第5話 嘲笑う道化と二本の剣

だが、そんなダドリィーへ。


「し、しかし!ダドリィー”殿”!」


タイタスと呼ばれた侍従は仲間であるはずのダドリィーを”殿”呼びした。

これに対して、ダドリィーやタトス、トリスも、一瞬だけ呆れを浮かべた。


ダドリィーは、自分に"殿"付けしたタイタスへ再度。


「タイタス。君は、あれだねぇ。…根本的に、侍従に向かないタイプだね~。盲信は罪だよ?」


と、ため息混じりに言うと、今度はタトスとトリスへ。


「それにさ~、タトス、トリス。君らは君らで、片方は馬鹿正直だし、片方は空気読まないし、最悪だよ?今日は、あれかなぁ?。バカの見本市かなにかなのかなぁ?」


と、明らかな毒を吐く。


「ダ、ダドリィー"殿"…?」


これに、周りは困惑してゆく。

先程まで、怒っていたタイタスまでも、またもや、ダドリィーを殿付けで呼び、困惑する。



普段、周りが知る"ダドリィー・テンバール"は、こんな風な言い方を人にしない。

常に、微笑を絶やさず、穏やかな印象の少年だ。


しかし、毒を吐くダドリィーに、タトスとトリスは慣れているのか。


「うわぁ~。…出たよ、毒舌ダドリィーだぁー。やな感じ~」


であり。


「バカの見本市。…確かに、そうだな」


であった。



「本当、君らって自由人だよね~…。まったくさ…こっちが、猫被ってんのが、バカらしくなるよねぇ…。なんなんだかなぁ~…」


周りは慌てているのに、ダドリィーの変化に、平然とする二人へダドリィーは呆れながら、そう言うと、黙ったままのディアライルへ向き直り。


「殿下。…我がテンバールも、ガウディースも、この場にはいないルースも、そして、ガウェインも、あなたが、いずれは自らの配下としなければいけない家です。それに、リアーツは本人が申したように、彼等の忠義は皇室にはありません。特定の人間にしか、"リアーツ"は仕えない。…ですが、あなたはいずれ、そんな人間からも、相応の敬意を得なければなりません。果たして、今のあなたに、それが出来ますか?」


と、胸に手をやり、腰を落としながら言った。

その言い方は、不敬を働いていると、言われてもおかしくはない。



だが、そんなダドリィーの態度を前にして、ディアライルは、ぽつりと、三人の名前を口にし。


「…ダドリィー、タトス、トリス。四人だけで話がある」

と、言った。

すると、三人はそれぞれ。


「はい、殿下」

ダドリィーは、ニッコリと笑いながら。


「かしこまりました」

タトスは淡々と。


トリスは興味無さげに、渋々といった感じで。


「はぁ~い」


と、答えた。



まだ動揺や、困惑から抜け出せない周りを放置して、四人は場所を移す。












別室に、移動すると、すぐに、トリスは言う。


「ねぇ~。殿下は、そんな生き方で苦しくないの?」


その顔には、嘲りや侮りは見えず、本当に不思議そうな表情が浮かんでいた。


「…そなたには、私が苦しく見えるか?…」

「まぁ、生きやすいようには、見えないかなぁ~。せっかくなら、楽しく生きなきゃだよ~」

「…そうか…、タトス」

「はい、何でしょう?」


ディアライルはタトスに向けて。


「そなたには、私が…、どう見える?」


と、問う。

それに対し、タトスは数秒、考えたあと。


「殿下は…些か、硬い方です。柔軟性がない…。それに、ずいぶんと、…窮屈そうだ。このままならば、早々に潰れますね」


と、忌憚なくものを言った。

そこには、皇太子に対する配慮など些かもない。

愚直な答えが、そこにはあった。


「…そうか、…では…。ダドリィー」

「はい、殿下」

薄笑いを浮かべたダドリィーへディアライルは。


「そなたは、私をどう見る?」

と、先程とは言い方を変えて、問う。


これに対し、ダドリィーは口元を上げ、ニタァっという効果音が似合いそうな表情を浮かべて。


「あぁ!!従兄弟殿!。皇太后と皇妃殿下のあやつり人形の従兄弟殿。このままでは、あなたはあなたとして生きられない!あなたは、操られたままに、生きてきた!なんて、哀れな従兄弟殿」


と、喜劇役者の様な言い回しで答える。


三人三様の言葉に、ディアライルは。


「楽しく、生きるとはなんだ?」


「柔軟性とは…、なんだ?それに、そんなに…、私は窮屈そうに見えるか?」


「私は哀れなあやつり人形か…。ならば、どうすればいい…?」


3人を交互に見ながら、呟く。


それに対して。


「殿下は愛を見つけなよ~。自分だけの愛!そうすれば、生きるのが楽しくなるさ~」


と、ニカッと笑いながら、そうトリスが言い。


「まずは、”遊び”を覚えましょう。話はそれからです」

と、冷静にタトスが答え。


「糸を切り、操られるフリをするのさ。主導権を取り戻すんだ。あなたは、あなただからねぇ~。他の誰でもない」

と、またも、芝居がかった動作と口調で、ダドリィーはそう返す。


暫くして、ディアライルはまず、トリスへ言う。


「愛…、トリスよ。私だけの愛か…」


「そうさ、あなただけの愛だ!その愛は、誰にも奪えない。いや!誰にも、それを奪わせてはいけない!そんな…、あなたの愛が…、いづれは、この僕の…、リアーツという家の忠誠を引き出すからね!」

「忠誠…?」


あの"リアーツ"の忠誠?。


意味がわからないと言った顔をしたディアライルへトリスは言う。


「リアーツはね、殿下。その代々が時の皇妃を守る剣であり、盾なんだよ。我等は、皇帝にすら忠義は尽くさない。ただただ、我等の忠義は、時の皇妃だけに捧げられる。けど、そこには…、ある暗黙の了解があるんだよね~」

「何だ、それは…」

「愛さ!皇帝からの皇妃への揺るぎない愛!それなき者を…我等、リアーツは守らないからねぇ~…」

「愛…、では…やはり、母上やお婆様は…」


本当は薄々、ディアライルも、分かっていた。


母も祖母も、その夫に本当には愛されていないと。


母を見る父の目にも、祖母を見る祖父の目にも、熱は見えない。


「そうだよ~。先帝も、現帝も。自分の…妻を愛しちゃいない!。だから、…愛されないから、皇太后も、皇妃も、必死なのさ。形を得ようとね…」

「形?」


突き付けられる真実に、ディアライルは呆然とする。

そんなディアライルへトリスは更に言う。


「殿下。形とはあなたさ」

「私?…」

「あの人たちは、あなたが立派な皇帝になることが望みなんだよ~!」

「…皇帝に…なること」

「立派なの前に、自分に都合のいいって付くね!」


まるで、それは…。




「あぁ…私は…、"道具"か…」



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