第19話 きさらぎ駅3

 ある日の学校の昼休み、日登与が天てらすに話しかけた。


「てらす。きさらぎ駅って知っている。」

「知っています。架空の話だと思っている人が多いですが、僕は、ほんとうの話だと思います。」


「おばあちゃんも同じ。私にほんとうの話だと言ったわ。それで、おばあちゃんがてらすに、お願い事があるそうなの。」

「日巫女様が僕に。どういう事でしょうか。」


「現実には無いきさらぎ駅に着いた三州鉄道は、ここから西にある伊浜市の私鉄でしょう。陽光山の神の物見の場から、そのあたりに何か異常がないか、調査してほしいそうなの。」


「わかりました。前に時間が止った家を見つけたように、注意深く調査してみます。明日の土曜日、陽光神社に伺います。」


「ありがとう。ところで、おばあちゃんがもう一つ気にしていたことがあったわ。『闇の一族』の咲希さんの様子はどうかって。私は普段と変わらないと答えたのだけど………実はとても元気がなさそうで心配しているの。」


「僕も同じ気持ちです。それに咲希さんは今日お休みですね。大丈夫でしょうか。」

「きさらぎ駅のことが片付いたら、彼女に聞いてみましょう。」



 次の日、彼と登与は陽光山の鳥居の前で待ち合わせた後、山頂の陽光神社の社殿の中で日巫女と会っていた。登与も同席していた。

 日巫女が言った。


「てらす君、私のお願いを聞いてくれてありがとう。実は、私を頼ってここ1か月の間に複数のご家族から相談がありました。三州鉄道の中で忽然こつぜんと行方不明になっている方々のことです。」


「行方不明の方が複数いらっしゃるのですか!」

「所轄の警察署からも御依頼を受けました。合理的、科学的捜査ではもう対応できないそうです。」


「そんなに大事おおごとになっているのね。」

 登与が驚いた。


「古来からある、神かくしに似ています。神かくしとは、1人の人間が一瞬できた空間の状況の中で、家族や周囲の人が目を離した隙にいなくなってしまうことです。しかし、今回の事件には異なることも多いのです。」


「三州鉄道という決まった空間、複数の人がいなくなっている点ですね。」

「そうです。」


「それと、あくまで推測ですが、『闇一族』の関与が疑われます。暗闇の空間へ人間を誘い込み、それから黄泉の世界に送る。」

「おばあちゃん、送られた人々はどうなるの。」


「特殊な儀式を受けて『闇一族』に生まれ変わるのです。」

「仮に『闇一族』の仕業しわざだとすると、行方不明の人々は、今、どこにいるの。」


「まだ暗闇空間に閉じ込められていると思います。時間が止った空間の中で意識が無い状態でいると思うのですが、早く助けてあげなければ。てらす君、早速で申し訳ありませんが神の物見の場で見てください。」



 彼は登与と一緒に社殿を出て、裏手の手洗い場に向かった。

 登与が聞いた。

「時間が止った暗闇空間って………咲希さんは関わっていないと私は信じるわ。」


「同感です。咲希さんは人を苦しめることができる人ではありません。もしかしたら、この頃とても元気がなかったことに、関係しているかもしれません。」


 手洗い場で手を清めながら、彼が言った。

「ここから続く神の物見の場は、この世界で理不尽なことで苦しんでいる人がいないかどうか、神が確認するために作られたのかも知れません。」



 彼は参道に踏み出し、神の物見の場に入って行った。

 陽光山がある都市の西には大きな川があり、その川の対岸に伊浜市がある。

 中心部と郊外を結ぶ三州鉄道の全線を視界に捕らえた。そして、現在から過去に時間がさかのぼった。


 予想どおりだった。

 三州鉄道からあたかも別の線が分かれているように、光りを完全にさえぎり時間が止っている細長い暗闇空間が見えた。


 彼は神聖の力をさらに高めて、暗闇空間の中を見た。

「闇の電車が走る線路が引かれている。そして駅がある。名前は――

『きさらぎ駅』!――」



 待っていた登与の目の前で、彼が姿を現わした。

「てらす、どうだった?」


「三州鉄道の線路から、闇の電車が走る線路が分かれています。暗闇空間が作られ、『きさらぎ駅』も見えました。それから数十人の人々が閉じ込められていました。」


「生きているのよね。」

「はい。」

「よかった。」

 




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