MISSION03:任務予定外交戦
『はっはっはっはっ! 一応警告しますが。撤退するのであればユニティの交戦規定に従い追撃は行いませんが撤退しませんよね? はい! ロック確認撃ちます!』
「――なんなんだ!? あのピンク色のAM!」
廃墟の空を桃色の閃光が舞う。
つい30秒前までは何の問題もない
『――
「アイリス、詳細は!?」
空から叩き落される
『傭兵登録歴16年、AM撃破数274機。
「それにしちゃ、声が若い―― けどよ!」
軽口を返す間にまた1機、味方のAMが撃破される。
「16年、このペースで―― 274機で済むか?」
『あくまでも確定記録ですので、未確定を含めれば増えるかと』
そもそも、空を飛べるという時点で随分な規格外。恐らくボディにイカロスか、あるいは脚部をヘルメスにしているかのどちらかだろう。
「機種の同定はいけるか?」
『ジャミングで型番は読めません。性能からの推定は――』
「イカロスボディか、ヘルメスレッグを検索条件に追加!」
揺らいでいたアセンブル推定結果が、その一言で収束していく。
『――照合精度、75%を下回りました』
「無いよりはマシか、あとは随時実測値で修正でいくぞ」
おそらくはパーツのチューンナップで対応しているのだろう。どちらにしろ勝ち目は低いのだが。何も物差しが無いよりは推定値でもデータがある方がマシだ。
『ふーむ、中々粘ります。ねぇ!』
軽い驚嘆を込めた言葉と共に、空中でブロッサムストームが踊り右肩に搭載した
「あんなもの、まで。かよ!」
ディサイドは位相転換式ヴァルター機関の出力を上げ、廃墟の大通りを亜音速でバックしながら空から打ち下ろされる砲弾を回避していく。
『味方機の反応は2機沈黙。3機離脱。現在戦闘状況にあるのは我々だけです』
『さて、どうしますか? 青いコンツェルト乗りの方! 正直大したミッションでもないですし私に襲われるデメリットを超えて続ける意味は無いのでは?』
最大速度で負けている、射程で負けている、火力で負けている。一般的に見れば詰みの状況。その上でここで退いても大して経歴に傷はつかない。
「アイリス、俺は戦闘を続行したい」
『その理由は?』
「この廃墟探索ミッションが完了すれば、ユニティの登録可能人口数が増える」
この地区の安全が確保されれば、ユニティが養えるホモサピエンスの数が増え。
自分のように番号も与えられず、スクラップを拾って僅かな食料を得るような存在がちゃんとした教育を受け。人間として扱ってもらえるチャンスが生まれる。
ブロッサムストームが何故この調査ミッションを妨害する依頼を受けているのか。また彼女が受けた依頼を発令したのが誰なのかはどうでもいい。
今ディサイドは、そういう裏の話を。戦場で勝てばひっくり返せる傭兵という立場にいるのだから。
『――リスクと、メリットが見合ってませんが』
「駄目ってこと、アイリス?」
『けれど、私の最終目標も、同じくらい非合理なものですので』
ブロッサムストームのリロードのスキを見計らい、下がるのを止め。位相転換式ヴァルター機関の出力を上げていく。
『ふむ、どうやら下がる気は無いようですね?』
「勝ち目は45%くらいはあるさ」
『そうですか、ならば死んでも文句は言わせませんよ!』
空を飛ぶ相手との
廃墟の大通りを位相転換式ヴァルター機関直結のスラスターで駆け抜けて。
『シールドなしで撃ち合いに勝てるとでも!』
「シールドは、ねぇがよ!」
ブロッサムストームの
『そう何度も使えない手です』
「この、一度で――!」
交差した瞬間、ギリギリ高度を下げたブロッサムストームが射程に収まった。
「装甲を削らず、それだけ飛ぶならっ!」
チェリーブロッサムの無防備な背中に突き刺さったプロペラントタンク。そこに残しておいた左手の
『くぅっ!?』
『敵機出力低下―― 少なくともこれまでの速力は維持出来ないかと』
「そりゃ、装甲も速度も維持するなら。そういうのがいるよなぁ!」
たとえエースパイロットであろうと、安易にAMの限界を超える事は出来ない。いや超える事が出来たとしても。それは長くは続かない。
仮に汎用品でないパーツを使ったとしても。得られる利益をコストが上回る。
傭兵が営利行動である以上、逃れられないジレンマがそこにあるのだ。
少なくとも、自分達のように正面戦闘に特化した傭兵ならば手も足も出ずに一方的にこちらを狩れる相手と戦場でぶつかる可能性は限りなく無視出来る。
『ですが、まだまだ!』
プロペラントタンクを失い、高度を下げたブロッサムストームが。華麗なターンを決め。地に足を突き。今度はディサイド達と同じ廃墟の大通りを駆け抜けて向かってくる。
『この状況で、
「難しい、が―― 確率は0%じゃねぇ」
細やかな制御はアイリスに任せ、ディサイドは右手の
『――まさかっ!』
APFSDS弾とは、爆発的な運動エネルギーをその先端に収束させ、装甲に垂直に叩き込まれた時にユゴニオ弾性限界によって貫徹する為の砲弾であり。
つまるところ十分な強度がある刃を振るい、その先端以外を切り払って、その莫大な運動エネルギーのベクトルをへし折れば、無力化することが出来る。
「68%くらいは、駄目だと思ってたが!」
衝撃で廃墟の建物に残った窓を砕きながら。牽制の砲弾を切り払い、本命の砲弾を余裕をもって回避する。
『ですが、そんな曲芸に二度も三度も頼れませんよ!』
『警告、多く見積もって弾頭の切り払いはあと1度が限度』
ブロッサムストームの声と、アイリスの警告が交わる中で。ディサイドは操縦桿を前に押し込む。
「それで、十分!」
だが、
『もう、武器はないですね! 死ねぇ!』
通信機の向こうから、ブロッサムストームのハイテンションな死刑宣告に。
「悪いな、もう一つ!」
折れた
勢いを殺すことなく突っ込んで、そのままチェリーブロッサムを押し倒し。飛行を考慮していない分、質量ではギリギリコンツェルトの方が上回っている。ガリガリとアスファルトを削りながら、喉元に強引に銃身をねじ込めば。
路面に半ば埋まった、桃色のAMの
「警告する。ここで投降するならユニティの交戦規定に従い適正な――」
『はい、投降します。いやぁ、運が悪かった。はっはっはっは!』
ディサイドが警告を終える前に、ブロッサムストームは投降信号を発信。その上で両手の
「随分と、潔いな。ブロッサムストーム」
『まぁ、勝ち負けは傭兵の常ですので。それはそれとして――』
通信ウィンドウに少女の顔が映る。16年傭兵をやっているとは思えない。下手をすればディサイドとそう年も変わらないようにも見えた。
ウィンドウの隣でむっとする儚げで影があるアイリス。ブロッサムストームの持つ強い自己主張。そのコントラストにディサイドは少しだけ気圧される。
『傭兵番号と、名前を教えて貰っても?』
「理由は?」
『貴方に興味を持ったので。ああ嫌なら別に大丈夫ですけど』
画面の横でアイリスは、ディサイドが決めてよいとメッセージをだしている。少しだけ少年は悩んで――
「
『ではこちらも
名乗り返して、ブロッサムストームは画面の中で。
『まぁ、知ってはいると思いますが。が、一応礼儀という奴です』
そう言い切って小さなモニターの中で胸を張り。その無尽蔵の自信というか自己肯定感をディサイドは少しだけ羨ましいと感じる。
『もし、次の戦場で味方になったら。頼りにしますねディサイドさん』
「敵になったら?」
『容赦はしませんよ?』
あまりにもすっぱりとした物言いに、ディサイドは小さく笑みを浮かべた。今回の依頼料を考えれば完全に赤字だが。それでも―― こんな風に勝てたのならば少しくらいは胸を張れると。思えたのだから。
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:B-
整備費:500CASH
弾薬費:1010CASH
依頼報酬:3000CASH
収支合計:1490CASH
□□□―――STATUS―――□□□
ユニティ登録番号:個人情報により非開示
ユニティ登録名称:ディサイド
所属:傭兵組合
傭兵登録番号:0874
性別:男
年齢:18
総資産:11240CASH
・所持スキル
AM操縦免許
傭兵免許
基礎電脳操作技師
・コネクション
No.7787:ニアド・ラック
No.0666:ブロッサムストーム≪NEW≫
・保有装備
ウェポン:
ウェポン:
ヘッド:コンツェルト(ライテック社)
ヘッド:レイヴ(ライテック社)
ボディ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:コンツェルト(ライテック社)
レッグ:レイヴ(ライテック社)
To be continue Next MISSION……
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