第3話 全てを知り、守る巫女

 天てらすの両親は、自分達の息子が特別な存在だということをよく理解していた。

 そして、大人になってからも特別な力を正しく使い、世の中のたくさんの人々を救うようになることを強く望んでいた。


 心の底から彼を愛する両親は、日本中の多くの人から深く尊敬される、この地方の神社の神職に相談してアドバイスを受けることにした。


 大きな川の扇状地である平野が広がる途中に、唐突に小高い山が存在していた。

 その上に暘光神社があった。


 陽光神社の神職である神主は巫女も兼ねており、名前を日巫女といった。

 日巫女は、多くの人の将来を悟り正しく導いており、日本全国から相談者がひっきりなしに陽光神社を訪れていた。



 母親と彼が、陽光神社の山の下にある鳥居の前にいた。


「てらすちゃん、今日はお行儀良くしてね。もう6歳なんだから。この神社の日巫女様はたくさんの人に尊敬されている立派な方なのよ。私が会ってくださいという手紙を出したら、直ぐに会いますというお返事をくれたのよ。」


「ところで、そんな人がなんで今日、僕とお母さんに会ってくれると言ったの。」

「てらすちゃんが、いろいろな人を助けたエピソードを紹介しただけよ。」

「やらなければならない普通のことをしただけなのに、興味をもつのかな。」


「さあ、山を登りましょう。少し急勾配だけど大丈夫ね。」

「うん、大丈夫。疲れ切ってお母さんが登れなくなったら、僕が助けるね。」


 息子のその言葉には答えず笑った母親は、鳥居をくぐり暘光神社の石段を登り始めた。彼もその横で、遅れないように登っていた。



 登り始めると直ぐに彼が声を出した。

「あっ、しゃべり声が聞こえる。」

「回りは鬱蒼うっそうとした林、木や草だらけよ。てらすちゃんの気のせいじゃない。」

「お母さんには聞こえないのかもしれないけど、何人もいるよ。」

「何人もいるって………まさか、幽霊じゃないよね。」

「全然違う。生命に満ちあふれた存在だよ。」


 彼が多くの声を聞いたのは、山の精霊だった。普通の人間には全く見えなかったが、暘光神社の林の中には何千人もいた。みんな同じようなことを話していた。

「あの男の子、光輝いている。優しくて暖かな光りだね。」

「僕達にも強い力をわけてくれているよ。」


 精霊達の中には、数千年生きてきた長老もいた。

「いやいや、人間のオーラじゃないな。あの男の子はもしかしたら、昔は人間と多く暮らしていた神々の生まれ変わりかもしれないな。」



 2人が石段を登り切り、山の上の陽光神社の社殿の前まで着くと、日巫女が出迎えに待っていた。1人の小さな女の子を連れていた。


「いらっしゃい。お手紙をくれた天春子さんですね。そしてこちらがてらす君。立ち話を続けるのもなんだから、さあさあ中にお入りください。」

 日巫女が2人を招き入れようとしたが、彼はそこから動かす凍りついていた。


「てらすちゃん。早くいらっしゃい。」

 実は彼は、日巫女の隣にいた小さな女の子が、あまりにも恐い目をして自分をにらんでいたので動けなかったのだ。


 日巫女がそのことに気がついた。

「ごめんね、てらす君。紹介し忘れたけど、この子は私の孫の登与です。お母さんの手紙にてらす君の年齢が書いてあったけど、登与は、てらす君と同級生ですよ。今度、一緒に小学校に入学するからなかよくしてね。」


 登与が言った。

「おばあちゃん。この子変よ、人間なのにとても強い光りを放っているわ。前におばあちゃんが話してくれたけど、このレベルだと神か魔物しかあり得ないわ。」


「登与。てらす君は正真正銘の人間の男の子だよ。教えなかったことだけど、人間の中にも神や魔物と同じくらいの霊力や魔力をもつ人もいるのだよ。弘法大師や安倍晴明とか…かなりいるんだよ。」


「そうなんだ。でもこの子は自分の力にまだ気がついていない。だから、かなり未熟ね。幼いのね。私がお姉さん役になってもおかしくないわ。」


 母親が笑いながら言った。

「登与さん。これから小学校に入ってからも、てらすちゃんと仲良くしてね。この子大人しいタイプだから心配なんです。」


「お母様、わかりました。私が引き受けましょう。テラス!ついてきて!」

「まあまあまあ、登与さんはしっかりしているのね。私も安心だわ。」

 

 

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