第17話 きさらぎ駅
下校時間になった。いつものように、天てらすと日登与は途中まで一緒に下校しようと校舎を出た。
登与が感づいた。
「あの女の子が後ろを歩いている。『闇一族』だけどなんとなく憎めない。きっと人に攻撃しようと思っていない。温かい心の持ち主だと直感的にわかったわ。」
「ひとりでとぼとぼと、寂しく歩いている雰囲気は可哀想です。登与さん、ここで待っていてください。」
彼は咲希の方に向かって走って近づいた。
「夜さん。家はどこですか。」
前を歩いていた彼がいきなり近寄ってきたので、咲希は大変驚いた。
「天てらす様が、この世界でお住みになっているお宅の近くです。私の両親が家を建てたばっかりなのです。お宅の近くだということは、近隣の住宅地図で後でわかりました。私のことは気になさらないでください。」
「僕と登与さんと、一緒に帰りましょう。」
「大丈夫ですか。天てらす様と一緒にいらっしゃる女の子は、私と反対の『日一族』ですね。『闇一族』がきらいではありませんか。」
「日登与さんはそんな子ではありません。あなたのことを『なんて思いやりのあることをするのだろう。心から尊敬する。』と言っていましたよ。あの時間が止った家の術をかけたのは夜さんですね。」
「さすがにもうわかってしまいましたか。あの女の子からは強い霊力を感じます。相当な力をおもちなんですよね。」
「日登与さんは日巫女様の跡取りですよ。」
「アマテラス様に仕え、影ながらお守りをする役目を負った日巫女の跡取りですか。その方が、私の術を知って心から尊敬すると言っていただいたのですか。」
そう言った時、咲希の顔が少し明るくなった。
「さあ行きましょう。」
そう言って彼は咲希の手を引っ張って歩いた。
咲希を引っ張って近づいてきた彼を見て、登与が抗議の声を上げた。
「てらす! 私にあまりしたことがないことをするなんて。そんなに長く私と手を結んだことはなかった! 」
彼は言った。
「そこですか。気になったのは。」
「そうよ。夜さん、転校してきたばかりで友達を作るのも大変でしょう。まず、私とてらすが友達になるわ。」
「ありがとうございます。日さんは私が『闇一族』であることをお気になさらないのですか。」
「全然――あの時間の止った家を作った人を、心の底から尊敬しているだけです。」
それから3人はいろいろなことをお喋りしながら帰宅した。
途中で、登与が違った道に分かれて帰る場所がきた。
「夜さん、さようなら。それから、今度からこの中では名字ではなく名前で呼び合いましょう。咲希さん。」
「うれしいです。登与さん。それから天てらす様は、私のことをなんて呼ばれるつもしなのでしょうか。朝、申し上げたように咲希と読み捨ててほしいのですが。」
彼は、登与の顔をうかがいながら言った。
「呼び捨ては良くありません。ぼくも咲希さんと呼ばさせていただきます。」
「呼び捨てが良くないとすると………」
「ほ、ほ、ほ、私が『てらす』と呼ぶのは特別だから良いのよ。咲希さんもてらすのことを『天てらす様』ではなく、せめて『てらす様』って呼んだら。」
「フルネームではなく、下の名前だけで呼ばせていただいて良いのですか。」
「はい、もちろんです。」
「ありがとうございます。てらす様。」
それから、彼と咲希は2人で帰路を歩いていた。しばらくすると、咲希が急に止った。
「てらす様。この場所で『闇一族』から攻撃を受けませんでしたか。」
「はい。受けました。咲希さんにはわかるのですね。」
「かなり強い術者が光り遮断の術を使った形跡がここに残っています。」
「灰目九郎という人に僕の回りを全て闇で囲まれましたが、灰目さんは数分で解いてくれました。」
それを聞いて咲希は大変恐縮した顔になった。
「ほんとうに申し訳ありませんでした。もう御存知かもしれませんが、灰目九郎は『闇一族』の序列第3位、私の叔父です。叔父は遠慮無く力を使ったようですが、やがて、てらす様の神聖の力に耐えられなくなったのですね。」
「咲希さんの叔父さんでしたか。でも、僕にはあまり悪い人には見えなかったです。」
「これからは、私、夜咲希も日登与さんと一緒にてらす様をお守りします。一応、公式には『闇一族』の序列第4位ですが、それは灰目九郎と灰目十郎、2人の叔父の顔を立ててのこと、黄泉の国の中の正式な序列は第2位です。」
「え――っ。」
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