第4話 全てを知り、守る巫女2

 天てらすと母親の春子は、日巫女と登与の先導で陽光神社の社殿の中に案内された。


 板張りのとても広い部屋で真正面には神棚があり、さかきが供えられ三方の上にさまざまな物がささげられていた。

 4人は、ごさの座布団に向かい合って座った。


 日巫女が真剣な顔で言った。

「てれす君のことを霊視するのは今日が初めてですが、これまで感じたことのない強い神聖を感じます。この神聖はこのままでは終わらず、だんだん成長するにつれて、さらに人間を超越した力を身に宿すようになるでしょう。」


 母親はとても心配した。

「この子は今でも、たくさんの人を見て、その人の過去から現在までに起きた、さまざまな出来事を正確に言い当てます。それから、その人の本質も見抜きます。…これ以上さらに、人間を超越した力って…」


 困惑した母親を安心させるように、日巫女は微笑みながら説明した。

「お母さん、てらす君が宿すのは決して恐い力ではありませんよ。たぶん、てらす君の神聖はとても優しい神のものです。基本的には人間を助け、守るためにしか使うことができません。」


 今まで黙って聞いていた登与が、話に割り込んだ。

「てらす、責任重大じゃないの。あなたにはやがて、多くの人々を助けるための力が宿るのよ。」

「僕は、他の子と少しだけ違って、感受性が強いだけだと思っていたのに、そんなに大それたことを今考えるのは無理です。」


 日巫女がさとすように話した。

「大丈夫です。てらす君はだんだん大人になり、力もそれに従ってだんだん強くなるから、ゆっくり自分のものにして、正しく使えるようになれば良いのですよ。」


 これまでの話を聞いて、母親も決意した。

「てらすちゃん。だんだん、ゆっくり大人になれば良いのよ。あなたの心が正しく育てば問題ないわ。私もたくさんの母親が子供に対してするように一生懸命に応援するから。」


「うん、がんばる。お母さんに言われると安心する。」

「登与、てらす君にこの陽光山を案内してあげなさい。私はもう少し、お母さんと大切な話があるから。」

「わかった。てらす、陽光山は素敵なところよ。案内するわ、ついてきて。」



 登与は彼を社殿から連れ出すと、その裏側にでた。すると、そこから美しい遠景が広がり、それはとても素敵な眺めだった。

 2人掛けできる、ちょうど良い岩に座ると、登与が言った。


「ここからは、かなり遠くまで見えるでしょう。」

「そうですね、登与さんはいつもこの景色を見ているのですか。」


「いつもはふもとの家で暮らしているから、時々ね。頂上にある陽光神社で暮らしているのはおばあちゃんだけよ。おばあちゃんのお手伝いをする時だけ、陽光神社まで登るの。」


「ということは、今日もおばあちゃんのお手伝いですか。」

「そうよ。自慢じゃないけれど、私がおばあちゃんの跡継ぎなの。お母さんには残念ながら霊力が無いんですって。」


「ところで、登与さん。あそこにある手洗い場の先にある参道はなんですか。まだ、上に登っているのですけど。」


「えっ、てらす。なんにもないじゃない。ここは陽光山の頂上よ、ここから上は無いわ。空中よ。なんであそこに手洗い場があるのか、私は前から不思議だったのよ。」


「参道が見えます。」

 そう言った後、彼の体が無意識に動いた。歩いて手荒れ場に近づき、手を洗って清めた。それから、その先の参道を登り始めた。


「きゃ――てらすが空中に消えた!」


 登与の前からてらすが忽然こつぜんと姿を消した。

 しかし、彼が姿を消していた時間はほんの数秒だった。再びてらすは、彼女の前に姿を現わした。


「なに、なに、どうなったの。」

「この手荒れ場の先に参道が見えたので、無意識に歩き始めてしまいました。この頂上よりももっともっと高い所まで登って行ったのですか、少しも恐くありませんでした。」


「高い所まで登って行ったなんて、どんな感じだったの。」


「登って行くと、だんだん遠くまで見えました。平野全体が見えるようになると、最初は小さな村々、古墳、そしてにぎわう商人町、城下町、それから大都市のビル群に変わりました。


 反対に、海や山脈は変わらずに見えていました。なぜか僕にはその景色が、とても懐かしく思いました。」





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