第14話 大人のΩ
ディアライルはファーンに来て初めて知った。
「優美、艶やか」という言葉が似つかわしいΩの大人がこの世には居るのだと。
この外遊中は他国でも、子供のΩや大人のΩと出会ってはいたが、その誰よりも、王弟カティは、綺麗だと思った。
その
αとΩ。
大人と子供。
ルディライルにあった概念の垣根を王弟カティは少し変えてくれた。
「殿下は…、まだ知るべき事が山とある。けれど、あなたはあなた。他のだれも、あなたにはなれないのです。あなたはあなたとして生きているのです」
王弟カティから、そう言われて、ルディライルは思わず泣きそうになった…。
だが、実際は泣く訳にはいかないので、耐えてはいた。
しかし、改めて一人になった時、痛感した。
まだ足りない。
まだ駄目だ。
そう言われ続けてきた。
偉大な父や祖父を超えろと、常に言われ続けて、自分は…。
自分で自分を呪ったのだと…。
身近にいる大人のΩでは義曾祖母も、大人のΩである。
だが、あの人には気高さという言葉が、もっとも似つかわしいと、ディアライルは思ってい る。
自分にも、他人にも厳格な太皇太后陛下。
曾祖父の二人目の后。
鮮やかな深紅の髪に、意思の強さが際立つ
一般的なΩとは明らかに違っている。
だが、ディアライルは、東の離宮に居を構えている太皇太后には、なかなか会う機会がない。
何故なら、太皇太后が行わなければいけない公務も少なく、太皇太后になってからは、あまり表に出ないからであり、母や祖母が義曾祖母に、ディアライルを近づけたがらないからでもあった。
αとΩの性から遠ざけたい意図もあったろうが、母と祖母が太皇太后に対して言い知れぬ劣等感を抱いていたからだという事をディアライルは、外遊してから改めて感じた。
トリスから改めて聞いた。リアーツの成り立ちの歴史。
『我等の歴史は、我が国が興りしときに遡る。初代皇帝の后が敵の攻撃に晒された際、我等が祖、初代リアーツは、命を懸けて后を守り抜いた。この時、初代は初代皇帝へ『俺がこの人を助けたのは、あんたの大事な人だからさ。あんたがこの人を誰かに害されて失ったら、あんたは壊れるだろ』と、伝えたという。そして、それ以降。我等は、皇帝が真に愛する存在を守るために存在するようになった。皇帝の大事な存在を主と定め、そこには、主への忠節がある。何があろうと、我等は剣となり、主を敵から守る。だが、我等が仕えるのは皇帝が真に愛する存在のみ。それ以外に、主を持つことなどあり得ない』
トリスは、丸暗記したという一族についての内容をスラスラっと語った。
この時、トリスは言った。
『我が国を興した初代皇帝様はαで、お后様はΩ。しかも、番だったから、うちのご先祖様は必死になって、守り抜いたらしいよ~。国を興した皇帝が国を破壊する存在になるのを防いだわけだよね~。いや、マジでがんばったよね~』
αとΩの強い繋がり。
しかも、番という特有の関係がリアーツの今を作ったのだと、トリスは言う。
『今の太皇太后様は、先々帝様の"番"ではなかったらしいけど、寵愛が凄かったらしいよ~。当時から、美貌の皇妃として、有名だったらしいしね~。これ、聞いた話なんだけどさ、太皇太后様の今のお住まいである東の離宮は、元々の大きさは、こじんまりとしてて、寂れた感じすらあった離宮だったのに、太皇太后様が、そこの庭に植えてある緑葉樹の木陰が涼むのに、適していて良いって、軽く会話の流れで、先々帝様へ言われただけで、先々帝様は、すぐに大改築をお命じになって、今みたいな豪奢な作りにして、太皇太后へお与えになったとか。太皇太后様への寵愛ゆえの先々帝様のある意味での暴走話は、まだ数あるんだよね~。そして、先帝が今の皇太后に全く情を示さなかったのもあるし、殿下の母上も、似たような状態だから、うちは太皇太后に仕えてるってわけ~』
生まれてから、ルディライルは太皇太后に、数度しか会った事はないが、太皇太后が寵愛されてきたΩだという認識は持っている。
だが、海洋国家ファーンの姫君であり、先々帝に寵愛された后の真意を知る人物は少ない。
『母さんでも、あの方の真意に、半分気づければいい方らしいよ~。うち、ばあちゃんは引退してるけど、まだ存命だからさ、太皇太后様の真の臣下は、ばあちゃんの方なんだよね~。…母さんは、陛下よりに見られてるからさ~』
トリスはサラリっと、自身の母親が太皇太后に仕えながらも、あまり太皇太后に重用されていないと言った。
『まあ、しょーがないらしいよ?母さんは、元々はリアーツを継ぐ予定の無かった人だしね~』
継ぐ予定の無かった人?。
その疑問に、トリスはすぐに答えた。
『うちの母さん、一応は長男なんだけど~。上にΩの姉さんがいたのね。本来のリアーツを継ぐ人がさ…けど、ばあちゃんからリアーツを継ぐ前に、死んじゃったからさ~。母さんは、リアーツに戻ったんだよ~』
戻った
その時は、深く考えなかったその言葉の意味。
それが様々な事柄と繋がるとは、思ってもいなかった…。
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