二章 罪と罰
最近、あの夢を見る頻度が増えた気がする。それに、声も鮮明に聞こえるようになったような……。前までは、誰かが何か喋っている、その程度だったのに。今ではハッキリと聞き取れる部分が多くなっている。やや中性的だけど、恐らく男性の声。
夢を見たあとは酷く疲れるし、決まって何だかとても嫌な感じがした。
だから書庫舟で書物を読みながらうたた寝してしまったのも、きっと夢見が悪く寝不足が続いていたせいなのだと思う。
「やはり、愚かである。」
……また、この声。私、いつの間に寝ちゃったんだろう。
「更生の機は与えた。しかしお前たちは反省は疎か、更に罪を重ねていく」
……罪?なんのこと?
「旧き友が涙した。私は何故このような存在を創り出してしまったのか」
……旧き友?
「あぁ、なんと嘆かわしいことか」
……分からない、あなたは誰?
「故に、決めた。今一度、神は世界を呑み込むと」
───これは、神罰である。
「──ッ!!!!」
また、あの夢……?
いや、何か違う。ハッキリと耳に残る、酷く冷たい声。
今まで夢で聞いてきたあの声と同じだけど、今回はずっと鮮明で、重圧を感じた。
この世界が終わる。
そう、直感した。
どうしよう。堪らなく怖くなって、私は慌てて親族にありのままを話した。今まで見てきた夢の内容から、今回の人の声のことまで、全て全て。
更生の機、存在を創り出す、世界を呑み込む、神罰……内容からして、これがただの夢ではないことは明白で。もしやこれが神託、主神の声なのでは?そう思えて仕方がなかった。
……でも、誰も取り合ってはくれなかった。
今までノア以外に主神の声を聞いた人なんていなかったから、どうせ冗談か嘘だと言う人。仮に本当だったとして、今それを広めればみんながパニックになってしまうからと口止めをする人。前も大丈夫だったんだから今度だって大丈夫さと楽観視する人。
何れにしても、考えているのは己の保身ばかり。
「でも、ノアの子孫である私たちが先導しなくちゃ、このままだとみんな……」
「お前は書物の読みすぎで、ノアに強い憧れを抱いているだけだ。ノアのようになりたい、そういった強い思い込みや書物から得た知識で、偶然そういう夢を見ただけだ。このことは絶対に他言しないように」
そう一蹴されてしまった。
……確かに、主神の声なんて聞いたことない。だからさっきの声が主神である確証なんてない。
でも、偶然も重なれば必然となる。
今一番恐れるべき事態は、再び大洪水が起きること。前はノアが主神の助言を聞き、箱舟を造ったから大洪水をやり過ごすことができた。でも今回は誰も助けてはくれない。私たちだけでやり過ごさなければ……いや、そもそもやり過ごすこと事態、不可能かもしれない……。
「……ううん、何か手はあるはず。いつ何が起こるか分からないからこそ、今から対策しなくちゃ」
私、一人でも。
「まずは、過去に起きた大洪水とその理由……歴史を振り返ってみよう」
私は再び、書物舟へと足を運んだ。
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