第12話 闇一族との遭遇4
その時、食堂の入口の扉が開き、がらがらっとした音とともに姿を現せたのは、とくさんだった。
「あれ、いつもどおり起きたつもりだったのに、お日様があんなに高く昇っている。老いには勝てないのかね、店が閉まっていたから帰ってしまったお客さんもいるかもしれな。すまなかったね。」
その後、とくさんは店の前にたたずんでいた母親と子供達に気がついた。
「あれ、ぼうや達、今日も来てくれたのかい。ありがとう。それから、お母さんもいっしょなの。元気になってほんとうによかった。昨日、ぼうや達がお母さんは寝込んでいると言っていたから、心配だったんだ。」
とくさんのことを2人の子供達はうれしそうに見た。
そして、母親は深くお辞儀をして言った。
「ほんとうに、昨夜は子供達に大変おいしい食事をいただきありがとうございました。ほんとうにすいません。子供達にはとても申し訳ないと重いながら、たった百円を持たせて、とくさんのお情けにすがらせていただきました。」
それ後、母親は1万円札を財布から出して、とくさんに返そうとした。
「このお金はお返しします。百円ではとても足りない値段の食事をいただいた上に、お金までいただくことはできません。」
とくさんは、優しい顔をして母親に言った。
「今日の朝、ようやく起き上がれるようになったのでしょう。それは収めてください。もし、もらうのが理不尽と考えているのなら、無期限で無利子で借りたことにすればいい。働き始めて余裕が出たら返してください。」
とくさんは腰をかがめて、2人の兄弟と視線の高さを同じにした。
「ぼうや達、学校が終わったら私の食堂に寄ってね。あまりそうな食材があったら持っていってもらいたいから。」
「わかりました。」
2人の兄弟は元気よく声をそろえていった。
「神職様。」
とくさんは、近くに立っていた日巫女にも声をかけた。
「私と私の食堂のためにお骨折りをいただいたのですね。昨日、寝ていた時、回りが黒いものでぎゅーぎゅーに囲まれ、暗闇に閉じ込められた夢を見ました。そのままだと消えてしまうことが直感でわかり、大変恐かったです。………
………どうすることもできず、自分では諦めかけていましたが、その時、強い光が私の方を照らしてくれて、暗闇から抜け出せる希望が湧いてきました。光りの中で美しく踊っている神職様の姿が見えました。」
日巫女は微笑みながら答えた。
「とくさんのお人柄は、この町を強く照らしている光りです。私は大切な光りを闇から守ることを指命としているものです。守ることができてうれしいです。」
とくさんや親子に別れをつげて、日巫女はバス停のベンチで帰りのバスを待っていた。
――
その時、長い髪を後ろに束ねた背の高い男が、同じバス停にきて大変疲れたようなそぶりでベンチに腰を下ろした。
「あ―――っ。」、「あ―――っ。」
同時に、日巫女と灰目の2人がそろって大きな声を上げた。
日巫女が言った。
「霊視でわかるは、あなたね。とよさんの食堂に昨日の夜、『光り遮断』の術をかけた人は。あなたの霊力がとても強いから、術を解くのに苦労したわ。」
「『九郎に苦労したわ。』…なんちゃって。お嬢さん、お褒めにあずかり心の底から感謝致します。私は『闇一族』の灰目九郎というものです。お嬢さんのおかげで、今から上司である黄泉の女王に大変なお叱りを受けるでしょう。」
「そうですか。大変ですね。言い忘れました、私は『日一族』の長を継いだばかりの日巫女と申します。我が一族の始祖、卑弥呼様に勝るとも劣らない霊力があると讃えられるものなのに、灰目様の力にあれだけ苦しめられるとは………」
「お嬢さんが日巫女ですか。でも、自分の力を疑われることは全くありませんよ。私は『闇一族』の序列第3位ですから、どの一族であれ一桁ナンバーの序列をもつ者の間では力はほとんど変わりません。」
「灰目様の上にまだお2人いらっしゃるのですね。今後の宿敵の一族について知りたいのですが、差し支えなければ教えていただけますか。」
「序列第2位は黄泉の国の宰相、灰目十郎…私の兄、兄弟の長兄です。そして第1位はもちろん、黄泉の国の女王様でいらっしゃる夜見様です。」
「灰目様、教えていただいてありがとうございました。」
日巫女はそう言い終わると同時に手を上げて、その前にタクシーが止った。
「私はグッドジョブでしたので、贅沢してタクシーで帰ります。」
日巫女は、直ちにタクシーに乗り込んだ。
「えっ、おじょうさん、せっかくバスで途中まで一緒に帰ろうと思ったのに。なんなら一緒にタクシーで………」
「運転手さん、すぐ出してください。灰目様、また会う日まで、さようなら」
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