非合法な依頼をこなす黒いコンツェルトと、傭兵登録番号マーセナリーズナンバージャックは同時に現れた事はない。ここまで状況証拠が証拠が揃えば何があったかは理解出来る。


 大方、ヘタな傭兵登録番号マーセナリーズが依頼を受けるくらいなら。自分が受けて絶対にリリル・レイリーの命を奪わないように撃ち落とす。そういう絵図を描いて状況を整えたのだろう。


 回りくどく、失敗した時に裏社会での信頼を失うが確実性は高い。



「ふん、過程がどうであれ。目的が達成できればそれでいい」



 レースの中継に目を向ければ。完走記録が認められる制限時間まで残り30分。



「全く、どいつもこいつも。不器用な男ばかりだ」



 そう呟いてニアドはウィスキーの水割りに口を付けようとして、つまみを頼み忘れていたことに気が付いた。



「ニアド、食うか?」



 それを察したジャックが、すっとナッツを差し出して来る。



「助かる、頂こう」



 今の速度なら途中で機体がダウンしない限り。ディサイドは問題なく完走できるだろう。たとえ途中で機体が限界を迎えても。すぐに救助可能な位置だ。


 賭けの対象なんてものは、これ位で丁度いい。登録傭兵ナンバーズなんて仕事で命を賭けるのを惜しまないような生き方は長くは続かないのだから。


 だが、それでも――


 ディサイドの青臭く無謀な生き方を、少し羨ましいとニアドは思うのであった。



□□□―――RESULT―――□□□


MISSIONRANK:SS+


整備費:-3000CASH

弾薬費:-1000CASH


経費精算:4000CASH


依頼報酬:60000CASH


収支合計:60000CASH



□□□―――STATUS―――□□□


ユニティ登録番号:個人情報により非開示

ユニティ登録名称:ディサイド

所属:傭兵組合

傭兵登録番号:0874

性別:男

年齢:18

総資産:93990CASH


・所持スキル

AM操縦免許

傭兵免許

基礎電脳操作技師


・コネクション

No.7787:ニアド・ラック

No.0666:ブロッサムストーム

No.0278:ジャック

未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ

ユニティ自治区:ゲッカ・シュラーク

ブルーレイリー社:リリル・レイリー≪NEW≫


・実績

オリンポス杯完走≪NEW≫


・保有装備

ウェポン:360mm重長砲バスタードカノン(ノンブランド)×2

ウェポン:重自動拳銃オートモーゼル(ノンブランド)×1

ウェポン:無銘重長剣ネームレスバスタード×1

ウェポン:対ビームコーティングマント(ノンブランド)×1

ウェポン:シールドユニット(ノンブランド)×1

ウェポン:120mm狙撃砲スナイパーカノン(ノンブランド)×1

ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1

ウェポン:重機関銃ヘビィガーランド(ノンブランド)×1

ウェポン:光波剣レーザーブレード(ブルーレイリー社)≪NEW≫×1


ヘッド:コンツェルト(ライテック社)

ヘッド:レイヴ(ライテック社)

ボディ:コンツェルト(ライテック社)

レッグ:コンツェルト(ライテック社)

レッグ:レイヴ(ライテック社)


To be continue Next MISSION……

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