第7話 神話小学校に入学して

 天てらすは、自分の家を学区とする神話小学校に入学した。少子化の影響で子供の数が少なく、小学校の児童を一定人数以上確保しなければならないため、その学区は通学が可能な範囲でかなり広くなっていた。


 陽光神社のある場所と彼の家は学区の北と南の端でぎりぎり入り、彼は登与と同じ小学校に通うことになった。


 さらに、2人は同じクラスになった。今日の朝も彼は一番早く登校して、窓の外をじっと見ていた。


「てらす、おはよう。今日も一番ね。」

「おはよう、登与さん。」


「この頃、毎朝いつも同じね。いったい何を見ているの。」

「あの家です。回りの家と比べて変な感じがします。」


「どういうふうに変なの。」

「暗いんです。あの家が反射する光はとても少ないです。」


「そう言われると、私の目にも、他の家と比べてほんの少しだけ、ぼんやりとしているみたいだわ。いいわ、今日の放課後、一緒に見に行かない。」


「大丈夫ですか。ぼくが変なことを気にしたばっかりに、帰りが遅くなってしかられませんか。」

「大丈夫、気にしないで。」



 放課後、彼と登与はその家の前にいた。


 近づいて見ると誰か住んでいる様子はなく、空き家か、長期不在のようだった。少し前のデザインで建てられた家だったが、維持管理は適正なようで外見上の老朽化や破損は見当たらなかった。


「何も変な所はないわね。」

 登与が拍子抜けしたような表情をした。

 一方彼は、ますます真剣な顔をして家のいろいろな場所を確認していた。


「反射される光が少ない理由がわかりました。」

 彼はそう言うと、いきなり鍵がかけられている門をよじ登り中に入った。


「てらす。まずいわよ。おまわりさんに怒られるわ。へたすれば逮捕よ。」

 そう言われたことを完全に無視して、彼は家の中で周囲を歩き出した。


「困ったわ、どうしよう。ちょっと待って。」

 登与も彼の後をつけて中に入った。しばらく歩くと彼は止って、地面に手をかざしていた。追いついた登与に、彼が言った。


「登与さん、ここが問題です。たくみに隠されているけれど穴が開いています。」

「見せて。」


 彼が指で示した所を見ると、確かに地面に直径十センチほどの穴が開いていたが、深さが全くわからなかった。


「この穴が光りを吸い取っています。かなりの量を吸い取っていますが、普通の人は全く感じることができません。」


「ところで、誰がなんでこんな穴を作って光りを吸い込んでいるの。」

「日の光は、たくさんの生命に活力を与えてくれる大切な役割を果たしています。それを大量に吸い込んでしまう穴を作ると、その結果として………。」


 彼は視線を少し遠くの地面に動かした。すると、そこにはたくさんの蟻や昆虫の死骸が散らばっていた。さらによく見ると、この建物の周囲には植物が全く生えていなかった。日陰でも育つ、生命力が強い雑草も全くなかった。


「僕はこの穴を消滅させます。」

 手をかざしたまま、彼は言った。


「ヤミヨヤミ、サレ、トジヨ」

 彼の手から不思議な光りが放たれ、地面の穴は閉じられた。


「てらす。今、言霊ことだまの術を使ったでしょう。おばあちゃんに教えてもらったことがあるわ。古代の人々はことばをとても大切にして、話す言葉に特別な力を与えることができる人々がいたと。」


「言霊の術かどうかはわかりませんが、さっきは無意識にしゃべっていました。」


 登与は思った。

 ――そうか、てらすは古代から何回も転生して、昔自分が使っていた力のことを想い出したのね。


 天てらすが言霊の力を使って、闇の穴を消滅させた瞬間、親和小学校の校長室で椅子に座っていた校長の八田香良洲やたがらすが反応した。


「今、この小学校の近くに仕掛けられていた闇の穴が消滅した。とても深くて冷たい穴で、私は一週間かけて消滅させようと思っていた。しかし、ほんの一瞬で消滅させた者がいた。これほどの力を使えるのは、まさか!」


 次の日の朝、全校集会が開かれていた。

 校長の八田が児童全員に話しかけていた。


「ところで皆さん、いっぱい遊んで冒険したいと思いますが、少なくとも危ないことは止めてください。たとえば、どんなに面白そうで興味を引かれたとしても、知・ら・な・い・家・に・忍・び・こ・ん・だ・り………」


 強調して話した瞬間、反応が2つあった。

 即座に校長は認識した。

 ――やはり、あの方の転生者、それと守る巫女がいる。

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