第12話 ~番外~知った"真実"の意味~
二人の子供達が出会うより数日前。
アーガイル・リアーツは一人、自室で飲酒していた。
あの運命が決定した日より、独り身に戻ってからはいつも、ヒート期間は二重に鍵をかけ、自室に籠り、そしてヒート明けした後は、深酒をするのがアーガイルの習慣となっていた。
「…っ…、いつもいつも、本当に嫌なもんだ…」
抑制剤でヒートを抑えても後日、体に燻る熱のけだるさだけは慣れる事がないなと思ってしまう。
それを誤魔化すために始めた深酒。
次第に、回を重ねる度に、飲む酒の度数は上がっていった。
酒を飲んで誤魔化す事が良いわけは無い。
いつか、この深酒が身を持ち崩す未来に繋がる行為とわかっていても、止める選択はできず、酒に逃げている自覚もあった。
アーガイルは、一人で孤独とある種の飢えに耐えていた。
1度知った甘さを絶たれた先にあったのは、絶望と悲しみと…。
身を切るような痛みにも似た感情。
だが、その日だけはいつもと違っていた。
アーガイルは、酒を流し込むように飲みながら、机にある書類を手に取った。
その書類に、書かれた内容に、アーガイルはため息を吐き出す。
「…しかし、女の執念深さってやつは、怖いねぇ…」
皇妃ヘラヴィーサの行動。
その詳細が改めて書類という形で、アーガイルの手にある。
「…さて、どうしたもんか…」
自分の勘から、独断で調べてみたものの、出てきた真実に、アーガイルは悩む。
だが、自らの主に、皇妃のこの真実を伝えた場合。
「…まず間違いなく、…渡せば、闇に消えるか…」
主が皇妃を助ける義理はない。
だが、あの主は、皇室の安定を第一に考えている人物だ。
「あの…、女がやってしまった事には呆れても、その血に問題がなきゃ、動くはずはない…か…」
そう極論で言えば、問題はない。
皇妃ヘラヴィーサの行動と結果には、主を怒らせる理由がない。
アーガイルはだからこそ、どうしたらいいか?分からなくなっていた。
「…友としては…、知らせたくない事実なんだよなぁ…けど、臣下としちゃ、黙ってるわけにはいかないんだ…」
グラスに残る飲みかけの蒸留酒を眺めながら、アーガイルは考える。
「…………」
そして。
数秒後、アーガイルはグラスに残る蒸留酒を飲み干すと、部屋から出た。
皇妃のした行動とそれによる結果を友として、皇帝ガライルにではなく、ただのガライルへ伝えるために…。
この行動が正しかったか?と言われたら、アーガイルはどちらとも言えないと答えるだろう。
臣下としては正しく。
友としては、残酷な行動かもしれない。
だが、太皇太后の部下としてではなく、ただの臣下としてでもなく、友を思う一人の人間として、アーガイルは伝えるために動いた。
皇妃のした事は、闇に消えていい事実ではない。
当事者が知らないで済む話ではない。
だからこそ、アーガイルは調べて出た事実を伝える事にした。
ガライルがそれを聞いて、どんな反応をするか?それだけがアーガイルには、気掛かりだったが…。
しかし、ガライルの反応は意外なものであった
「…そうか、調べたのか、知っていたさ…」
「…えっ!」
そして、何とも言えない表情を浮かべながら、ガライルは言った。
「私が知っているのは、それをあれが言ったからではない…。決して、……あれは認めない。自分の罪を認めはしない…確かに、あれは罪を犯したが…、これに関しては私は責めはしない…」
「………」
「なぁ、…アーガイル」
「あぁ…」
「真実がどうあれ、結果がどうあれ私は構わない…私は受け入れている」
ガライルは、アーガイルを見つめ、そう言い切った。
「ガライル…」
「…良いのだ…。あれは…、そうするしか道がない。そう思い込んだのだろう…。そして、それを私も、理由にした…しかし、よく分かったな。母上すら、疑わなかったというのに…」
そう口にしながら、どこか悲しげなガライルへアーガイルは言う。
「…それは…、俺が……Ωだからだろうよ…。まあ、前からかなりの違和感があった…最初は気のせいだと、ずっと思いってきた。…だが、どうにも拭えなかった。だから、調べたんだ…」
「そうか…」
そこから、しばらく二人は話を続けた。
皇妃ヘラヴィーサが密かに抱えた秘密とガライルが抱えてきた秘密の両方をアーガイルは知った。
その全てを、アーガイルは自らの胸の中に納めた。
家臣としてではなく、幼少の頃より共にあった友として、この不器用な男の覚悟を守ろう…と、そう気持ちを新たにしていた。
αとΩでありながら、ガライルとアーガイルの間には、間違いなど起きはしない。
それは…。
アーガイルが運命の番持ちであるからであった…。
嘘に逃げた二人。
片方は愛から。
片方は諦めから。
だが、片方はその嘘が世に露見した場合、全てが消える。
だからこそ、嘘に嘘を重ねてゆく…。
報われない思いを抱えて。
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