MISSION05:ゲッカ・シュラーク防衛戦(後)
正規の
『つまるところ、セオリー通りに戦えば我々の敗北です』
「まさか、いざとなれば。逃げれば負けじゃない」
吼え立てる位相ヴァルター機関の振動が、どくどくと鼓動するディサイドの心臓と共に高まり。興奮と共に思考が瞬間的な反射に傾いていく。
『――分かりました。損切のラインは、私が決定します』
「了解、戦術レベルの判断は100%アイリスに任せる」
この戦闘は、ディサイドの意地と矜持以外の理由はほぼないと言っても良い。だから自分の理性は捨て去って、信頼できるアイリスに委ね。ただ剣を振るう鋼の獣として暴れぬくと決めた。
『敵機後衛、砲撃予測範囲。表示』
モニターの中、いつもよりも無表情なアイリスがどうしようもない現実をレーダー上に並べたてていく。
「ならさ、突っ切る!」
だから、ディサイドはセオリーを全部無視して。敵が構築した十字砲火のキルゾーンに足を踏み入れる。
『英雄気取り―― それとも狂人か!』
繋がったままになっている通信から、
「英雄気取りの、狂人だ!」
ディサイドはそれを笑って受け入れる。
4機のレイブが構える
『確定命中弾、1』
「全砲弾1点賭けは――」
合計10門を超える火砲から、放たれる火線。だがその殆どは敵をキルゾーンに追い込むための制圧射撃である以上。そのキルゾーンに飛び込むのならば無視できる。
更にそのキルゾーンに叩き込まれる本命の攻撃ですら、ある程度のばらつきをもって放たれる。逆を言うならば特定の砲弾に当たりに行くコースを取るのなら――
対応すべき致命的な攻撃はただ1発に絞ることが出来る。
「しないよ、なぁっ!」
超音速で迫る
『――狂ってる』
敵の驚愕の声を聞き流し。致命的な砲弾を切り抜ける。完全に正気を投げ捨てた本能の動きのままに。砲撃機を守るために前に出たレイブを
「まずはっ!」
何発か
「1機だ!」
前衛仕様のレイヴのボディ半ばまで切り込んで無力化。思いのほか
『周囲から集中砲火、火線密度予測値。表示』
だが、敵は
しかし十分な学習を行い、複数機での連携を理解しているのは確かで。
前衛の機体と、更に予備戦力として残されていた敵機が、
「けど、意地を張るなら!」
操縦桿を握り締め、ペダルを踏みこみ。位相ヴァルター機関の出力を限界近くまで振り回し。アイリスが可視化した弾幕の濃度の中で少しでもマシな部分にフル・コンツェルトをねじ込んで強引に突き進む。
『装甲に被弾多数』
「貫通は!」
『無し。ですが同じ攻撃を受ければ。高い確率で小破。悪ければ中破』
状況は悪い。いや、最初からどうしようもなくひっくり返すことが出来ない。
「分かった! まだ退けとは言わないんだな?」
けれどそんなことは分かった上で、意地を張ろうとディサイドは決めたのだ。
『はい、まさかもう退きたいとでも?』
ディスプレイの中で、普段は表情の少ないアイリスが口角を吊り上げる。
「――120%冗談じゃねぇ!」
そこまで言われた以上、自分から折れる選択肢はもう選ばない。位相ヴァルター機関の出力を推奨限界出力を突破させ、更に機体を加速。対レーザーマントを翻し、ディサイドは更に深く敵陣に切り込んでいく。
『――最低限、離脱を考える理性はあると思っていたが!』
「そっちから、狂人呼ばわりしてきたんだろうが!」
もう一度、拾いかけていた理性を全力で捨て直す。そもそも100%引き際をアイリスに任せるのだから。逃げる事を考えるのは彼女に任せるのが筋だ。
『後衛、
「当たれ―― いや、当てる!」
右肩のマントの内側から、隠し持っていた
『2機もやった!? だが、それ以上の隠し玉は!』
「隊長機が、前に出るなら!」
歪な人型、あるいは鋭角の骸骨のようなレイヴに追加装甲を施し。更に背面にスラスターとウェポンラックを備えたアサルトパック。単純な推力と装甲においてコンツェルトと互角。
故に、
『狂人め、動きが素直に過ぎる!』
理性は叫ぶ、当たり前だ。敵だって馬鹿ではない。こちらが勝とうと思うのならば敵の頭を墜とすしかない。釣り餌として自分を使う程度のことはするだろう。
レーザー砲が、
間違いなく死地、機動力は限界を超えて使い切っている。ロックオンアラートもガンガン響いていて。けれど、まだアイリスは――
「――っ!」
もう、言葉を吐く理性すら捨て。限界まで引き延ばされた思考の中。モニターに表示された情報を疑わずに。ただ機体を制御する事だけに集中する。
飛来するミサイル―― は無視できる。そもそもあの程度の小さな弾頭に、限界速度のコンツェルトに追いすがれる出力は持たせることが出来ない。
複数の火砲、
いや
1発は
だが
解がでる前に4発の
1発は直撃コースではない。1発は予定通り
理性が固まる前にトリガーを押し込み。
出来るという確信はない。ただ、それを当てなければどうしようもない。そんな実感が後から思考として追いついて。
「あと―― 1発!」
砲弾と銃弾がぶつかるのと同時に、
もう両手は使い切った、足も前に進む為に全力だ。ならば、残っているものは――
それはもう、操縦と呼べるものではない。普通のパイロットならそんな操作を行うところまで追い込まれた時点で負けだ。いやディサイドであってもこの状況は実質的な負けに等しいだろう。
シートと連動した姿勢制御。本来ならスラスターの微妙な角度調整や、ちょっとした作業時に胴体や首の角度。その最終調整に使うためのシステム。
それを強引に振り回し、胴と頭の動きで砲弾の直撃からは逃れる。
衝撃が走る、モニターの左側が一瞬消え。次の瞬間、解析度の低いサブカメラの映像に切り替わり。ディサイドは賭けに勝ったことを理解した。
頭部左側の小破と引き換えに。ディサイドの駆るフル・コンツェルトは
敵機が両腕に構えた
多少、奇策をもってその差を埋めたとしても。まだ届かない。
「シールドユニット、起動っ!」
だから、ここで切り札を切る。これまで砲弾を切り払う真似をして隠し通した通常の
エネルギーを消費することで、強引に敵の攻撃を位相ヴァルター機関の斥力で無効化する通常の攻防ではまず最初に切るべき札。
それで強引にAMの顔と顔が衝突しそうになる距離に踏み込んで。
「っだりゃあぁぁぁっ!」
コンツェルトの小破した頭部を、フルアーマーレイブの頭部に全力で叩きつける。
意味は無い、こんなことでAMを撃破することは出来ない。致命的な攻撃にはなり得ない。むしろ壊れかけたコンツェルトの頭部に更なるダメージを与えるだけで。買い直す羽目になれば中古でも5000CASHはするだろう。知ったことではない。
『――こけおどしを!』
『損切のラインです。ディサイド』
「分かったぁ!」
アイリスの声で、理性を拾い直す。
『はぁっはっははぁ!
戦域に、新たなAMの反応が現れた。
『No.666、ブロッサムストームだと!?』
「いや、なんで!?」
この瞬間、
『なんで? ってそりゃ私もゲッカ・シュラークの防衛任務を受けましたので』
『――貴様が? あのホモサピエンス至上主義者にか!?』
『多少の軋轢は認めますがね』
レーダー上の光点だったブロッサムストームの機体が。光学センサーに桃色の人型として現れる。
『一応、私も生身の人間ではありますので。さて、その上で――』
ウィンドウに一見朗らかな声と顔をした少女が。
『
しかし獰猛な表情と言葉と共に映し出される。
それに応える為に、ウィンドウに映った
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:A+
整備費:3000CASH
弾薬費:90CASH
依頼報酬:10000CASH
収支合計:6910CASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:18150CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
・コネクション
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム
未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ
ユニティ自治区:ゲッカ・シュラーク
・保有装備
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:対ビームコーティングマント(ノンブランド)×1
ウェポン:シールドユニット(ノンブランド)×1
ウェポン:推定
ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1
ヘッド:コンツェルト(ライテック社)
ヘッド:レイヴ(ライテック社)
ボディ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:レイヴ(ライテック社)
To be continue Next MISSION……
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