第20話 きさらぎ駅4

 神の物見の場で見たことを、天てらすは日巫女に話した。

 

 日巫女が言った。

「時間が止った暗闇空間の中を走る闇の電車ですか、最後にはきさらぎ駅に停車して、そこに行方不明の人々もいるのですね。」


「おばあちゃん。『闇の一族』の仕業しわざであることは確かだけれど、私達の同級生の咲希さんのせいではないわ。あの子はこんなこと絶対にしないわ。」

「登与がそんなに真剣な顔で言うのだから、私はその言葉を信じます。」


「でも、咲希さんに会いに行こうと思います。あの暗闇空間には関係ないとしても何か知っているかもしれません。」

「そうね、てらすの家は彼女の家の近くなんでしょう。行ってみましょう。」 



 彼と登与は咲希の家の前まで来ていた。


 チャイムを鳴らしたけれど、誰も出て来なかった。

「留守かしら。咲希さんは、家族と一緒にどこかに行くために休んでいるのかしら。この時期に旅行なんておかしいわよね。」


「登与さん、本来やってはいけないことだと思いますが、家の中をのぞいてみます。」

「どうするの。まさか前にやったとおり、家の回りに侵入するのはだめよ。」


「大丈夫です。侵入はしません。咲希さんは霊力が高いから、神聖の力でこの家の中にほんとうにいないか確認してみます。」

「それならば安心。」


 彼はその後、夜咲希の家をじっと見始めた。しばらくすると、、彼の目が黄金色に輝き始めた。

「あっ。」


 彼が声をあげた。

「どうしたの。」

「この中に咲希さんがいます。でも、動けない状態です。」


「大変ね。助けなきゃ。どうすれは良いの。」

「咲希さんは何かロープで縛られています。――そうか、わかりました。」

 彼は手で印を結び詠唱した。再び彼の目が黄金色に輝いた。


「ヒカリヨ、アノヘヤヲテラセ。」

 太陽の光が束になり、2階の部屋の窓のカーテンの隙間から差し込んだ。


 彼が言った。

「ロープを切ることができました。今、咲希さんは動けるようになり、玄関に降りてきます。」


 やがて、家の玄関のドアが開いて咲希が出て来た。

 大変疲れているようで、よろよろとしていた。

「咲希さん大丈夫ですか。」


「てらす様、ありがとうございます。登与さんにも心配かけてすいません。」

 登与が聞いた。

「いったいどうしたの。何があったの。」


「叔父が訪ねてきて、三州鉄道の線路と闇の電車をつなげるための暗闇空間を作り人間を閉じ込め、やがて黄泉の国に連れていく計画を私に告げました。そして、協力するか、少なくとも邪魔をしないようにと言ってきました。」


「咲希さんはどう答えたの。」

「もちろん反対しました。場合によっては、叔父よりも強い力をもつ私がその計画を阻止すると言いました。」


「叔父さんの反応は、どうだったの。」


「私も油断していたのですが、術を使い月の光が染みこんだ糸で編んだ縄を動かし、私を縛ってすぐに出て行ってしまいました。」

 彼が言った。


「僕が神聖の力で部屋の中を見た時、咲希さんを縛っている縄に月の光を感じました。『闇一族』は月の光に弱いのですか。」


「黄泉の国で生まれ育つ『闇の一族』は、常に浴びている月の光を神聖なものとして、大変大切にしています。私は縄を切ることで、染みこんでいる月の光を破壊してしまうことはできませんでした。」


「自信がなかったのですが、僕は太陽の光を当てれば、染みこんだ月の光を消滅させることができるのではないかと思いました。もともと、月の光は太陽の光を反射したものですから。」


 登与が聞いた。

「ところで、その叔父って灰目九郎のこと。」

「いえ違います。同じ灰目ですが九郎の兄の十郎、黄泉の国の宰相です。」


「十郎は女王から宰相を任せられるほどの人物ですが、大きな欠点があります。」

「大きな欠点ですか。よかったら教えていただけますか。」


「常に攻撃的なんです。超攻撃的と言って良いのかもしれません。それで、叔父の言い方を真似ると、ちまちまと神かくしなどせず、闇の電車を走らせて多くの人間を連れ去り、みんな『闇の一族』にすべきだといつも主張しています。」


「そのようなことを考える黄泉の国の宰相の目的は何でしょうか。」

「最終的に、人間を全て『闇の一族』にするとともに、多くの人間が暮らしている今のこの世界全部を征服して、黄泉の国にしてしまうことです。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る