第15話 時間が止った家
てらすと登与は、彼が神の物見の場で発見した家に調査しに行くこととなった。
その家は調べると、自分達が住んでいる地域から、30分くらいバスに乗れば行ける場所だった。
バスの中で並んで腰掛けている時、登与が彼に聞いた。
「なんで時間が止っているとわかったの?」
「見ている光景が変わらなかったからです。神の物見の場で見ると、現実世界の1年が1秒の間に過ぎていきます。でも、その古い民家だけが回りと異なり全く変わらず、老朽化しないでずっと新しいままなんです。」
「人が生きているって?」
「10年、100年、変わることのない家の中で何人もの人が動いているのが見えたのです。実際は影法師のように見えたのですが。」
「そう、でもそんなに異常な家だったら、なんで周囲の人が気がつかないのかしらね。」
「そこが、大変不思議ですね。」
しばらくすると2人は目標の家の最寄駅でバスを降りて、家に歩いて行った。
閑静な比較的新しい住宅街で、建てられている家々も流行の新しいスタイルのものばかりだった。
インターネットで位置をしっかり確認して、目標の家に近づいたが、その家が目の前に見えるようになると、2人とも大変驚いた。
回りの家々と全く違うとても古い民家で、周囲から完全に浮いていた。
「でも、外観は古い民家なんですけど木材や瓦が全くの新品で、今日完成した家だと言われてもおかしくないくらいです。このごろ古民家ブームもあるから、周囲の人が異常だと思わなかったのですね。」
「てらすが神の物見の場で見た時、どのくらいの期間、このくらいの新しさを保っていたの。」
「ぼくが見たのが3分ちょっとくらいでしたので、200年間くらいです。」
「人影が見えたのよね、今見える。」
「今は全く見えません。たぶん空き家だと思います。」
「どうする。」
天てらすはその家をじっと見つめていたが、やがて何かに気がついた。
「この家には、いくつもの止った時間が隠されています。たぶん、『闇の一族』の術が使われています。でも、悪い事は行われていません。むしろ、とても良い事が行われています。」
「なになに、てらす。『闇の一族』が良い事をしているのですって。どういうことか教えて。一応、わが『日の一族』の敵がしていることだから。」
「この家に重なるようにして3つの空間が隠されています。それぞれ、昔、大切な人を送り出した3つの家族が過ごした空間です。それぞれの家族は送り出した大切な人の帰還をこの家で待ったのです。」
「それで、どうなったの。」
「残念ながら、3つの家族とも大切な人と会えないまま、この家の中で亡くなってしまいました。」
「その空間を隠すのが、なんで良いことなの?」
「大切な人に会えないまま、大きな悔いを残して亡くなった家族の霊はこの場所に縛れて成仏できません。留まっている霊を静かに隠してあげているのです。」
「私の一族の敵なのに、なんて思いやりのあることをするのでしょう、心の底から尊敬するわ。」
「僕は、『闇の一族』が行った術を完成させようと思います。」
その後、彼は手で印を結び、詠唱した。
「コノヨニタダヨウ、マチビトニ、コノバショマデノミチヲシメセ。」
彼の目が黄金色に輝き、とても強い力を使ったようだった。
すると第1の光の道が、古民家から空中にかかった。
その空中の道に、若い武者の姿が浮かび降りてきた。
さらに古民家からは、赤ちゃんを抱いて着物をきた若い娘が登ってきた。
そして途中で会うと、とてもうれしそうに赤ちゃんを挟んで2人は抱擁した。
最後は、美しい色のたくさんの小さな光りの点になって登っていった。
次に第2の光の道が、古民家から空中にかかった。
その空中の道に、軍服を着た若い軍人の姿が浮かび降りてきた。
さらに古民家からは、年老いた両親が登ってきた。
そして途中で会うと、とてもうれしそうに3人は抱擁した。
最後は、美しい色のたくさんの小さな光りの点になって登っていった。
次に第3の光の道が、古民家から空中にかかった。
その空中の道に、スーツを着たビジネスマンの姿が浮かび降りてきた。
さらに古民家からは、2人の小さな子供と妻が登ってきた。
そして途中で会うと、とてもうれしそうに4人は抱擁した。
最後は、美しい色のたくさんの小さな光りの点となって点に登っていった。
登与が言った。
「てらす。アマテラス――なんですばらしい神様なの!!! 」
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