MISSION02:重戦車隊殲滅作戦



「へぇ、お前が最近噂の新人登録傭兵ルーキーナンバーズ。名前は確か――」


「ディサイドです、よろしくお願いします」



 その名乗りに首にかけたカードストレージの中で、アイリスがため息を付いたが。自らの意志でディサイドと名乗ることを決めた少年はそれに気づかないふりをする。


 コンクリート打ちっぱなしの格納庫の中、自分の愛機を含めた数機のAM。


 その間を傭兵組合マーセナリーズシップに所属する様々な姿をした整備員が脚や車輪で駆け回る光景が広がっていて。自分が巨大な生物の一部になってしまったような錯覚をディサイドと名乗ることを決めた少年に沸き上がらせる。


「っと、俺は傭兵登録番号7787。ニアド・ラックだ」


「名前から、ナンバーを狙って?」


「ああ、7777程じゃないが。結構競争率が高くて大変だったぜ」



 実際、ゾロ目や1桁ナンバーの競争率は高い。ディサイドのように仮登録された番号をそのまま使う人間も少なくはないが。腕がいいと呼ばれる傭兵は多くの場合こだわりを持って番号を取得する。


 場合によってはただの数字を巡ってAMで決闘じみた真似をする傭兵もいると聞いたこともあるのだから。人によってはまぁ大事なのだろう。



「おおっと、ログを確認したいか?」


「一応、マナーとして。こっちの方も確認をお願いします」



 タブレットを軽く触れ合わせ、相互に開示できる傭兵履歴を確認していく。ディサイドが見る限り、ニアド・ラックという傭兵は傭兵組合マーセナリーズシップから発令されたミッションの経験が多め。特定の企業への依頼の偏りは無し。


 対AM戦経験は多くもなく、少なくもなく。信頼できる経歴の持ち主だと思える。



「まだ実戦でのAM戦の経験はないが―― 1か月でドローン撃墜数100か」


「慣れるために、30%くらいの気合でいける仕事を多めに回しましたから」



 実際、3日に1回の出撃なので1度のミッションでの撃墜数は10機前後。平均と比べやや多めの数字だが無茶もしていない。



「まぁ、新人の方針として分からなくはない。けどよ、30%?」


「それくらい余裕をもってって感じです。それで、次のミッションは?」


「癖が強いが、分かりやすいか? よろしく頼む」



 契約成立の意味を込め、二人は軽く拳をぶつけあう。


 18歳のディサイドよりも、ニアドの方が二回りほど背が高く。ちょっとだけ羨ましいと感じる。まぁその気になれば身長なんて幾らでも弄れる以上、大した意味はないのだが。


 そもそも彼が身長を弄っていない生身のホモ・サピエンスであると限らないし。確率から考えれてむしろその可能性はそこまで高くない。


 それこそ主観クオリアを得たAIが培養義体フレッシュを使っている可能性だってゼロではない。


 まぁ今の時代、その由来が何であっても主観クオリアテストに合格し。ユニティに登録されて番号ナンバーを得られれば人間として扱われるのだから大した意味は無いのだが。


 そんなことを考えながら、ディサイドは愛機に続くタラップへと足を向けた。



◇◇◇ Mercenary on the move...... ◇◇◇



『さて、ディサイド。手早く行こうか。状況は?』



 広がるのはいつもの荒野、天気はやや曇り。もしかすると雨がふるかもしれない。


 そんな少々湿度が高い戦場を2機のAMが巡航速度で突き進む。



「複数の飛行、地上ドローンに守られたユニティ未登録の重戦車タンクが5両」


『まぁ、この辺りの都市にとっちゃ無視できない。それこそ傭兵を雇う位にはな』



 ニアドのアセンブルは安価だが、コストパフォーマンスの良いオークタイプのボディとレッグに。上位機種のオーガタイプのヘッドを乗せた堅実なものであった。


 速度は当然、軽機関銃ライトマシンガンを中心に、重自動拳銃ヘビィモーゼル重長剣バスタードを装備したディサイドの駆るフル・コンツェルトに及ばない。


 しかし、その重厚なボディから生まれる積載量を生かし。背面のオプションユニットに装備したアサルトパックによって360mm重長砲バスタードカノンや18連装スクエアミサイルランチャーといった火力を重視。


 それを補う形で、右手に軽機関銃ライトマシンガンを構え。万が一の接近戦に備えて腰のウェポンラックに炸裂槌インパクトハンマーを装備しているのも信頼できる。


 更に両腕部にシールドユニットを装備しているのだから完璧だ。ディサイドが戦った場合、勝てる余地は0%。何をどうしても詰みになる。



「都市の私兵や騎士ではなくて、傭兵を使うのは?」


『複数の組織の共同管理地域、ヘタにどこかが戦力を出すよりもって話だ』



 確かにパッと見、資源もなくその上で下手に支配すれば他の組織と隣接してしまう領域エリアで下手な事をしたくはないという考えは理解出来る。



「事前に確認していた通り、99%裏のない依頼ミッションと」


(ですね、本来ならニアド・ラック一人で対処できなくもない)


(けれど、安全余地マージンの為に俺達って事だ、アイリス)



 こっそりと、コンソールの画面に開いた雑談タブチャットで少年はアイリスと内緒話を繰り広げる。彼女自身の存在を表に出したがらないのだから、仕方がない。



『そういう事だ、ディサイド。飛行ドローンの制圧を頼めるか?』


「支援射撃を行ってもらえるなら」


『勿論、ログ見る限りやってやれなくはないだろうが――』



 がちゃりと、ニアドは乗機であるオークヘッドの右肩に装備した360mm重長砲バスタードカノンを展開。巡航速度とはいえ、移動しながら大型火器をスムーズに展開できるところに彼の技量が感じられた。



『AM単機で重戦車タンク5両に無支援で突っ込ませる無茶はさせねぇ』


「俺が新人ルーキーだからですか?」


一人前ベテランでも、やりたくないからだよ。タイミングは任せる』


「了解! 傭兵登録番号マーセナリーナンバー0874、交戦開始エンゲージ!」



 交戦宣言と共に、ディサイドは愛機の操縦桿を強く押し込めば。フル・コンツェルト特有の統一構築から生まれる滑らかな動作で加速していく。



『ターゲットロック、相棒バディ―― いいえ、ディサイド』


射撃管制、移譲ファイアコントロール、ユーハブ!」


射撃管制移譲、了解ファイアコントロール、アイハブ



 飛行ドローンへの対空砲火をアイリスに任せて、ディサイドは機体の安定と地上の敵の脅威優先度を設定していく。


 AIと生身の人間、特製の違う2種類の知性が。相互にサポートとメインを切り替えながら戦闘を続ける。


 一般的には効率が悪いとされているが。少なくとも現状におけるディサイドとアイリスにとっては最適解の一つ。


 両手に構えた2丁の軽機関銃ライトマシンガンから、景気よく吐き出される弾丸が宙を舞う球体のドローンを1つ、2つと撃破していく。



『やはり、重自動拳銃オートモーゼルと比べると。対撃墜費用が』


「時間効率が変われば、こちらの被弾率も下がる。それに今回は――」


 

 ディサイドが操縦桿を捻り、緊急回避。


 その直後、二人が駆るコンツェルトがいた場所を360mm重長砲バスタードカノンの斉射が貫いた。



「ニアドさんの砲と同じ――」


『火力の差は1対5ですね』


「まぁ、だが。それなら!」



 着弾個所から砲撃位置を推定。ついでに周囲の観測ドローンの位置から重戦車タンクの位置を予測し。ニアドに送る。



『っと、ありがたい。生データでも計算は出来るが』


「どうです? 届きそうです?」


『そりゃ勿論――』



 通信機の向こうで、ニアドがニヤリと笑うのが見えた。



『伊達や酔狂で、AMに砲を背負わせてるわけじゃねぇ』



 その言葉が終わる前に低い衝撃が、高機動中のディサイド達の愛機青いコンツェルトを揺らす。



『ヒット! データを回して貰った分。初弾から当てていけた』


(これならこのまま押し込んで終わり、想定より楽な仕事になりそうです)


(そういうこと言うと―― 増援とか来そうだな)



 状況が上手くいきすぎている時に訪れる嫌な予感。あるいは物語によくあるお約束に基づいた予測を口にしたが――


 結果として、ディサイドの悲観的な予測は外れ。アイリスの楽観的な期待の通り特に余計な事も発生せずに。スムーズにこのミッションは完了した。



□□□―――RESULT―――□□□


MISSIONRANK:A+


入手パーツ

ウェポン:360mm重長砲バスタードカノン×1≪NEW≫


整備費:300CASH

弾薬費:540CASH


依頼報酬:5000CASH


収支合計:4160CASH



□□□―――STATUS―――□□□


ユニティ登録番号:個人情報により非開示

ユニティ登録名称:ディサイド

所属:傭兵組合

傭兵登録番号:0874

性別:男

年齢:18(自己申告、ユニオンでのログは傭兵登録時より記録開始)


総資産:9750CASH


・所持スキル

AM操縦免許

傭兵免許

基礎電脳操作技師


・コネクション

No.7787:ニアド・ラック≪NEW≫


・保有装備

ウェポン:軽機関銃ライトマシンガン(ノンブランド)×2

ウェポン:360mm重長砲バスタードカノン(ノンブランド)×2

ウェポン:重自動拳銃オートモーゼル(ノンブランド)×1

ウェポン:重長剣バスタード(ノンブランド)×1


ヘッド:コンツェルト(ライテック社)

ヘッド:レイヴ(ライテック社)

ボディ:コンツェルト(ライテック社)

レッグ:コンツェルト(ライテック社)

レッグ:レイヴ(ライテック社)


To be continue Next MISSION……

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