第21話 きさらぎ駅5

 日巫女に連れられて、天てらすと登与は伊浜駅で新幹線を降りた。

 灰目十郎と3人で戦うつもりだった。


「日巫女様、まず三州鉄道の全線に乗ってみて、暗闇空間が接続し闇の電車が分かれている場所を確認したいのですが。」

「そうですね。何か違和感を感じる場所を3人で捜してみましょう。」


 三州鉄道は、伊浜市郊外の東鹿島駅と都市部の伊浜駅とを30分強で結ぶ、全18駅の私鉄である。都会の私鉄とは異なり駅の間の距離も短く、電車のスピードも比較的にゆっくりしている。


 まだ、お昼を過ぎたばかりで、会社や学校からの帰宅時間ではなかったため、乗客も少なかった。


 登与が言った。

「のどかな風景が広がるのね。こんなに平和な日常の中で『闇の一族』が人間を連れ去っているなんて信じられないわ。」


「僕が神の物見の場所で見たのは、三州鉄道が中心部のビル群や住宅地を抜けて、田園地帯にさしかかった場所で、闇の電車の線路が引かれた暗闇空間が接続していました。」


「そうすると、風景の変化に注意していなければならないわね。ぼーっと窓の外を見ていると眠くなってしまうから、十分に注意が必要ね。」

 

 電車内にアナウンスがあった。

「次は大林、大林です。お出口は左側です。」

 

 その瞬間、3人がほとんど同時に強烈な違和感を感じた。

 

 日巫女が言った。


「てらす君、登与。次の駅で降りてみましょう。理由はわかりますね。」

「はい。」

「はい。」


 電車が次の大林駅に停まるとともに、3人は電車から降りた。

 回りは全くの田園地帯だった。


 登与が言った。

「咲希さんから大切な情報をもらっているわ。現実世界に暗闇空間を接続させるためには、その場所に黒曜石を星形に埋め込む必要があるということよ。」

 

 咲希は体の調子が悪く、今日は一緒に来なかった。

 それを聞いて日巫女が言った。


「黒曜石は地面に埋められています。でも駅の周辺で穴を掘って黒曜石を掘り出すことはできません。駅員に怒られてしまします。何か良い方法はないでしようか。」


「黒曜石は、さまざまなエネルギーを集中させるために使われているのだと思います。僕が光りの粒子を飛ばせば、この周辺のエネルギの流れに乗って黒曜石の場所に引き寄せられると思います。」


「良い考えですね。てらす君お願いします。」

「はい。はんとうに小さくて弱い光の粒子を飛ばすので、普通の人間には見ることができませんから、通行人を驚かせないです。」


 彼は右手で円の形に印を結ぶと口の前に動かし、ふーっと息を吹いた。

 すると、たくさんの光りの粒が駅の周辺に現われた。

 やはり、霊力がある3人以外の通行人には、全く見ることができないものだった。


「とてもきれいね。光りのイリュージョンみたいね。」

「登与。見とれていないで、光りの粒子がどのように流されているのか、しっかりと追うのですよ。」


 そのうち、周囲の空間に漂っていた光りの粒子が、駅に隣接する公園のベンチに集まり始めた。

 

 彼が指摘した。

「あそこです。」

 3人がベンチに近づくと、その下には光りの粒子が星形に集まっていた。


「おばあちゃん。ここに黒曜石が埋まっているのだけど、どうすれば良いの。」

「暗黒空間との境を開き、中に侵入します。『日一族』に伝わる秘術を使って『闇一族』ではなくても中に入ることができます。」


「なんで『日一族』がそんな秘術をもっているの。」

「『闇一族』との長い戦いの中、必要に迫られて御先祖が編み出したのです。」


「それでは行きましょうか。てらす君、登与、何が起こるのかわからないから十分に注意しましょう。」

 それから、日巫女は踊りながら詠唱した。


「光りは照らす、この世の全てを明るくするため。光りが照らさない暗闇。この世のことわりに反するものを滅するため、光りの巫女である私は侵入する。アケヨ、アケヨ、アケヨ、私の命を聞け。えい!!!」


 すると、ベンチの下に埋まっている黒曜石から黒い柱のようなものが立ち上がった。

 それはよく見ると、暗黒空間がのぞいている境だった。


「さあ、この隙間から入りましょう。」

 日巫女を先頭にして、天てらすと日登与はその後に続き、暗黒空間に入って行った。


 暗黒空間の中は普通の人間にとっては時間が止っている世界だが、霊力の高い3人はその中でも普通に歩くことができた。


 


 





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