第11話 ガブリエルの乱入



 ならばイヴとダグラスは子供の頃に出会ったんだと納得したエイレーネーは否定された。会った時からイヴは大人だと。



「イヴは何歳なの?」

「私は人間じゃない。だから、君達の年齢感とはかなり異なる感覚を持つ」

「人間じゃない?」



 逸脱した美貌を除いてイヴを見ても人間にしか見えず。人間以外で想像するのは悪魔。



「……悪魔とか?」

「ははは! レーネは面白いな。残念、違う」



 悪魔でないのなら、そしてイヴの見目から想像するのは。


 エイレーネーはまさかと思いながら天使様と出した。これにもイヴは笑うから違ったと抱くと――



「まあ、近い生き物かな」

「え」

「天使ではないけど天使に近い生き物さ」

「そ、それって天使様ってこと!?」

「いいや。あくまで近いだけ。はい、私の正体が何かは終わり」



 最も気になる部分で話を強制終了させられ、不満を露にしてもイヴは終わりだと言えば終わりとこれ以上は言わず。


 口許に笑みを浮かべるだけで閉ざしてしまった。話を聞いていたラウルが唖然としてイヴを凝視しても同じ。イヴが声を発しないのなら諦める。エイレーネーは「もう……」と呟き、この後第1王子と聖女の小パーティーに行くラウルへ向いた。



「ガブリエルはラウルと一緒に行く気でいるけれど、ラウルはどうするの?」

「一緒になんて行かない。殿下と聖女様にご挨拶をしたらすぐに屋敷に戻って父上と話をする」



 今回ダグラスが来なかったらラウルはガブリエルと一緒に行って小パーティーに参加していた。エイレーネーは行きたくないと我儘を言っているとガブリエルや周りはラウルから遠ざけていた。



「なんだ婚約者君。君、レーネの妹にご執心じゃなかったんだ」

「……勘違いをさせた私も悪かった。ガブリエルや周りの声を鵜呑みにせず、エイレーネーに話をしていたらこんな事には」

「君がどう言ったところで妹やその周りはさせなかったさ」

「……」



 否定したい言葉を否定する言葉がラウルにはなかった。強引な行動を取ろうとしてもガブリエルを悲劇の令嬢に仕立て上げればラウルは放っておけなくなる。無理矢理にでも関わりを持たせようとした。



「君が屋敷に来ている時や迎えに来た時、妹やその周りは大抵レーネが体調不良とか不在とか言っていたろう? あれは全て嘘。レーネは君が来たこと、迎えを報せる手紙があったことすら知らないのが殆どだった」

「そんな……だ、だが、何度もガブリエルの侍女に様子を見に行かせたんだ」

「君は頭がお目出度いね。レーネの妹は君を欲しがっているんだ。欲しい相手が他人を気にする、なんて許せない。レーネがいたら君はレーネに夢中になるから」



 何度目かの顔を青く染めたラウルが項垂れた。昨日が正にそれだった。ガブリエルの侍女が様子を見に行ったと聞かされてもエイレーネーは留守にしていたし、どうせ来ていない。来てもいないのに体調不良と判断される筋合いはないが会う気がなかったのは事実。

 バツが悪そうに「私も悪いわ。ラウルが来ていると聞かされる時があってもどうせガブリエルに会いに来ていると思っていたから」と謝ったら、更にラウルは項垂れた。首がかなり下がっているが大丈夫なのだろうか。

 愉快で堪らないとイヴが大きく笑ったら、別室に移ったダグラスが戻った。



「そろそろ行くぞ。話は終わったか」

「さあ。私は元からないよ」

「お前にある訳ないだろう。エイレーネーにしか姿を見えないようにしていたのに」

「彼等に姿は見えなくても私には見えていた。ちょっとしたお節介はさせてもらったが」

「天使のお節介か……有難迷惑な代物だな」

「ははは、誉め言葉として受け取っておこう」



 この場で最もイヴと付き合いの長いダグラスが天使と口にした。近しい存在だと言っていたくせに実際は天使なのかと言いたげな目をイヴにやるエイレーネーは、愉しそうに笑うイヴに首を振られた。



「ダグラスは私の正体を知っても天使と言うのさ」

「はあ……お前の正体を知れば腰を抜かすぞ」

「私自身は大した存在じゃないさ。まだ、兄者や甥っ子の方が尊い」

「はあ……お前の探し人は見つからないのか」

「ああ。だって、私に探す気が起きないからね」

「はああ……」



 途轍もない秘密を抱えていそうであるイヴを呆れ果てた眼で見やったダグラスは大きな溜め息を吐き、交互に見るエイレーネーにも呆れている。



「気にし過ぎると頭が痛くなるぞエイレーネー」

「けど、とても気になって」

「イヴの正体はその内解る。急がなくてもな」

「……」



 ダグラスがそう言うのならそうなのだろう。エイレーネーは再度促されソファーから立った。


 時だ。外が騒がしい。皆が扉を見たら勢いよく開かれた。



「ラウル様!!」

「ガブリエル?」



 乱入者はガブリエルだった。

 ラウル一直線にやって来たガブリエルは慌ててパーティーに遅れると放った。

 1人でパーティーに行くつもりしかないラウルはガブリエルの意図を察しつつも「そうだな」と腰を上げた。



「私も行くよ。殿下は時間にうるさい方だから」

「お気をつけて」

「……うん。エイレーネー、私は――」

「ラウル様! お姉様なんて放って早く行きましょう!」

「……」



 眉と眉の間に薄い皺を寄せつつも一言も発しないまま、ガブリエルを置いてラウルは部屋を出て行った。「ラウル様!?」とガブリエルは追い掛けて行き、肩を震わせるイヴに呆れた眼をやり、ダグラスはエイレーネーの手を取って部屋を出た。そのまま外へ出て上を見たエイレーネーは、未だ空に放置されている公爵と目が合うも「エイレーネー」とダグラスに呼ばれ視線を下げた。



「あいつの目は何か言っていたか?」

「早く下ろせと」

「私達が門を潜れば魔法は解ける」



 ダグラスの言った通り、エイレーネー達が門を越えた直後ロナウド等は地面に下ろされていた。後方からロナウドの怒声が飛ぶ。転移魔法であっという間に王宮に飛んだ

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