第6話 全てを知り、守る巫女4

 日巫女と母親の春子が話していた社殿の中に、てらすと登与が帰ってきた。

 入るなり、登与が大変な勢いで日巫女に話し始めた。


「おばあちゃん、おばあちゃん。てらすが歩くと不思議なことばかり起こるのよ。」

「そうですか。どんなことがあったの。」


「この社殿裏、山頂の端に手洗い場があるでしょう。そこから先は空中なのに、てらすは歩いて消えちゃったのよ。数秒間したらまた現われて戻ってきたわ。だけど、てらすの記憶だと1時間くらいかけて、はるか遠くの景色を時間を動かして見たみたいなの。」


「あそこの手洗い場は、その先の天界空間に入るための清めをするために設けられているのです。先にある天界空間は神の物見の場になっており、この山頂からはるか遠くまでの景色を時間を動かして見ることができるのですよ。」


「てらす君、どんな感じだったのですか。」

「とても懐かしい感じがして、どの景色を見てもとても素敵だと思いました。」


「登与、他にも不思議なことがあったのですか。」


「はい。山腹の林の中を歩いていると、てらすがどんどん緑色に染まっていったの。てらすに聞くと、精霊が集まってきて、体から出ている雲のようなものをおいしく食べていたということよ。」


「精霊は、聖なる人のオーラが一番の大好物なの。とても喜んだと思うわ。」

 日巫女のその言葉を聞いて、てらすはあいづちを打った。

「そうか、あの美しい歌はお礼として精霊が歌ってくれたんだ。」


「私には、ここちよい風としか感じることができなかったわ。」

 登与がとても悔しそうに言った。



 帰りは、陽光神社から出て山を下り、ふもとの鳥居の前まで日巫女と登与が見送りに来てくれた。母親が挨拶した。


「日巫女様、登与さん、今日はほんとうにありがとうございました。」

「春子さん、あなたと1日話して心の底から安心しました。私の方こそお礼します。それと、これからのこと大変ですが、よろしくお願いします。」


「てらす、小学校に入学したら私と仲良くしてね。私、少し気が強いから友達ができるかどうか心配なの。」

「登与さんと仲良くするのは大歓迎ですけど、心配なことがあります。」


「失礼しちゃうわ。心配ってどういうこと。」

「登与さんは、ものすごい美少女だから。あまり仲良くすると、男の子達がみんなやきもちを焼いて、仲間はずれにされないか………」


 母親が大きな声で笑った。

「ほほほ、やはり親子ね、父親とそっくり。父親と同じように、無意識に女の子に的確にアピールできるのね。」


 彼と母親は帰宅の途についた。


 その後ろ姿を見ながら、日巫女は思った。

 ――アマテラス様、代々の日巫女に引き継がれてきた、あなたの完全な記憶があります。今度は何回目の転生でしょうか。日巫女は今度こそ、あなたがすばらしい選択をして幸せになることができるようお守りします。



「おばあちゃん。私も家に帰っていい。」

「登与、もうしばらく私に付き合ってくれない。もう1回一緒に社殿まで登ってほしいの。あなたに贈りたいものがあるから。」


「うん。いいわ、まだ明るいから。おばあちゃんから何かくれるの。」

「少しだけ早いけど、小学校の入学祝いに。」

「なになに。」

 登与の問い掛けに答えずに、日巫女はにっこり笑って登り始めた。


 社殿に着き登与を待たせた後、日巫女は奥の宝物庫に入り玉手箱のようなものを持ってきた。登与の前でそれを開き、その中に入っていたものを登与に見せた。

 それは、神秘な緑色をした勾玉まがたまだった。


「きれい。」

 登与はうっとりして勾玉を見ていた。

「これは首からかけれるの。勾玉というのよ。」

 日巫女は勾玉の首飾りを登与にかけた。


「うん。やっぱりとても似合うわね。登与から出ているオーラと調和している。」

「おばあちゃん。これは単なる首飾りではないのですね。私もおばあちゃんの跡継ぎになる者よ、神秘な力を使ってやるべきことがあるのね。」


 その質問に、日巫女はとても真剣な顔をして答えた。

「神の転生者が正しい道を進むことができるように、そして、ずっと優しい心を失わないように、そばにいて助けてあげてほしいのです。」


「神の転生者………今日、私が初めて会ったイケメンの男の子のことね。」

 


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