カスタマイズド・マーセナリーズ
ハムカツ
CHAPTER-01『First Step』
MISSION01:傭兵登録試験
『さて、ようやくここまで来ましたね。気分はどうですか?
「悪くはないな、体感的な調子は88%といったところだ」
暗く閉ざされた操縦席の中、液晶画面に次々と
『体感的なものなら、四捨五入して90%にしても良いのでは?』
「ややテンション上がってるしな、2%を引いたんだよ。アイリス」
そう少年は首から下げたカードに向かって話しかけ、そのままそれを操縦席に据え付けた
その瞬間、彼を包み込む3面のモニターにブロックノイズが走り。目で追い切れない程に表示されていた情報が整理され、その隙間に青と白で彩られたサイバーロリータなドレスを纏う少女のアバターが現れる。
長い手袋と、ロングブーツ。頭以外の肌を全て隠しているというのに。妙にどぎまぎさせてくるような色気を感じるが、スケベ心をくすぐられるよりも、少年は揺れるポニーテールを触ってみたいと思う。
けれどいくら
親のようで、姉のような共犯者。戦場跡でのジャンク漁りの最中、彼女と出会ったことで彼の歩むべき道筋は随分と変わってしまったと思う。
だが、後悔は0%。何故ならば彼女との出会いで彼の人生は100%良くなった。
ずっと一人でジャンクを拾い続ける人生よりもずっとマシで、何より彼女によってどうしようもなく色味が無かった世界に鮮やかに色づいたのだから。
『はい、アームドマキナのアセンブルも―― こちらの注文通りですね』
「フル・コンチェルトなんて、無茶苦茶恵まれてるんだよなぁ」
フル・コンチェルト。先ほど乗り込む前に見た、青い人型を思い出す。全長13mの中型機で、鋭い
仮にこの機体を売り払えば3年は遊んで暮らしてお釣りが来る。
『これはあなたという優良物件に対する初期投資でからす。
「出会ってからずっと投資されてばかりな気がするんだけど」
アイリスに軽口を叩きながら、機体構成のチェック。
ヘッド、ボディ、レッグ。全てライテック社の
それなりの機動力と、必要十分な装甲。汎用性が高く、どんな戦場にも対応出来る
それにノンブランドの
欲を言えば
どうしても
『私があのまま動けず消える可能性があった以上。恩人でもありますから』
「つまり、お互いさま…… というには76%くらいそっちに頼りきりな気がする」
『24%の内訳を聞いてみたいとも思いますが――』
ウィンドウの中のアイリスが、優しい笑みを浮かべる。
「残念ながら、全部語る前に試験が始まる。また後でだ!」
『そのとおりですね――
「
『ああ、それは私です』
「なるほどね、管理者権限による
強制的に外付けのカードリーダで彼女を
タッチパネルの承認ボタンに指を乗せれば。主機の出力が高まるのと同時にモニターに無機質な格納庫が映し出されて、軽い衝撃。それと同時に視界がすっと5メートルほど高くなる。
操縦桿を軽く動かせば、視界の中で青色に染められた腕に、アセン通りに握られた
『試験官からの許可が出ました』
「
軽く息を吸い込んで、肩の力を一度抜く。扉の向こうに広がるのは数年前まで生身でうろついていた荒野の風景。
赤茶けた荒野と、青い空。
いつもより荒野は狭く、空は高く見えて。このまま地平線の向こうまで駆けていけそうな全能感に包まれる。
「通例通りなら、アグレッサードローン数機と、無人AM1機か?」
『その辺りは、試験官の裁量で決められるようですので』
操縦桿とフットペダルを押し込んだ瞬間、一気に少年が駆るAMが加速して。何度かシミュレーションで経験しているはずなのに。本番というだけで妙に胸の鼓動が高くなる。
「まぁ、何事も100%確実ってことはなし。油断はしねぇ、索敵!」
『レーダーに反応、ドローン。地上型、空中型。それぞれ3機』
「配置は―― 流石にこっちを包囲はしてないか?」
場合によっては、ちゃんと心づけを通さなければ裁量の範囲で難易度を上げる試験官がいるという噂も聞いていたが。先日顔を合わせた真面目そうな傭兵ギルド職員はそういった不正はしないタイプだったらしい。
レーダーには数キロ先に6機のドローンが警戒モードでこちらの前を横切る形で歩を進めている。
『表示された視野と射程はあくまで予想です、過信はしないように』
「それでも根拠が0%よりもずっといいし――」
更にもう一段出力を上げ、
ボディ背面、そしてレッグの太ももに組み込まれたスラスターに火が灯り。機体が一気に亜音速まで加速する。
「速度も、機動力も、こちらが上だからな!」
一斉にレーダの中で6機の光点がこちらに向けて加速する。
「空戦ドローンの目よりも、99%先に間合いに入る!」
右手に装備した
基本的にコストを重視した無人のドローンには位相転換式ヴァルター機関を搭載していない。その結果主動力はプロペラか脚部による歩行であり。スラスターによる三次元機動は限定的な物になる。
『
「アイリス、敵機種の同定。特に地上ドローンの武装だ!」
だが連射出来ないことを逆手にとって、それらの長物では採用の難しい銃身寿命を削る威力の高い弾頭を装備し、取り回しの良さを押し出せば戦える。
何より、それらと比べて本体価格も安く。弾薬の消費量も圧倒的に少ないのが財政的に余裕のない新人傭兵には有難い。
『――武装確認、マシンガンタイプ2、キャノンタイプ1』
「了解!」
更にスラスターの出力を上げれば、AMの心臓とも呼べる位相ヴァルター機関の回転数が高まり。ステルス性を無視した暴力的な咆哮と共に、機体が更に加速する。
ぐしゃりとキャノンを背負った球体のドローンの外郭が、荒野に飛び散った。
『キャノンタイプ1、マシンガンタイプ1撃破。残敵は――』
「2つ! そりゃ、70%くらいこっちに来るよな!」
少年の叫びと共に、レーダに位相ヴァルター機関の反応が現れる。
『
「武装は――
何より生身で何度も見上げて、襲われて、死にそうになった記憶が蘇り。直線で作られた骸骨のような姿に対し微かな恐怖を覚える。
「けど、スペックはこっちが上だ!」
『はい、恐れる理由はありません。まずは――』
「ドローンを、蹴とばす!」
セオリーに従うなら、
だが、
亜音速での戦闘機能を可能とする数十トンの機体を支える脚部の強度は、それこそよほど繊細なものではない限り打撃武器として十分な威力を誇る。
スラスターによる旋回に巻き込む形で、残っていた多脚ドローンを蹴り飛ばす。
『敵機からのロックオン、マシンガンによる射撃―― 来ます』
「カウンター! 合わせる!」
コンツェルトの性能は低い訳では無いが、それでも
それでも試験に受かるとしても、今後のことを考えれば避けておきたい。
故に選ぶのは、
「っし! 118%狙い通り! 腕が折れてちゃ撃てないだろう!」
狙い通りに
『敵機の右腕、中破。ちなみに18%の内訳は?』
「120%にはちょい届かないって話!」
片腕が半壊した状態で、十全な射撃を行える無人AIはそう多くない。そもそもクオリアを持たない弱いAIは機体が完璧な状態である事を前提としてルーチンが組まれているのだから。
もっとも、それは一般的な人間も同様で。だがそれでも少年とアイリスは人間の柔軟性とクオリアを持つ強いAIが協力することでそのラインを踏み越えている。
右腕を
「
『
アイリスに
亜音速の高速機動の中で、見る見るうちに敵AMとの距離が近づいて。
『第二射、止めます』
「わあったぁっ!」
システムの再構築を行い射撃姿勢を整えようとする敵機に、アイリスがトリガーを引いた
それで、間合いは詰められた。
「アイリス、残敵のチェック」
『――確認完了。残敵は0です。その上で試験の完了が通知されました』
「とりあえずは、合格…… か?」
『流石にこの結果で不合格を出せば、試験官権限を剥奪されると思いますよ』
そうアイリスが言い切る程の戦果。フル・コンツェルトという通常よりも高性能な機体で挑んだのは事実だが。それを用意するのも含めて傭兵の手腕と評価されるのが世の常だ。
「さて、それじゃ…… 決めないとなぁ」
『ええ、出会ってから3年。ようやくあなたの名前を呼ぶことが出来ますね』
「別に、無くても困らねぇよな?」
ため息を付きながら、そんな戯言を口にして。
『駄目です、私とあなたで世界を終らせない為に。ちゃんと名前を考えて下さい』
アイリスと名を持つAIは、困ったような笑みをアバターに浮かべるのであった。
□□□―――RESULT―――□□□
MISSIONRANK:A+
入手パーツ
ウェポン:
ヘッド:レイヴ(ライテック社)
レッグ:レイヴ(ライテック社)
整備費:300CASH
弾薬費:70CASH
依頼報酬:1000CASH
収支合計:630CASH
To be continue Next MISSION……
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