四章 抱えているもの

ハロムの手を借り、以前よりは作業効率も上がったように感じるが、未だに打開策は見つからないまま時が過ぎていく。


「最近、天気の悪い日が増えましたね……」

ハロムは外を眺めながらぽそっと呟く。

「神様が怒っちゃったんでしょうか?」

そのひと言に、背筋が凍りつくような感覚がした。

「ハロム、天気の本ってどこにあったっけ?」

「それならここにありますよ!」

「……ありがとう」

天気や気候について記載のある本を開く。雨の降る原因、違う。雷と雨、違う。雨が続く時期、違う。ページを捲って、捲って、捲って……あった、雨と洪水。

そのページには、降水量に伴う水位の上昇など、専門的な内容の他に、過去に起きた大洪水の経緯の記載もあった。何日間、どんな天気が続いたのか。また、大洪水が起きる前はどんな天気だったのか。予兆があったとして、それが分かれば何か対策が取れるかもしれない。

私は呼吸をするのも忘れるくらい、必死になって本を読んだ。


「……さま、エリサ様!」

「……!」

「大丈夫ですか?さっきからずっと、顔色がよくないです……」

顔を上げると、ハロムが心配そうにこちらを覗いている。


心配かけちゃだめ。

大丈夫だって、そう言わなきゃ……分かっているのに。

言葉が詰まる。


あれから何度も世界の終わりを見て、その度に「また言ってるの?」と取り合ってもらえなくて。

だから私一人でも何とかしなくちゃいけなくて。

……でもどうしていいか分からなくて。

辛いなぁ……そう心の中で呟いた時には、もう涙が止まらなくなっていた。


「エ、エリサ様?!」

「……う、ぐ……」

泣きじゃくる私を、ハロムはただただ優しく撫でてくれた。


私は意を決して、自分が抱えていることを話した。

世界の終わりを見たこと、夢の中で声が聞こえたこと、どれも現実離れしていて、話していても訳が分からないことが多かった。

でも、ハロムはちゃんと聞いてくれた。

「……だから、ずっと一人で調べ物をしてたんですね」

「信じてくれるの?」

「ハロム、難しいことはよく分かんないですけど、エリサ様が嘘をつくような人じゃないことは分かります!」

私はその言葉に救われた。まだもう少し足掻いてみよう、そう思えた。

「ありがとう」

お礼を言うと、ハロムはぐっと顔を近づけて、

「ハロム、いいこと思いついちゃいました!」

と言った。

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