第23話 きさらぎ駅7
光りが暗黒空間の全てを照らした時、空間内に大きな声が
「見事でございます。我が
電車の上に立つ人影があった。
白髪の交じった頭髪を短く刈り上げた背の高い男が、天てらすに向かって一礼した。どことなく以前見たような人物だった。
「黄泉の国の宰相、灰目十郎でございます。私が構築した完璧な暗闇の世界を光りで照らし支配するなんて、アマテラス様以外に行うことはできません。まだ、人間の子供のお姿ですが、お健やかに成長されていらっしゃいますね。」
「あなたは、
「黄泉の国が、人間の現世を征服するという崇高な目的に反対する者は、命を奪い排除しなければなりません。しかし、咲希は我が姪、妹の娘ですから、捕縛するだけに留めたのです。肉親に対する私の温情です。」
「黄泉の国がなぜ、人間の現世を征服しなければならないのですか。お互いに認め合い併存する道は選べないのですか。人間の多くは、亡くなられた死者を敬い、いつまでも忘れないように慰める祈りが今も日常的に行われています。」
「アマテラス様が、黄泉の国が人間の現世と併存するとおっしゃるのですか!!! そうか、わかった―――」
十郎は彼のそばにいた日巫女を見た。
「日巫女よ。お前がアマテラス様に嘘を吹き込んでいるのだな。」
「私は嘘など吹き込んでいません。アマテラス様は人間のことを最も大切にする優しい神です。ですから、このように人間に転生されています。」
「『日一族』の長である日巫女と『闇一族』の宰相、序列2位の私とでは、どこまでいっても意見は平行線だな。………アマテラス様、あなたの力に敬意を表して、今日はこれで失礼致します。また、お会いしましょう。」
十郎がそう言い終えた瞬間、闇の電車の中が暗闇になり、電車が少しずつ動き始めた。
中には既に、行方不明者の半数が乗り込んでいた。
「また
日巫女が怒りを言葉にした。
「おばあちゃん。電車の中に乗ってしまった人々が黄泉の国に連れていかれてしまう。どうすれば良いの。」
日巫女は彼に申し訳なさそうに言った。
「私がついておきながら、このような状況になってしまいました。申し訳ありません。てらす君は、さきほど暗闇空間全体を光りで照らして支配したことで、もう力は残っていないですね。無理をお願いできません」
「日巫女様、僕の方こそすいません。どこか気を許していたので、闇の電車の中の空間の支配を奪い返されてしまいました。相当数の人が黄泉の世界に連れていかれてしまいます。ですから、僕は力を振り絞り闇の電車を止めます。」
「てらす、あなたの体は大丈夫なの。おばあさんが言ったとおり、これで十分です。行方不明者の半数は黄泉の電車に乗らずに、ここのきさらぎ駅に留まっているから、現世に連れ戻せるわ。」
「日巫女様も登与さんも僕のことを心配してくれて、ほんとうにありがたいです。でも、僕は自分の義務を果たしたいのです。―――やってみます。」
その後、彼は先ほどより更に両手を複雑に結んで、特別な印を結んだ。
「ヒカリヨ、ヒカリ、ワガヒカリ。カガヤケ、カゲヤケ、カガヤケ!!! コノクラヤミヲ カンゼンニ シハイシテ コワイシテシマエ!!! 」
両目は極めて強い、狂ったような黄金色に変わった。
それを見ていた日巫女が驚愕して言った。
「てらす君、アマテラス様、狂い怒れる神になってしまわれる!!! 登与、あなたも助けてください。神をなだめるのです。」
日巫女と登与は急いで『日一族』に伝わる神をなだめる詠唱を2人で声を合わせて行った。
「ヒカリテラス、アマテラス。ココロヤサシク イカリヲ シズメタマエ。シズメテマエ シズメタマエ!!! 」
やがて、暗闇空間の全てが壊れた。
闇の電車やきさらぎ駅もなくなり、現実世界の三州鉄道大林駅の前に、行方不明だった大勢の人が倒れているのが見つかり大騒ぎになった。
大林駅のそばに、別の暗闇空間が作られていた。
その中に消耗しきっていた天てらす、日巫女、登与が寝かされていた。
それは、遅れて駆けつけた夜咲希が作ったものだった。
意識を失っている天てらすの額をなでながら、咲希は言った。
「お疲れ様でした。あなた様は遙か昔から、自分の果たすべき義務を必ず果たす立派な方でした。そんなあなたを、私と姉は命をかけて愛し続けています。」
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