MISSION07:所属不明機調査任務
「……おお、半壊していた顔面が99%元通りに」
静かな格納庫の中に、納品前に行われる形式的な最終チェックの為にデンと置かれたコンツェルト・ヘッドをディサイドは感慨深く眺める。
普段はAMの顔として遥か上から見下ろしているヘッドユニットが、人間と同じ目線で床に並んでいることもあり。妙な落ち着かなさと共に、こうやって自分の手で直接触ることが出来るのは妙な楽しさがあって。
ディサイドは普段使いの作業用手袋を外し、修理された装甲を撫でてみれば。至近弾を受け半壊した左頬は色こそ揃えられていたが、ほんの少し手触りが無傷な場所と違っているのが分かる。
『単純な光学センサー含む各種性能が上がっていますが……』
ディサイドの首元に下げられたストレージカードの中から、アイリスが少しだけ不機嫌そうな声を上げる。
「あまり細かい文句を言わんで欲しいな。
どうやらMr.ゲッカ・シュラークとアイリスはあまり相性が良くないらしい。というよりもディサイドが見る限り。双方が種族的な偏見を持って互いにいがみ合っている様にしか見えなかった。
『まったく、これだから
「Mr…… いや、アイリス。ネットワークで喧嘩を売ったか?」
時々、ネットワークに意識を接続できる人間と話しているとこういうことがある。完全に生のホモサピエンスであるディサイドでは、モニター越しにしか理解できない世界で勝手に話が進められる感覚。
『大丈夫です。喧嘩を売って、買って頂き、
どうやら二人とも、ネットワークで話を付けた上で。こちらに分かりやすいようにこっちで口に出してくれていたらしい。ありがたいけれど少しだけ自分だけ蚊帳の外におかれている寂しさも感じる。
「……アイリス、彼に生体接続ディバイスを与えるべきでは?」
難しい顔で両腕を―― いや
『生体接続手術を行えて、信頼できる医者とのコネがありませんでしたので』
「……確かに、
「まぁ、そうなるよなぁ」
どうしようもなく、周囲についていけない悔しさはあるが。それでもアイリスやMr.ゲッカ・シュラークの心配も理解出来る。
『まぁ、あとはナノマシン系の電位読み取り式という手もありますが……』
「価格に対して、性能が低い。人格移植が選択肢に入るレベルでだ」
「人格移植かぁ……」
とてつもなくセンシティブな話だ。
だから下手に生身のままネットワークへの直結を可能にするよりも、人格を丸ごと電子化してネットワークと同じプロトコルで稼働出来るようになる方が安くて安全という考え方は今の主流で。
だが、必要に応じて多種多様なアセンブルが可能なAMとは違い。人間というものはそこまで自由に己の
だからこそ、AMは仮にどんな高度なAIが組み込まれていたとしても。
目の前にあるコンツェルト・ヘッドのせいで、ディサイドの思考は上手く纏まらずにどこかよく分からないところに発散していく。
「あー、全く何が良いのかさっぱりわからねぇ……」
「正解がないタイプの問題だからな……」
『まだディサイドにはモラトリアムがありますので』
生身のままでいることが出来る自由。あるいは肉体を持つ権利。今の社会ではどうしようもない贅沢で、現状ユニティに登録されている人間の68%がネットワーク上の共有ストレージで生存している計算となり。
アイリスのようなプライベートストレージですら、人口比で見れば上位30%の恵まれた存在という事になる。
「まぁ、モラトリアムでもなんでも。CASH を稼ぐ必要はあるでしょ。100%」
「そうだな、今すぐAMのアセンブルを更新しよう」
「あっちのスナイパーライフルは?」
ディサイドは格納庫の奥にある、
「試射まで終わった。スペック表はアイリスに回してある」
『はい、ああそれとディサイド。取り外したレイブ・ヘッドはどうしますか?』
ディサイドは、首元からの問いかけに少しだけ悩んで――
「とりあえず、ここに置いてもらっても構いませんか?」
「……保管料を取る気はないが。それで良いのか?」
たとえレイヴ・ヘッド一つと言えども。傭兵が自治区に財産を置くという意味は小さくはない。そこが自分の縄張りであると、宣言しているに等しい。
「そもそも修理を依頼した時点で、その辺のことは100%考えてますって」
だが、それでいい。この今はたった一人が守っている自治区の方が。無数の自分が見る事も、会話することも出来ない人々が行きかうユニティの公共スペースよりも。ずっと居心地がいいと感じられるのだから。
◇◇◇ Mercenary Starts Mission ◇◇◇
ミッションの内容は非常にシンプル。ユニティ未登録のAMが確認されているので至急詳細の確認。あるいはその壊滅、以前ニアド・ラックと共に受けた依頼のスケールアップ版と考えて良い依頼である。
「しっかし…… オークベースと、オーガベースの小隊ねぇ」
ディサイドが所属するユニティ統括地域、その外縁の近くに刻まれた渓谷。その合間をスラスターなしでうろつくこと半日。ついに目標と思われるAMの部隊を捉える事が出来た。
重装甲で機動力は低いが、積載量とコストパフォーマンスに優れるオークタイプ。そして重装甲はそのままに機動力を上昇させた上位互換のオーガタイプ。
どちらもフォルムだけ見れば、ファンタジー作品に出てくる同名の魔物を思わせるのだが。全身を覆う複合装甲や、各部に据え付けられたスラスター。
そして何よりヘッドユニットに組み込まれた
『単機なら、撃破は不可能ではありませんが』
当然、その得物は骨の棍棒や
その上で、しっかりとシールドユニットまで搭載しているのだから。正面からディサイド単機であの部隊を撃破することは不可能に近く。
いや3対1なら挑んだ時点で120%確実に叩き潰される。機動力で逃げ切る以外の選択肢はない。
「分かってる。後詰もいるし。100%無駄な無茶はしない」
『ゲッカ・シュラークの時は?』
「ああならなくても、自己満足とか、納得とかは手に入ったよ」
結果として、本来無駄になるはずだったディサイドの無謀な吶喊は。
ヤンスド・ナンデーナ曰く、この辺りの自治区や企業のパワーバランスが多少なりとも揺れ動く程度の意味はあったとは聞いた。
『はい、結果として大きな戦果を上げたので、認知の歪みを心配していましたが』
「運が良かっただけって事は、98%理解している」
もし、自分がミスをしていれば。もし相手がセオリー通りに攻めてこなければ。仮に全部思い通りに動けていたとしても。ブロッサムストームがやってこなければゲッカ・シュラーク自治区は名も知らぬ相手に占領されていただろう。
「……そういえば、攻めて来た相手は何処だったんだ?」
『一般的なデータカンパニーですね。既に解散しているようです』
「つまり、どういう事なんだ? どうもピンとこない」
まだこちらの存在を認識できていない未確認機に対し、
『よくある話です。メインサーバーを持たない会社で法的にぎりぎりの処を攻めて』
「ああ、占領できなかったからドロンって事か」
(――味方として、ニアドさんが乗ってる分には120%頼りになったけれど)
目標は10㎞先、有効射程の3倍に迫る距離。砲身を45度近くまで傾けて強引に飛距離を稼ぐ。生身の人間がやれば反動でひっくり返るが。それをどうにかするだけのスラスターがアームドマキナには組み込まれている。
「敵にすると、300%面倒―― だっ!」
狙撃をする時は柔らかくトリガーを押し込めなんて話があるが、そんなのは生身か専用の高感度ディバイスを使った時の話だ。AMの標準的なFCSを使うのなら雑に押し込んでも命中率は変わらない。
想像よりも小さな発射音、数秒後。モニターの中央で拡大したオーガタイプの頭部に直撃を確認するが――
『予定通り、ダメージは皆無』
「あわよくばメインセンサーが潰せれば、って思っていたけどやっぱ無理か!」
オーガタイプは白兵戦を重視した重装甲を売りにしている。それこそ先日の自分たちのように頭部に360mmAPFSDS弾が直撃しても耐えるし。頭突きをすれば、軽量級のそれこそレイブ相手なら撃破しかねない強度を誇る。
有効射程外からの
『敵機、まだこちらを補足で来てはいないようです』
「なら、もう一発!」
マントを翻し、スラスターを吹かせて再びトリガーを押し込む。破れかぶれで放った攻撃は直撃することはなく敵部隊の足元を無意味に穿って。
『敵機からのレーダー波を感知、更に位相ヴァルター機関の起動を確認』
「よし、あとは誘導できるかどうか……っ!」
あえて最大出力まで位相ヴァルター機関を回さずに。スラスターを不調気味に吹かせながらよたよたと逃げを打つ。
『敵部隊、こちらを追尾し始めました。
「それなりに、引き付けて―― っと!」
こちらに向けて放たれた砲弾を、ギリギリの動きでどうにか避ける。
重装甲、重火力を誇るオーガ、オークタイプだが。その運動性は決して低くない。特に積載量が増えた時の機動力の低下が非常に少なく。レイヴやコンツェルトなら動けなくなるほど装備を重ねてもなお。実戦レベルの速度を維持できる。
だが、それでも。適正荷重範囲にアセンブルをまとめたコンツェルトならば機動力で確実に優位を取れる。
『回避成功、さて後はディサイドの演技力が問われますよ?』
「分かってる。ちゃんとギリギリ捉えられそうな動きをするさ」
敵からの砲撃を避けつつ、タイミングを見計らい振り返り
接敵から3分、じりじりと距離を詰めさせながら。事前に打ち合わせたキリングゾーン一歩手前まで敵部隊を誘い込む。
『レーザー通信を受信、1000m先に地雷原を敷設済みとのこと』
「げ、対重装甲用の大型…… 俺が踏んでも爆発しないよな?」
『敵味方識別機能付きです。むしろ踏んで安全だと見せかけるべきかと』
モニターの中でアイリスが、涼しい顔でマップ上に地雷の位置を刻んでいく。
「……流石に、なんというか」
後方からの
「っだぁっ、爆発したら200%増しで恨むぞ!」
おそらく爆発しないと理解はしつつも、
『ふん、随分と信用してくれているな。
12機の位相ヴァルター機関の反応がレーダーの上に現れる。
『本来なら、もう少しマージンを取る予定だったが。気が変わった全力で逃げろ』
「急なアドリブを混ぜるな
以前敵対した相手に文句を叩きつけながら、ディサイドが演技を止め。全力で操縦桿を押し込み機体を加速させ。直後、背後から凄まじい振動と衝撃に襲われた。
「くそっ! 一歩遅かったら200%吹き飛んでたぞ!」
『ふん、その時は鼻で嗤いながら爆発のテンポを遅らせていた』
改めて大型地雷の連鎖爆発に巻き込まれた敵部隊に向きなおれば。それでもなお、ゆらりと。オークタイプ2機と、隊長機のオーガタイプが爆炎の中から現れる。
多少のダメージは受けていたが、コンツェルトなら消し飛びかねない爆発の直撃を受けた上でなお戦闘力を維持しているように見えた。
「うわぁ、アレでも墜ちないのか。オークタイプも」
『いや、これで詰みだ』
大型地雷で砕けた装甲に成形炸薬を内蔵した誘導弾が食い込み、更にその傷を食い荒らしていく。
「こりゃ、400%の数の暴力」
『普通はこれでどうにでもなるんだよ、
まだ抵抗しようと
(機能停止を確認、MISSIONコンプリートです)
「なぁ、
『なんだ、
アイリスのチャットメッセージに対し。軽く画面に表示された彼女の頭を撫でて答えつつ。ディサイドは
「あの
「……好きにしろ。俺は戦場で拾った武器に命を託す気はない」
敵としても、味方としても戦って。信用は出来る実力の持ち主だと理解した上で。ディサイドは考えが合わないと思いながら。唯一使えそうな
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:A+
整備費:500CASH
弾薬費:60CASH
依頼報酬:15000CASH
収支合計:14440CASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:33990CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
・コネクション
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム
No.0278:コードネーム未確認
未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ
ユニティ自治区:ゲッカ・シュラーク
・保有装備
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:対ビームコーティングマント(ノンブランド)×1
ウェポン:シールドユニット(ノンブランド)×1
ウェポン:
ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1
ウェポン:
ヘッド:コンツェルト(ライテック社)(修理中……)
ヘッド:レイヴ(ライテック社)
ボディ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:レイヴ(ライテック社)
To be continue Next MISSION……
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