第11話 闇一族との遭遇3

 とくさんの食堂は、昨日まで確かにその場所にあった。

 しかし、今日の朝になると建物が存在せず、さらに人々の記憶の中からも消えていた。


 いったい何が起こったのか全くわからず、母親と2人の子供は途方に暮れて立ちすくんでいた。


「どうしたのですか。」


 立ちすくんでいた親子はふいに声をかけられた。

 神職の衣装を着た若い女性で、かなり多くの荷物を古風な風呂敷に包んで持って立っていた。


 それは、若かりし時の日巫女だった。

 すがるような気持ちで母親が言った。

「神職様。信じられないですが。建物や人が一夜で消えました。」


「この土地で、暗い世界の特別な力が使われたようです。私は今日の朝、この場所に強く引き寄せられました。強い闇がここにあった建物や人、関係する記憶を覆ったようです。」


「とくさんという方が経営されていた食堂なんです。とくさんと食堂はどうなるのでしょうか。この子達が昨夜大変お世話になったのです。それから、いただいたお金を返さなければなりません。」


「とくさんですか。心の美しい方のようですね。そして、この町で苦しんで疲れ切っている人々を励ましていた暖かい光りだったのですね。」

「神職様にはわかるのですか。」


「私は直接、食堂にお邪魔してお会いしたことはありません。だけどこの町には、とよさんの暖かい光りに照らされた大勢の方の残留思念が、強く残っています。どんなに闇の術者が隠したとしても忘れられることはありません。」


 年長の子供が日巫女に強く訴えた。

「悪い人がとくさんと食堂を隠してしまったのですか、神職様、捜してあげてください。僕は心の底からお礼をいいたいのです。」


 年少の子供も、たどたどしい言葉で気持ちを強く現わした。


「昨日の夜、お腹がとてもとてもぺこぺこで死にそうだったけれど、ごはんをいただいてお腹いっぱいになり、生き返りました。お母さんにそれを言ったら、涙を流して喜んでくれました。ありがとうをしたいのです。」


 日巫女はそう言った子供の頭を、優しくなぜながら言った。

「お姉さんに任せて。お姉さんはかなり強いのよ。ただ、少し準備が必要なの。おとなしく待っていてね。」


 日巫女はそれから、土地の前に祭壇を作ると、土地の四方に盛り塩を置いた。

 祭壇の上にはさかきと銅鏡が供えられていた。

「たぶん、力は私の方が勝ると思うけど、相手もかなりの術者だわ。」


 用意が整うと、日巫女が榊を持ちながら舞い始め、唱え続けた。

 ――人が通るから恥ずかしい!でも、舞も加えなければこの闇は払えない。

「ヒカリヨ、ヒカリ、ヤミヲハラエ!………」


 日巫女の舞に応じて、銅鏡が少しずつ太陽の光を反射して光り出した。しかし、最初の内は全く反応がなかった。


 やがて、日巫女の舞が激しくなり、言霊を唱えている声も大きくなった。

 すると、とうとう銅鏡に反射した光が、とくさんの食堂を少しずつ映し始めた。



 灰目九郎は、同じ町内にある旅館に宿泊していた。

 「光遮断」の術により、とくさんの食堂を完全に闇で覆ってしまったことに、心から満足していた。


 昨日の夜から祝い酒を多く飲酒して、気持ちよく朝寝をしていたが、ある瞬間からそのようなことをしていられなくなった。


「熱い、熱い、あち――」


 九郎が自分の手を見ると、放射された光りの焦点があてられていた。

 ――これは、「日一族」の仕業だな。昨日、あの食堂に張った闇の御札に光りを    当てて燃やそうとしている。かなり手強い術者、もしかしたら日巫女か!


 このままでは日巫女に負けてしまうので、九郎は手で印を作り、光りの攻撃に対抗しようとした。

「ヤミヨ、ヤミ、ヒカリヲケセ!………」


 九郎の反撃の効力で、手にあてられた光りの焦点が少し弱まったが、相手は少しもひるまず、さらに光りの放射を増やしたようだった。


 光りと闇の力、しばらく一進一退が続き、どちらが勝つのか全くわからなかった。

 しかし、最後には光りの力が勝った。


「ダン!」

 九郎は、とよさんの食堂に貼った闇の御札と自分との連鎖を断ち切った。


 すると、とよさんの食堂がもともとあった場所に再び出現した。


 日巫女はそれを確認すると、舞を終えて、疲れきってその場に座り込んだ。


「やっと勝った。今が昼間でラッキーだったわ。光りの力が闇より強くなる時間だから。でもこれだけハンデキャップがあるのに、あれだけ強い闇の力を出すとは、『闇一族』でも女王に準ずるような序列をもつ者ね。」

 


 


 

 



 






 

 

 

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