三章 出会い


あの神託らしきものを聞いて以来、私はひたすら書物を読み漁る日々を過ごし、その中で分かったことが2つあった。


1つ、ノアは主神が唯一「正しい」と見た男であり、彼にだけ自身の行動とその意図を伝えていたということ。

2つ、主神は、人間を含め陸に住むあらゆる生き物たちの罪を嘆き、世界を創り変えるために洪水を起こしたということ。


「大洪水を起こした理由……私たちの犯した、罪……」

そうだ、あの時あの声は「更に罪を重ねていく」確かにそう言っていた。そしてそれが「嘆かわしい」と。

旧き友が何を指してるかは分からないけれど……でも、私たちが犯した罪、今もなお重ねている罪が何なのかを知ることができれば、状況が少しは進展するかもしれない……!

そう思い、更に書物を読み漁ろうとしたその時。

───ガシャンッ!!!

奥から大きな音が響き渡った。

何事かと思い慌てて音がした方へ向かうと、何人かの獣人が揉めている姿が見えた。

「こちらから大きな音が聞こえたんですが」

「まあ、エリサ様!ご機嫌麗しゅうございます。大きな音を立ててしまい申し訳ありませんわ」

輪の中心にいた獣人が挨拶をし答える。

「揉め事ですか?」

「まあ、揉め事だなんてとんでもない!私どもはそこのドジなうさぎを手伝っていただけですわ〜」

と言うが、答えた獣人もその周りにいる獣人も、クスクスと嫌な笑みを浮かべている。

「……とにかく、書庫は調べ物をする場所です。お静かにしてください」

私がそう言い切ると、みんなそそくさと書庫を後にした。

「……あの、ありがとうございました」

振り向くと、そこにいたのはずぶ濡れになったうさぎの獣人の少女だった。


うさぎの獣人は箱舟に住む種の中で、人間の次に数が少なく、居住区域も他の獣人より下に区分され、仕事と言えば専ら下働き、獣人の中でも身分が下に位置付けられていた。


「濡れたままだと風邪を引いちゃうわ。まずはこれで体を拭いて」

「そんなエリサ様のお手を煩わせるなんて!大丈夫です、慣れっこですから!」

私よりもずっと幼く見えるうさぎの少女は、頑なに、差し出した手を取ってくれなくて。これ以上私が何かしようとすれば、かえってこの子を困らせてしまうかもしれない、そう思うと何だかやるせなくなって、私はスっと俯いてしまった。

「ごめん、なさい」

私がぽつりと謝ると、

「そんな悲しい顔しないでください!ハロムなんかに優しくしてくださったのはエリサ様が初めてです!」

と、ハロムと名乗る少女は明るく微笑んで見せた。その顔を見ると、こちらもつられて笑顔になってしまう程だった。

「ハロム、素敵な名前だね」

「え、あ、ありがとうございます!お母さんが付けてくれた名前で、ハロムは自分の名前大好きです!」

「そっか。あのね、ハロムは昔の言葉で夢っていう意味があるんだよ」

「夢……!エリサ様は物知りなんですね!いいなぁ……」

ハロムはチラッと本棚の方を見てそう言った。

もしかして、本に興味があるのかな?

もし、そうなら……!


「ねえハロム、私のお手伝いをしてくれない?」

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