第22話 きさらぎ駅6

 そこは、その名のとおり日の光が通らない全くの暗闇空間だった。

 しかし、なぜか3人の周辺には明りが灯っており、そのおかげで足下の障害物もなんなく避けて進むことができた。


 登与が日巫女に尋ねた。

「おばあちゃん。さっきの術に引き続いて、私達の周辺を照らすような術を発動しているの。『日一族』らしい術だとは思うけれど。」


「いえ、私はなにもしていませんよ。これは、てらす君のおかげです。見てごらん!  神聖の光りです。さすが太陽の神の転生者ですね。」


 登与が先頭を歩いている彼を見ると、その体の回りから光りを放っていた。

 その彼が振り返って言った。


「あそこに線路が見えます。」

 地面の上を、ずっと向こうまで線路が続いていた。

 彼が放つ光が全く届かない距離まで続き、その先は暗闇の中に消えていた。


「これが闇の電車の線路ですね。てらす君、登与、とりあえずここに止って、電車を待ちましょう。電車が進んで行く方向にきさらぎ駅があるはずです。行方不明になった人々は、きさらぎ駅のそばにいます。」


「おばあちゃん、この場所でどれくらい待てば良いの。」

「ここは時間が止った暗闇空間、どれだけ待っても問題ありませんから、電車が来るまでずっと待ちましょう。」


「えっ―――てらす、あなたの能力で駅の場所を捜してくれない。」

「登与さん。この暗闇空間で僕の力を使えば、この空間を構築している灰目十郎にわかってしまいます。不意をついて、攻撃してくるかもしれません。」


「てらす君の言うとおりですね。今の段階では、暗闇空間に来たばかりの私達の方がとても不利です。戦いを始めるべきではありません。」

「てらすとおばあちゃんの言うとおりね、わかったわ。」


 その後、3人はしゃがみ込んで線路のそばで待つた。

 日巫女が積極的に、自分のこれまでの経験や一族に伝わる昔話などを話したので、小学生の2人が退屈することは全くなかった。


 2時間くらいが経過した―――

 

「おばあちゃんの話はとてもおもしろいから、いつまでも聞いていられるわ。

―――あっ、ちょっと待って。何か聞こえない!」

「そうですね、僕にも聞こえます。列車の音です。」


 闇の電車の警笛が聞こえ、その後、走行音が聞こえ始めた。

 それはだんだん大きくなり、とうとう、線路が暗闇に消えていた向こう側に光りの点が見え始めた。


 見え始めると闇の電車のスピードは速く感じられ、直ぐに、3人がいる場所の前を通り過ぎた。

 確かに先頭の運転席には人影が無かった。


「てらす、どう、乗客が乗っていたのかわかった? 私には見えなかったわ。」

「僕が見ても、乗客は乗っていませんでした。」

「今日は誰も、現実世界からさらって来なかったのかしら。」


 日巫女が言った。

「急ぎましょう。もしかしたら、今の電車は既にきさらぎ駅に連れて来られた人々を、黄泉の国に運ぶものかもしれません。」


 列車が進んだ方向を見ると、遠くの方で強い光りが灯った。

「あっ、駅の明りですね。きさらぎ駅でしょうか。」

「てらす君、登与、足下に気をつけて走りましょうか。」


 3人とも駅の光りに向けて、線路沿いに走り出した。

 やがて、駅の様子がわかる所まで近づいた。


 登与が驚きの声を上げた。

「あっ!!! 人が動いて、電車に乗ろうとしている」

 彼が言った。


「駅の周辺でだけ、止っていた時間が動き始めています。パニック状態できさらぎ駅に降りた人々の心理として、電車がまた到着したのを見せられると、乗り込もうとするのは当然です。」


「まずいですね。行方不明の人々がみんな黄泉の国に運ばれてしまいます。どうやっても、止めなければいけません。てらす君、あなたの能力を使うしかありません。灰目十郎に気づかれたら戦いましょう。」


 彼がうなずいた。

「今から、僕の神聖の力でこの暗闇空間を支配し、時間を止めます。」

 それから、彼は両手を複雑に結んで、特別な印を結んだ。


「ヒカリヨ、ヒカリ、ワガヒカリ。カガヤケ、カゲヤケ、カガヤケ!!! コノクラヤミヲ シハイシロ!!! 」

 両目は今まで以上に強い、神々しい黄金色に変わった。


 その瞬間、暗闇空間の全てが現実世界の昼間と同様、明るい光に照らされた。

 彼が空間内を支配すると同時に、きさらぎ駅で動いていた時間も止った。

 その結果、電車に乗り込んでいた行方不明の人々の動きも止った。




 

 






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