第11話 リプルの悩み
ディアライルが三人に相談しながらも、明確な答えを出せないままだった頃、カティの子であるリプルも悩んでいた。
夕飯が終わり、部屋で食後のお茶を飲みながら、リプルはここ1ヶ月の事を思い返す。
皇太子殿下の歓待の宴にも、最初からリプルは参加させてもらえず、伯父や伯父の長子であり王太子である従兄へ幾ら言っても、この1ヶ月の間、皇太子殿下の参加する場には行かせてもらえない。
明らかに、リプルが皇太子殿下へ会うのを伯父達は妨害していた。
「皇太子殿下がこの国へ来て1ヶ月も経つのに、伯父上は僕を皇太子殿下へ会わせてくれない。それは…僕が…、Ωで皇太子殿下がαだから。ねぇ、フィン。αに会ったらΩは不幸になるの?」
「…そ、…それは…」
「僕ね、伯父上が言ってるのを聞いたんだ…『添い遂げられないαとΩはΩが不幸になる。なら、出会わなければΩは不幸にならない』って…それに伯父上はこうも言ってた『カティを不幸にした"ヤツ"を俺は許せない。カティにだけ苦労や苦しみを与えた"ヤツ"がな!』って…」
「リプル様…」
どう返事して良いか分からないフィンへリプルは更に言う。
「そのあと、母上に聞いたんだ。『αに出会ったΩは不幸になるの?』って…そしたら、何でそんなことを聞くか?って聞かれたら、答えたら母上が言ってくれたんだ『あぁ、兄上らしいな…。ねぇ、リプル。αにΩが出会ったからと不幸か?幸せか?なんて、出会っただけでは決まらないよ。その先にどう思うか?だ。私は…、αであるお前の父上に出会わなければ良かったなんて思わないし、お前という宝も居るから、不幸なんて思ったことはない。ただ兄上は…心配性なのさ』って…」
ここで、リプルは泣きそうな顔をしながら、更に言った。
「けどね、やっぱり…伯父上から見たら、母上は不幸に見えるんだよね。だから、伯父上は…、僕の父上が嫌いなんだ…」
そんなリプルへフィンは言った。
「王は…、αですから、どうしたって、Ωの強さを知りません。Ωがαへ抱く思いがどうなるか?を知りません。あくまでも、ご自身の判断と結果だけを見て、カティ様やリプル様を不憫だと思われたのでしょう。ですが、この世には、αもΩもβも関係なく、不幸は誰にでも訪れます。そして、逆に幸せもまた平等に訪れるのですよ。ですから…、リプル様が本当に、皇太子殿下にお会いしたいなら、お会いになられたら良いのです」
「フィン…」
「確かに、王の懸念も分かります。しかし、未来は確定していない。杞憂だけで道を閉ざすのは間違いです」
この時、フィンにも王が抱いた懸念が心に無かったわけではない。
だが、今の言葉通りに、杞憂だけで道を閉ざすのは違うとフィンは思った。
リプルの母カティは未婚ではあったが、不幸の中でリプルを産んだわけではないと、フィンには思えた。
それは、リプルが意に沿わぬ相手の子ではなく、カティ自身が選んだ相手の子であるからであり、未婚を選んだのには選んだなりの理由があったからだと、フィンは解釈している。
父親に関して、誰に聞かれても何も言わないが、カティがリプルを慈しみ、愛情を注いで育てている姿を見てαに会ったΩは不幸か?と言われると、違うと思った。
だからこそ、フィンはリプルへ。
「リプル様。リプル様が殿下とお会いになりたいなら明日、殿下の元へ行かれてはどうですか?」
と、提案した。
これに、リプルは驚き、聞いた。
「えっ、…良いの?」
フィンはすぐに答えた。
「えぇ、…全ては流れの中、リプル様がどうしたいか?です。会われますか?」
「…会いたい。僕は皇太子殿下に会いたい!」
力強く、そう言うリプルへフィンは。
「では、そうしましょう」
と、返した。
「ありがとう!フィン!」
そう言って元気に笑うリプルの姿に、フィンはどこかである予感を感じていた。
それが良い方の予感か?は分からなかったが、道は確定していないのだからと、そう思うことにしてある提案をした。
「西の離宮にある温室で花を摘んで、明日持って行かれてはどうですか?菓子は好き嫌いがありますが、花であれば無難な手土産かと」
「うん!そうする!行こう!」
「はい」
この時のフィンの提案が皇太子ディアライルと王子リプルの運命の交わりの始まりだった。
αとΩ。
新たな繋がりが始まる。
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