来賓をまねく相談

展示の日程がだいたい決まった。それにあわせて、本国からのお客をまねく相談をしている。


本国側で展示品をそろえる中心になってくださっている王室宝物館長には、会期の1か月まえに来ていただいて、展示の準備にたちあっていただくことになった。展示の説明文については、花旗国の公共の場でつかってまずい表現がないように、ぼくが窓口になって花旗国語の専門家に点検してもらっているのだけれど、それで意味がかわっていないことを宝物館長に確認してもらうことも、ぼくのしごとになる。


王家が共同主催者なので、宝物館長だけでなく、王家のどなたかが花旗国を訪問してあいさつをしようという話になった。宮内庁は最初は旅費の出費をしぶっていたのだが、本国を知ってもらうための広報としてのねうちをみとめて、追加の予算を組んでくれることになった。


ただし、国王陛下ご本人のご訪問については、花旗国がわの条件がついた。王様は政治に深くかかわっていないけれども、国家元首だから、王様のご訪問ならば花旗国総統が応対するべきだ。しかし総統のだいじな政治の日程が展示の会期のはじめごろとおわりごろにかさなっている。王様の訪問が可能なのは、会期のなかばの、議会の夏休みにあたる時期にかぎられる。


開会のあいさつをする人として、弟ぎみではどうかという提案があった。弟君は、姉がどんなところで働いているか知りたくて、早く見に行きたいと思っているそうだ。そして、展示の背景である王家の歴史の説明などは宝物館長にまかせられるから、王家代表はあいさつができればよく、少年でさしつかえない。


しかし姫君にとってこの案は心配が大きすぎてうけいれられなかった。弟君が異国に来たら、気もちが大きくゆらいで、予想できない行動をとってしまう可能性がある。本国に帰りたくないと言いだす可能性もある。会期のはじめには、姫君は展示の内容を気にかけなければならず、同時に弟君のことを気にかける余裕はなくなる。どちらもぼくが代行できることではない。弟君には、ほかにも案内したいところがあるから、会期の終わりにあわせて来てほしい、ということにした。


開会のときには、姫君の母君である王妃さまがおいでになることになった。王妃さまも花旗国にとっては国賓になるけれど、政治にかかわっていない総統夫人が応対すればよいから、会期のはじめでもかまわないのだ。


ただ、ぼくにとっては、試練になる。ぼくは展示の法律顧問として王妃さまと対面することになる。展示物の説明文をあつかったおかげで、本国の庶民が王族にむかってとるべき礼儀の約束ごとがいろいろあることを知ってしまったのだけれど、それをわきまえたふるまいは、これから練習しても身につきそうもない。花旗国の市民であるかのようにふるまって、そのかぎりで失礼のないように、そして よい印象をもっていただけるようにしたい。


職務上の対面だけでなく、会話の場にまねかれて、話題がはてしなくひろがることもありそうだ。なりゆきによっては、姫君がぼくとの結婚を考えていることを伏せていられなくなるかもしれない。おだやかにみとめられたばあいはゆっくり進めればよいのだけれど、だめだと言われたばあいは姫君の王家離脱をいそぐことになるかもしれないし、結婚の計画 -- まで行っていない、構想 -- をあきらめることになるかもしれず、たなあげにするかもしれない。できれば展示のあいだは伏せたままにしておきたい。なんとおりものなりゆきにそなえておかなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姫君と騎士の異国生活 顕巨鏡 @macroscope

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ