第4話 侍従たち

あの大人達の様々な思いから、三日も経たずに、ガウディース公爵の息子タトスとリアーツ侯爵の息子トリスは、ディアライルの侍従になった。



当初、ディアライルの周りに居た他の侍従達は1人を除いて、タトスとトリスのいきなりの侍従就任に、ある者は不安を感じ、ある者は苛立ちを感じていた。


不安は自分が侍従から外れるのでは?といったものが大半を占め、苛立ちは純粋にタトスとトリスが気に入らなかった者が抱いた気持ちである。


何故なら、タトス・ガウディースはカーライル帝国では、絶大なる権勢を誇り、莫大な富を有する四つの大貴族の内の一つガウディース公爵家の人間だからであり、トリス・リアーツは太皇太后の寵愛を受けるリアーツ侯爵の息子だから。


そして、一人を除いて、皆が様々に思うのは、その身分が侯爵以下の家柄の者というのも関係していた。



今回、新たに侍従になったタトスとトリスの他にも、四大貴族の一角の家から、既に一人、侍従としてディアライルの側に居る者がいる。


その名をダドリィー・テンバールという。


ディアライルの母ヘラヴィーサの兄である現テンバール公爵の末の子。

ディアライルとは従兄弟同士という間柄である。


ちなみに、他の二つの家からの侍従は居ない。


ルース公爵家には、嫡女ちゃくじょは居るが嫡男ちゃくなんが居ない為であったが、ガウェイン公爵家には、男の子供は何人か居るにもかかわらず、誰も侍従にはなっていない。



ガウェイン公爵家は、現帝の姉が嫁いだ先であり、当初はガウディース、テンバール、ガウェイン。

この三家から、侍従をと、当初は皇太后ジェシカも、考えていたのだが、当のガウディース公爵がいつも、その話をはぐらかし続け、ガウェイン公爵も、現帝の姉であり、自身の妻であるナーサディナが息子を侍従にするのに、否を唱えた為、断りを入れてきた。


残る一つのテンバールはといえば、皇太后の生家でもあり、皇妃の生家でもある為、断る理由がなかったため、息子を侍従にした。


しかし、テンバールとて、裏を返せば、皇太后と皇妃の生家でなければ、即座に断っていた可能性もあった。


現テンバール公は、皇太后である叔母ジェシカにも、皇妃である妹ヘラヴィーサにも、別段、深い情があるわけではない。


逆に、テンバール公からすれば、私欲に走り、私怨に燃える厄介な叔母と妹が疎ましいという気持ちを持っている。



テンバール公は、先帝の苦悩を誰よりも側で見ていた。


見ていたからこそ、叔母の浅ましさと妹の貪欲さに、吐き気すら覚えていた。













そんな気持ちもあり、ディアライルの侍従へ15才の嫡男でも、10才の次男でもなく、当時五才の末っ子をテンバール公は差し出した。


侍従であるから、15や10の年の差なんて、問題にならないところを何故、末っ子なのか?と疑問に思っている叔母と妹の二人へ。


「殿下は、まだ幼い内から、皇太子殿下となられるのです。侍従にも、相応しい振る舞いが求められる。ならば、下手に年が離れているよりは、比較的に、近い年の者と一緒に教育なされば良いのですよ」


そう言って、あたかも、"皇太子殿下"の為だと、末っ子を差し出した理由を述べて、二人を納得させた。


これに、妹ヘラヴィーサは信頼しきった顔で。


「流石は、兄上だわ!本当に、頼りになりますわ」


と、言い。

叔母ジェシカは。


「あなたは、本当に良き甥です。これからも、頼りにしていますよ」


と、上から目線で言った。



それ対して、表面上は穏やかな顔で。


「…私にお任せください。皇太后様、皇妃様」


と、テンバール公爵は返した。


しかし、その目だけは、極めて冷ややかに、叔母と妹を映していた。







だが、そんな様々な大人達の思惑が渦巻く中にあって、ディアライルは新しく、侍従になったタトスとトリス、そして、ダドリィーの新たな一面を見て、小さく笑う日が増えていった。




トリスの飾らない性格とタトスの冷静さとダドリィー本来の毒舌がディアライルに、新たな世界を見せた。










まず、トリスは初めて会った時。


「皇太子殿下。改めまして、トリス・リアーツです。本来はあなたの奥方に、仕えるのが僕の役目です。から、ぶっちゃけ、僕はあなたに興味もなけりゃ、忠誠なんて、欠片もありませーん!」


と、他の侍従達もいる前で、そう発言した。


騒然とする周りに、トリスは。


「そんな僕が今、あなたの側にきた理由は、あなたがちゃんとしないと、僕の本来のお仕事が機能しないからでーす」


と、更に言った。


「…………」

それを聞いたディアライルはどう返答していいか?分からず、黙った。


皇太子に対しての敬意の欠片も見えない発言をするトリスへディアライルが反応する前、侍従の一人が流石に。


「ぶ、無礼者!!貴様は何を言っているか、分かっているのか!」


と、怒りながら言うと、トリスはつまらそうな顔と耳を指で押さえながら、言う。


「も~。煩いなぁ~…、そんな怒鳴らないでくんないかなぁ~。っか、そんな大声じゃなくてもよくない?」


その火に油を注ぐ、トリスの態度に、侍従も怒りを向ける。


「き、貴様ぁー!」

「う・る・さ・い・よ!…ねぇ、タトス。僕、間違ったこと言った?」


黙って成り行きを見ていたタトスへそうトリスが聞くと。


タトスは顎に手をやり、淡々とした口調で答えた。


「トリス。お前は本来、皇太子へ頭を垂れる必要はない。だが、侍従として着任しながら、お前は常識のない発言をした。そこには、非がある」


トリスは、そう言われて、そうか!という顔をしながら、自分に対して、怒鳴った侍従を指差した。


「ふーん。じゃ、アイツは正しいの?」


これに、タトスは。


「愚かだ」


と、一言。


「な、なんだと!!私のどこが、愚かだと!」


愚かだと言われた侍従は、怒る。

それに対して、タトスはまたも、淡々とした口調で言う。



「…はぁ…、皇太子殿下の侍従とは影だ。皇太子殿下に対して、トリスは無礼な真似をした。それに対して、ただ怒鳴っていては皇太子殿下の侍従としては、失格だ」

「なんだと!私のどこが、失格だというのだっ!」


タトスへ向き直り、そう怒鳴る侍従へと、ここで。


「タイタス。君は直情型だねぇ、言葉一つ一つを真に受けて、感情のまま喋るなんてさ、侍従失格だって言われても、仕方ないさ。君ら、忘れてないかい?殿下の御前だよ~?」


という声が掛かった。










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