第10話 外の世界と新たな悩み

初めて国内から出た時、自分の目で見る世界はディアライルに新鮮な驚きを与え、世界の広さを感じ、触れるものや、見るもの全てが輝いて見えた。







しかし、そんな気持ちも、外遊の日程が半年を越えた頃から、次第に憂鬱に変わった。




何故ならば、どこに行こうとも、皆が見るのはディアライル本人ではなく"皇太子"という肩書きだけだからだ。



別に、"皇太子"という自分も自分だ。

だが、所詮は肩書きだけを見る周りはその肩書きが自分にとって、有益か?どうかしか見ない。


外へ出ても、国内に居た頃から何も変わらない日常がそこにはあり、この外遊に、トリス、タトス、ダドリィーの三人が着いてこなければ、ディアライルは外遊を半年も続けられたか?というと、その自信はなかった。


そして、外遊の最後の国ファーンへ着いた時、ディアライルはファーンへ三ヶ月も滞在しなければいけない事に最初、難色を示した。



今までは、長くとも二週間で滞在は終わり、周りが自国の人間とほぼ同じ対応なのを最大でも二週間だけ我慢すれば済んだ。


幼いディアライルには、滞在先の人々からの様々な期待や思いが重かった。



だからこそ、これから先、三ヶ月もの間、ファーンでも同じように気が休まらないのか?と、ディアライルは思った。



だが、それは…ディアライルの杞憂に終わった。




ファーン国には、王族のαは現王と現王の長子だけしか居ない上に、Ωの王族も二人。


貴族にも何人か、αやΩはいるが、今までの国の様に、宴席での"皇太子"ディアライルへあからさまな媚びや舐め回すような視線もない。


ある意味、拍子抜けするほどに、普通の歓待を受けた。





それに、ファーン王とその長子は竹を割ったような性格であり、さっぱりした性質の人物。

王の次子も、とても柔らかな性格の人物であり、末子に至っては王子でありながら、度々城を抜け出しては城下町で街の子に混じって遊ぶという事をしまうヤンチャな1面を持っている。


ファーン王や三人の王子達は本当に普通に、ディアライルへ接してくれる。



そこには、大国の皇太子に対する畏怖もなければ、様々な嫌な思惑もない。


対等な関係がそこにはあった。


αやβやΩのしがらみを感じない時間というものを生まれてはじめて、ディアライルは過ごした。



しかし、滞在から1ヶ月が過ぎて、ディアライルは一つ不思議に思ったことがあった。






それは…。




王弟カティ殿下の子に会ったことがないこと。







その疑問を侍従の三人、トリス、タトス、ダドリィーへ。


「私は…カティ殿の子に、会ったことがない。…警戒されているのか?」


と、聞いた。


すると、最初は。


「まあ、警戒はされてるんじゃないかなぁ~。あの王様、カティ殿下のお子の話はあまり、ディアライル様にはしないし~。というか、会わせる気もゼロでしょ~」


この外遊中に、ディアライルを殿下から名前呼びに変えたトリスがそう笑いながら、言う。


続けて、タトスが。


「ファーン王は王弟のカティ殿下のお子を溺愛なさっているそうですからね。しかも、カティ殿下のお子はΩですから、αの殿下には会わせたくないのでは?」

と、冷静に答え。


残るダドリィーは笑顔で。


「ファーン王は慎重な方だからねぇ~。自国内に不安要素は作らないよ。そこまで愚かじゃないさ~」


と、言った、


しかし、その意味深なトーン。

そこには、様々な嘲笑と嘲りの色が透けていた。



ディアライルはまず、トリスへ。


「どうすれば警戒されないで、カティ殿の子供に会うことができる?」


と、聞き。


ついで、タトスへ。


「αが簡単には、 Ωに会えない理由は?」


と、問いかけ。


最後に、ダドリィーへ。


「不安要素とはなんだ?…。私は不安要素になるのか?」


と、聞いた。



αでありながら、βの母から生まれたディアライルはαやΩの事をあまり詳しく知らない。



自国では、それを知る前に、βの祖母や母に情報を遮断されてきたからだ。


ディアライルは、この外遊で確信していた。あくまでも、あの二人は自分にとっての"立派な皇帝"が欲しいだけなのだと。



βの二人に、αとしての皇帝に用はない。



しかし、二人から離れた今、ディアライルは自身の性であるαの事や、αにとって重要なΩの事を学ぶチャンスを得た。



知らない事や分からないことをそのままにしてきたが、今は聞くという姿勢をこの外遊中は崩さないと、決めていた。



侍従の三人。

タトスとダドリィーはα。

トリスはΩ。



通常、αにΩの侍従は聞いたことはないが、ディアライルは事情が事情であり、トリスも発情期ヒートが来る年でないことから、特別に侍従の立場にいる。


元々、リアーツは皇帝の妻に仕える家である関係上、Ωか女が当主になる事が義務化されている。


トリスの親であるリアーツ侯爵もΩだ。




トリスは。


「ディアライル様。信用と信頼を勝ち取るんだよ~。警戒を解きたいならさ」


と、返し。


「αがΩに簡単には会えない理由はΩの匂いにαが敏感に反応するからです。特に、番の匂いはαは勿論のことΩも理性を忘れます。カティ殿下のお子を溺愛するファーン王が易々とΩであるお子にαである殿下を会わせないのは、そういった理由からでしょう」


と、答え。

ダドリィーは。


「従兄弟殿は…。ファーン王からしたら、そりゃかなりの不安要素の塊さ、αとΩは理屈じゃないからね~。Ωはβ以上に、αには逆らえない。だからこそ、甥を溺愛するファーン王は守りたいから、遠ざけるんだよ~」


と、返した。


「αとΩの関係は複雑なのだな…」


今まで知らなかった世界の理。


その複雑さに、ディアライルは色々と考えを巡らせた。






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