第15話 出会い




その日。

リプルが両手で抱えた花束を持って、滞在している離宮の一室に現れた時。




あの瞬間、自分の灰色な世界に、カラフルな色が付いたのだと、ディアライルは、そうあとになって、語る。



『…君に、会えたから…、私は知れた。当たり前の愛しさを…それを君がくれた』









★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★





























その日は、タトスとトリスは休みの日で、ダドリィーが傍に控えていたのだが、部屋の茶葉が切れていたため、準備するために、部屋から出ていて、ディアライルしか部屋には居なかった。


ーコンコンっー


そんなタイミングで、ドアをノックされたため、ディアライルは一瞬、どうしようか?と思ったが、自分の他には誰も居ないので、ディアライルは自分で、ドアを開けた。



普段なら、絶対にしない行動だった。



何も言わず、いきなり、ドアを開けるのは無用心だし、皇太子である自分から、誰かをドアを開けて、迎え入れるという行動なんて、したのは初めてだった。

だが、そのときのディアライルは、なぜか無言で、ドアを開けていた。








「…っ!?」

「…わぁ」


ポスッと、胸に当たる花束。

その花束の合間から見えた空の色。





「あ、あの…」

「…あぁ、君は誰だ…?」


その当然の質問に。


「カティ様のお子様のリプル様です」


と、新たな声がかかる。


花束を持っている人物の後ろから、年の頃は、タトスやトリスと同じくらいだろう少年が姿を見せた。


「私は、リプル様の側仕えのフィンと申します。本日は、ディアライル殿下へお会いしたいと、リプル様が思われたので、こうして花束を持って伺わせていただきました」


「そうか…」

「はい、ディアライル殿下は…、どちらに?」


フィンが部屋に、一人しか居ないのを見て、そう聞いてくる。


それは、目の前にいるのがディアライルだと気づいていないからの問いであった。


「…あぁ、それは…」


どう答えよう?と、ディアライルが思っていると。


「あれぇ…ディアライル様?」


そう声をかけたのは、茶葉の箱を片手にこちらを見るダドリィーだった。






その後。


ディアライルと知らず対応していたと気づいたリプルとフィンが慌てたが、ダドリィーが。


「とりあえず、部屋に入りましょう?話はそれからでも、遅くはありませんよ」


と、猫かぶり全開で対応したからか、二人で目を見合わせたあと。


「…じゃ、…お邪魔します」


リプルは、ディアライルを見つめながら言った。


「……っ…」


さっきも見た空の色の瞳がまた自分を写した時、ディアライルは胸に沸き上がる何かを感じた。







★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★






リプルはディアライルを見て、思った。



(…なんか…、寂しそう…)



自分と年の変わらない大国の皇太子殿下。



皇太子と対面した母からは、その印象を聞いていた。




『あの方は…、その身に多くのモノを背負っている方だ。…まだお前とか変わらない年頃なのに…、悲しい眼をした方でもある』



その言葉の意味を今、真にリプルは理解した。




そして、リプルは小さく思った。


(…話したい…知りたい)



なぜか、その二つを思った。







★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★




この時。


フィンはフィンで、まさか皇太子が自分からドアを開けて対応してくれるとは、思ってもいなかったので、リプルの変化に気づかなかった。


だが、もしも、気づいていても、フィンにはどうすることもできない。



しかし、無意識と無意識。


この二つを観察していた人物がいた。






★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★Φ★




(…おやおや、これはまた…)


爽やかな笑顔の下で、静かに状況を観察するダドリィー。




この外遊中で、初めての従弟の明らかな変化の兆しを感じて、愉悦する自分を感じるダドリィーだった。



(タトスやトリスが居ないのは残念だねぇ~。…いや、居ないからこそ、見えるものもある…。さて、どうなるかねぇ~)











この出会いが、様々な物事を動かしてゆく…。



憎しみと悲しみに彩られた止まった時が動き出す…。







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