MISSION04:装備回収作戦
「なぁ、ディサイド」
「なんすか、ニアドさん」
「スペック上では
「はい、まぁ3発も切り払えば折れるので。脆いっすよね」
「普通は3発切り払う前に、死ぬ」
成程、安物を買ったつもりはなかったが。どうやらディサイドの想像以上に普通の傭兵は砲弾を切り払わないらしい。
「そりゃ、出来ればシールド使いたいですけど…… 高いですし」
「普通はそっちを使うんだ。いや、そんな感覚だからブロッサムに勝てたのか?」
ラージサイズのカップに入ったコーヒーを一息で半分飲み干して、ニアドは改めてディサイドのミッションログをスクロールしていく。
「ニアドさんならどうします?」
「どうもこうも、アレが出てきたら下がる」
「まぁ、それが100%妥当っすよねぇ……」
確かに割に合わないのは理解しつつも、ブロッサムストームに挑んだ自覚はあったがどうやら自分が想定していた以上の無茶をやっていたらしい。
「それはそれとして、なんか安く
「お前の使い方なら、もう一ランク上の
「新品で24000CASH、中古でも10000CASHじゃないですか」
中古なら手持ちでどうにか届く。
しかしフル・コンツェルトを揃えてお釣りが来る金額。それをメインウェポンにするには汎用性が低い物理実体剣に出すというのは、流石のディサイドでも流石にためらいの気持ちが前に出る。
「まぁ、間に合わせの武装を手に入れるってなら…… 当てがなくはない」
「
実際、今ある資金でやりくりしてしのごうとは思っていたが。安く白兵武器を仕入れられる手段があるなら使いたい。
「ああ、普通なら3か月目の
ニアドは残ったコーヒーを飲み干して笑みを浮かべる。
「ログも読んだが、実力も十分。穴場って奴を教えてやるよ」
◇◇◇ Mercenary on the move...... ◇◇◇
『それでユニティ統治地域外でのジャンク拾い。ですか?』
「まぁ、AMに乗っていてもやることは同じだろ?」
今根城にしているユニティ統治区域の外円から120㎞程離れた区画。企業体を含む自治組織すら存在しない文字通りの人類が布く法の外側。
かつての大戦によって、数百年単位で稼働する自立AI兵器が跋扈する古戦場跡。
『通称……
「安直ではあるけれど、120%の分かりやすさだ」
1000年前から標準規格が定まっている以上、過去の大戦で完全に野生化し自生する兵器から武器や装備を回収するというのは理にはかなっている。
『実際に行ったことは無いのですから、油断はしないでください。危険ですから』
「勿論、けど生身で戦場跡を漁るより1000%マシだろ?」
『生身で
装備は
「けど、それでアイリスと出会えたんだぜ?」
『それは事実ですが――』
ユニティの統括地域を飛び出してから数分で、目標と思わしき拠点をレーダーが捉える。最早それは古戦場ですらなかった。
無秩序にそびえる隔壁と、目的もなく空に向かう支柱。そしてその間を蠢く大量の無人機動AIの群。ユニティの条約により禁じられた地殻からの直接的な資源採掘機構を中心とした一つの生態系。
彼らは最早生みの親であったはずの人類とは無関係にその生を謳歌している。
「――レーダーに反応あり。数は3つか?」
『ですが、データリンクは行われていないようですね』
この領域に稼働する砲は複数存在しているが。ニアドから渡されたデータの通り連携を行っている様子はない。
「まぁ、アイリス以上の拾い物は1%も期待してないさ」
『全く、調子のいいことを―― 観測データと、事前データを照合完了』
「うん、流石に問題は無いな」
こちらをレーダーで捉えた砲台が火を噴くが、単発で放たれる砲弾でAMを止める事は不可能である。複数の火線でルートを絞らない限り、位相ヴァルター機関を内蔵した機動兵器にとって脅威にはならない。
そのまま
「さて、こうやってジャンクを漁るのは久方ぶりだが――」
『正確には、2年と3カ月と29日ぶりですね』
「アイリス、事前に計算していたのか?」
軽い雑談として投げかけた言葉に、砲撃の可能性を赤いマーカーで示したマップの下で、アイリスはいつもの表情で。
『出会ってからの時間を提示しただけですので。計算の必要すらありません』
なんて返されて―― ほんの少しだけ、体温が上がったとディサイドは感じる。信頼よりも不安定で、好意よりも少しだけ自分勝手な気持ちを持て余しながら。彼は少しだけ操縦桿を握る手に力を入れたのだった。
◇◇◇ Mercenaries are searching...... ◇◇◇
「これは、200%困った……」
『はい、私としても適切な判断が難しい状況です』
実際のところ、あまり期待していなかった。場合によっては即時撤退を行い成果がゼロになる可能性の方が高いとディサイドは考えていたのだが――
『推定
「恐らく120mm規格弾頭対応のスナイパーライフルが1本――」
どちらも今後、傭兵として生きて行く為に役に立つ性能を持った武器なのは確かなのだが――
『更に、性能不明のレーザー兵器ですか』
無秩序に乱立する隔壁の合間。とりあえず周囲の敵を一通り撃破し作り上げたセーフティーゾーンの中で。コンツェルトの目の前に並んだ3つの大型武器を前にディサイドとアイリスは贅沢な悩みに直面していた。
「全部持ち帰るのは無理か?」
『厳しいですね、まともな戦闘機動が取れなくなります』
先端に
そして明らかに背面ラックへの装備を前提とし内部に位相ヴァルター機関を内蔵した超高出力レーザー砲と思われる何か。
どれもこれも、スペック通りの性能を出せるかは怪しいが。それでもかなりの確率でそれなりに武器として使える可能性が高い。
出来れば全て持ち帰りたいが、今装備している
戦闘行動を無視すれば行けないことも無いが。その状態で
「
『確実に使える武器が
悩んでいても埒が明かない。次の瞬間、野生の無人機動兵器が襲って来る可能性がある場所に居続けるリスクもある。
「とりあえず、
そう、ディサイドが呟いた瞬間。
『――位相ヴァルター機関の戦闘励起を確認』
アイリスの鋭い声と共に、アラートが操縦席に鳴り響く。
「
『いえ、ですがユニティの公用救難信号を出しています』
どうやら、自分以外にも
そして大抵、そういう
「襲撃側は?」
『推定レイブ相当のAMが3機です』
恐らく360mm
でも十分に撃破が可能な範囲の戦力。最悪コンツェルトの機動力なら救難信号を出している機体を見捨てて逃げる選択肢もある。
「じゃあ、実戦で使えるかどうか。試してみるって事で」
『どれを選択しますか?』
「そりゃ――」
ディサイドは隔壁に立てかけた3つの武器から、目線で中央の武器を選択する。
『
「最悪、鈍器としては使えるだろ」
助ける義理はないし、義務もないが。今ある武器を試すのには都合がいい。上手くいけば自分一人では運べない装備を持ち帰れるかもしれない。そんな打算と共にディサイドは
『ひぇぇぇぇ! なんで今日に限ってAMが2機も3機もいるんでヤンスか!?』
余裕が無さそうでありそうな、女のような男のような。そんな正体が分からない胡散臭い感じの悲鳴が聞こえてくる。
『襲撃されているのも、レイブですね』
いま世界に現存するAMの60%を占める以上、敵も味方も推定レイブなんて事態は珍しい事ではない。
隔壁に遮られ、直接視認は出来ていないが。
「襲っている側は?」
本来なら救援を行う旨の返信を行うべきだが、それをすると野生化したAIにこちらの存在が気取られてしまう。単純な数では劣っている以上、奇襲の機会は可能な限り生かしていきたい。
『――レイブをベースにしているようですが』
「メンテナンスフリーで稼働する為に、色々切り詰めている感じ?」
当たり前ではあるが、フルメンテ無しで稼働し続ける為には様々な機能を切り詰めた上で。更に新陳代謝に相当する機能を組み込む必要があり。
結果として純粋な戦闘力は低下してしまう。当然長い時間をかけて特定の個体が強化される可能性はあるが。それでもユニティという巨大なネットワークによる開発、改善、改良のサイクルを総合力で超える事はほぼ皆無だ。
『ですね、武装も廃材を利用した棍棒と―― 低出力のレーザー砲ですので』
「
右手に持った
フル・コンツェルトを片膝立ちにして、砲口を斜めに掲げる。
アイリスのアバター。その上に表示された
じりじりとレーダ上で獲物に迫る敵機をロックオン。発射と同時に位相ヴァルター機関の出力を戦闘レベルまで引き上げる設定に切り替えて――
本来なら、100tを下回る機体では受け止める事の出来ない衝撃を。位相ヴァルター機関の斥力で受け止めて。そのまま一気に加速する。
『へっ!? 砲撃!?
「こちら
一方的な通告と同時に、敵機に着弾を確認、1機撃墜。そして自分達を撃破可能な敵が現れたと理解した野生のAM達はディサイド達に向き直る。
『マッピングから、あと3、2、1―― 射線』
アイリスの透き通ったカウントダウンを合図に、トリガーを押し込む。
「よし、撃破!」
複数の隔壁が重なり合った間に生まれたコロシアムのような空間に突入したと同時に2発目を発射。低出力レーザーによる反撃よりも先に2機目を撃破する。
『あ、青いコンツェルト!? 』
相互通信が繋がった瞬間、表示されたのは糸目の中性的な顔立ちの人間だった。恐らくほぼ生身。だがそういった情報は今この瞬間重要なものではない。
『残りは1機――』
「なら、試す!」
レーザーを放ってこちらをけん制しようとする敵機に対し、ディサイドは位相ヴァルター機関の出力を上げて距離を詰める。
野生化した結果、機体の維持管理にリソースが割かれた結果。性能が低下したFCSでは一端の傭兵が駆るチューンナップされたAMの機動を追う事は出来ない。
『
「モーション、
最大出力で距離を詰め。そしてそのまま、左手に持った
断ち切れなければ指を離すつもりだったが想定よりも衝撃はずっと小さく。後部カメラで確認すれば、ぐらりと揺れた野生のレイブがそのまま横一文字に分かれて崩れ落ちていく。
「アイリス、索敵お願い」
『あ、あの…… え? こんなにあっさり、でヤンスか?』
「はい、そちらは無事ですか?」
警戒はアイリスに任せて、ディサイドは救助対象との会話を優先することにした。
『このヤンスド・ナンデーナ、傭兵様の強さに感激でヤンス!』
「感激よりも―― ふむ、やっぱり」
どうやら、ヤンスド・ナンデーナと名乗る―― 怪しい人物の駆るレイブは物資の回収に特化した仕様のようだ。バックパックに装備したコンテナユニットならば先ほど発見した装備を詰め込んでも更に余裕がありそうに見える。
「今の救援の代金代わりに、ちょっと運んで欲しいものがあるだが」
『しかし、アッシは無一文と言わずとも―― え? お金ではなく?』
「依頼を受けた訳じゃねぇし。その機体なら大型の武装を2つ行けるよな?」
一瞬、ヤンスド・ナンデーナは考えるそぶりを見せて。
『はい、その程度ならば喜んででヤンス!』
先ほどまで命の危機にさらされていたとは思えない胡散臭い笑みで、ディサイドからの要求を受け入れたのであった。
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:A+
入手パーツ
ウェポン:推定
ウェポン:推定
ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1≪NEW≫
整備費:500CASH
弾薬費:300CASH
依頼報酬:1000CASH
収支合計:200CASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:11240CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
・コネクション
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム
未登録傭兵:ヤンスド・ナンデーナ≪NEW≫
・保有装備
ウェポン:
ウェポン:
ウェポン:推定
ウェポン:推定
ウェポン:推定超高出力レーザー砲(未鑑定)×1≪NEW≫
ヘッド:コンツェルト(ライテック社)
ヘッド:レイヴ(ライテック社)
ボディ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:レイヴ(ライテック社)
To be continue Next MISSION……
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