六章 龍神


───私は、人間が嫌いだ。


神とは、誰かの信仰無くして存在はできない。


古き信仰は、新しき信仰に淘汰される。古きものは間違いであり、新しきものこそ正しい、と。

そうして、いくつもの神が姿を消した。


それは私とて、例外ではない。


元々、龍とは大地の神であった。

「地母神」そう呼ぶ者もいた。

しかし、数多の信仰が行き交う中、人類が原罪を犯すきっかけとなった堕天使、あるいは悪魔の側面が「蛇」であるという話が流れた。

その「蛇」とは、あまりにも龍に酷似している、と。


本来なら似ても似つかない存在である「蛇」と「龍」だが、言い伝えられる話が変われば、信仰も変わる。

瞬く間に、私は邪悪で恐ろしい存在に成り代わってしまった。

謂われのない罪を架され、愛した大地を追われ、罪を犯したものが堕ち行く先と言われた「海」に、私はその身を堕とした。



しかし眼下に広がるのは、真昼の空のように、あるいは夜空のようにどこまでも青く澄み渡る世界。

一体、これのどこが、罪人の行き着く先なのだろうか。


とても、美しい世界だった。


海の生物たちは、私を大地からのお客様だと大いにもてなし、歓迎してくれた。

境遇を話せば、少しでも大地に似たところをと、海底火山に住むといいと勧めてくれた。


私は恩返しにと、かつて地母神であった力を使い、草花の代わりに海藻や珊瑚を増やし、青ばかりの世界に色を与えた。

そして自身の加護を与えて信仰の対象となる事で、種族間の争いが鎮まるよう促した。


そして今日に至る。


「故に、我は大地に住まう命、特に人間を許しはしない。まあ、大洪水が起きたことで水かさが増し、以前より我の領域が広がったことは有難く思うがな?」


そう、人間は決して許しはしない。


渦潮を起こしたのも、我が領域に踏み入った不届き者を消すためだった。


「ふた、りを、助け、て」


だから、助けたのだって、ほんの気まぐれだ。

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