一章 終わりの始まり


世界の終わりを見た。


降り止まない雨に水かさは増し、吹き荒ぶ風に波はその勢いを増す。ちっぽけな私たちには為す術などなく、全てが流され呑み込まれていく様を、ただただ呆然と眺めることしか許されない。


どうしてこんなことに?怖い、怖い怖い。嫌だ、助けて助けて助けて助けて!


「助けて!!!」


目を覚ますと、そこには見慣れた風景が広がっていた。そうだ、ここは私の部屋。

「……また、この夢」

私は時々、変な夢を見る。まるでこの世の終わりみたいに、何もかもが無くなっていく夢。初めて見たのは、確か13歳の時で、3年経った今でもこうして同じ内容の夢を見る。しかも、その内容は段々と鮮明になっていき、前には聞こえなかった声まで聞こえるようになっていた。

「エリサ様、礼拝のお時間でございます。教会舟へお越しください」

……もうそんな時間か、早く準備しなくちゃ。


この星には、かつて陸というところがあったという。

私も書物で読んだ知識しかないけれど、草花で覆い尽くされているという、草原。見渡す限り砂しかない、砂漠。木々が生い茂る、森林。

……どれも、今では見られなくなってしまったものばかり。

その昔、陸に住む生き物は愚行の末、神の怒りに触れてしまった。40日40夜と降り続いた雨は、海も川も池も、全ての境目が無くなってしまう程の大洪水を引き起こした。そして、かつて陸と呼ばれたそれは、栄えた歴史と共に、今は深く海の底に沈んでしまっている。

これは、我らが主神、この星の創造主「■■■■」による神罰である、そう書物に記載があった。

しかし、主神にも慈悲はあった。ノアという男に箱舟を造らせ、ノアとその家族、そして陸に住まうあらゆる種類の生き物をひと番ずつ乗せ、神罰である洪水から種の存続を図った。

───ノア。箱舟の造り手で、この世界の救世主。唯一、主神の声を聞けた人。


「エリサ様、ご準備はできましたか?」

「今、行きます」


彼が箱舟を造ってから300年。未だに陸は戻らず、私たちは居住舟と呼ばれる大きな箱舟に住み生活をしている。

だからこうして週に一回、主神に祈りを捧げ、礼拝を行っている。また陸が戻るように、と。

そしてノアの子孫である私たち人間が、神託を告げる者として、その礼拝を執り行っている。唯一、主神の声を聞ける存在だから、と。


「……誰も、主神の声なんて聞いたことないのにね」


私は重たい足を引きずりながら、礼拝を行う教会舟へと向かった。


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