MISSION06:輸送護衛任務
『なるほど、なるほど。だから今日は頭がレイヴでヤンスね?』
「だが、これでも依頼は120%こなせるから安心してくれ」
とは言いつつも、いつもよりずっと低い解析度のモニターは。赤茶けた荒野と、青い空の色をぼんやりとしか映してくれない。
普段使いのコンツェルト・ヘッドの修理の終わるまでは、このレイヴ・ヘッドを使わなければならないのが気が滅入る。
別にシンプルな直線で組み上げられたレイヴ・ヘッドはそれ単体で見れば格好が悪いものでもないのだが。どうにもコンツェルトのボディやレッグと組み合わせると変に貧弱さが目立ってしまうのが性能以上にちょっと辛い。
ついでに趣味で青く染めたボディやレッグに、無塗装無地の鈍い灰色の下地塗料のヘッドを装備すると悪目立ちするのも問題だ。
(120%
(……それは、まぁ。200%納得する)
依頼者のヤンスド・ナンデーナに聞こえないように、チャットでアイリスからの皮肉に全面降伏の姿勢を示す。ゲッカ・シュラーク防衛戦における収支は黒字ではあったが、ディサイドの責任で余計なリスクを彼女に背負わせたのだから。
『しかし、
「……ブロッサムストームよりも有名だったり?」
『ははは、アレはこの辺りでは一番ヤバい
モニターの向こう側で、隣で大量の荷物を背負ったレイヴが肩をすくめて。こうしてみると兵器であるAMが親しみを纏うのだから不思議だと感じる。
『まぁ、ブロッサムストームは気分屋でむらっけがあるでヤンスが。そういう意味では
「そういう噂って、相手からログを見せても割らなくても分かるものなのか?」
『まぁ、ネットワークの噂を拾って。裏どりすればそれなりでヤンスかね?』
と、言われても。あまりディサイドとしては実感が湧かない。ある程度の教育はアイリスから受けている筈だが。ネットワークリテラシーに関しては、つい最近までろくに接続できる環境で無かったこともあり理解出来ない。
数百年単位で積み重なり、更に現在進行形で蓄積されていく無秩序な有機的なネットワークとデータをどうすれば生身で処理出来るのか。想像することも困難だ。
「情報を集めるのが得意だから、こうやって交易をしてるってことか?」
『そうでヤンス、まぁネットワークとユニティ統一規格で。よっぽどのモノでない限りはそれなりの自治区ならわざわざ運んでも利益は出ないんでヤンスがね……』
距離にして、AMの通常速度で往復2日の護衛依頼。
基本ユニティ統治地域外には道はない。各居住区各はこの惑星を覆うデータネットワークと、大規模な飛行輸送艦。あるいは海が近い地域では船舶で繋がっている。もっともディサイドはその眼で海も船も見た事が無いのだが。
「それでも、利益が出る商品を選んでみたいな?」
『まぁ、基本的に利益が出る商品は空輸されるでヤンスが』
画面の中の、男性なのか、女性なのかも分からない。胡散臭く中性的な顔がニヤリとこれまた胡散臭い笑みを浮かべる。
『ものの価値を決めるのは、人間でヤンス』
「あんまり、ピンとこないな。1%も分からない」
『例えば、そうでヤンスね……』
わざとらしく、モニターの向こうでヤンスド・ナンデーナは自分と一緒に。搭乗するレイブの腕を組む。恐らくは視線誘導でモーションを選んでいるか。あるいは神経を操縦系統とつなげているかのどちらかだろう。
『
「……普通に数百年前の役に立たない代物を?」
ディサイドにとって、理解しにくい考え方だ。それこそデータ化された芸術や文化的な物には色々と触れてその意味も多少は理解しているつもりでもあるし。特にアニメズム文化辺りはそれなりに楽しんではいる。
過去の文化に価値が無いとは思わないが、古いだけで役に立たないものをわざわざAM2機を2日雇って運ぶという行為に意味を見出せない。
『たとえば、それが失われた少女のモナ・リザの現物だったら?』
「ああ、確か…… 西暦2000年代前半の?」
それくらい有名ならば、ディサイドにもイメージが出来る。アニメズム文化において花開いた一大叙情詩に出てくる登場人物。中世の名画をモチーフにしたその愛らしい少女は千年以上年月を経てなお愛されている。
当時に印刷された実絵なら相当な高値になるのは理解出来る。最もデジタルデータでフリー公開もされている以上、ディサイドとしては理屈は分かるが理解は出来ないといった感想に落ち着いてしまう。
『まぁ、そのレベルになると空輸されるでヤンスが』
「じゃあ、結局何を運んでる訳で?」
『そういうものには届かなくとも、確かにあった品々とか』
やはり、良く分からない。西暦2000年前後から今まで、ほぼ全てのデジタル化されたデータはネットワーク上で保管されているし。
たとえ立体物であったとしても外寸や残った画像から逆算しこうやってAMで輸送するよりずっと安いコストで手に入るのだから。
『まぁ、そういうのにお金を出す好事家はいるでヤンスよ』
「個人の趣味って話なら、まぁ64%位は理解できなくもない」
ディサイドだって、自分の納得の為に利益を考えればする必要のない無茶を何度もしている以上。普通の人から見れば意味が無いものに価値を見出す人がいても何らおかしい事ではないと心の半分くらいで理解は出来た。
『64%…… 6割でも7割でもなくでヤンスか?』
「ついでに65%には届かないくらいの」
『独特でヤンスね。分かるような、分からないような……』
そんなくだらない話をしながら、いつもよりぼんやりとした荒野を歩いていると。丁度地平線の向こうにゆっくりと太陽が落ちていく。
「なんか、ヘタな芸術より。こういう光景の方が凄い気がするな」
『確かに、それも一理あるでヤンスね。何%くらいでヤンスか?』
「……そういうのは%で表すもんじゃないだろ?」
モニターの向こうで、ヤンスド・ナンデーナと。ついでにアイリスがポカンとあっけにとられた顔をして。次の瞬間――
『はははっ! ディサイドさん、最高でヤンス! そういうの好きでヤンスよ!』
腹を抱えて爆笑されてしまったのは妙に腹が立ったが、しかし出会ってから初めて胡散臭い笑みではなく。心の底からの笑顔を見れたのは66%くらいは良かったと思えなくもなかった。
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:A+
整備費:500CASH
弾薬費:0CASH
依頼報酬:2000CASH
収支合計:1500ASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:19550CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
・コネクション
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム
未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ
ユニティ自治区:ゲッカ・シュラーク
・保有装備
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:対ビームコーティングマント(ノンブランド)×1
ウェポン:シールドユニット(ノンブランド)×1
ウェポン:推定
ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1
ヘッド:コンツェルト(ライテック社)(修理中……)
ヘッド:レイヴ(ライテック社)
ボディ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:レイヴ(ライテック社)
To be continue Next MISSION……
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