展示企画の相談

館長のはからいで、ぼくは姫君の研究室に毎週かようことになった。そのころ姫君は、本国についての展示の構想を実行可能な計画にすることをもとめられていた。ぼくは、その企画についての相談あいてとして必要になった。


姫君は、王族からぬけるまえに、王族であり博物館学芸員でもあるたちばを利用したしごとをひとつやりとげたかったのだ。これまで本国の外に持ち出されたことがない王家の宝物を展示し、あわせて、本国の歴史のなかでの王家のやくわりのうつりかわりについて的確な知識を提供することだ。ぼくもそれを応援したかった。ところがそれにはいろいろな制約があった。


姫君がつとめる博物館は、政府や政党から独立した民間団体であることを誇りにしている。花旗国政府から文化振興の補助金をもらっているが (もらわなければやっていけないのだが)、それは博物館が自主的に決めた方針を政府がみとめてくれたものだ。政府が宣伝したいことを請け負うことはない。外国についての展示ならば、対象となる国に協力してもらう必要があるけれども、共同主催者になりたいという意向があってもことわり、展示のすじがきを博物館側がきめるという条件のかぎりで協力してもらうのだ。本国の王家はもはや政治に深くかかわっていないので、王家との共同主催はみとめられることになったのだが、王家の家計のおもな財源は宮内庁からの給費だから、政府と無縁でもない。微妙な判断が必要となるのだった。


花旗国の市民のうちには、博物館の独立性を強く求め、自国の政権にちかづくことも外国の政権にちかづくことも警戒する人たちがいる。また、税金のつかいみちにきびしく、政府から博物館への補助金が正当なものかを点検しようとする人たちもいる。展示企画の趣旨を、そのような批判にたえるように、しっかりさせて、文章としても明確にのべておく必要がある。そこで花旗国の法律の知識が必要になる。ぼくのせまい意味での専門ではないけれど、姫君はぼくが専門家の知識をひきだすことを期待している。


これはぼくの職業上のしごとになるから、この展示企画に関する法律顧問団の一員になるという契約を博物館とむすぶことになった。そのおかげで、館長がいないときでも姫君の研究室に出入りできることにもなった。


他方、本国のことについては、大使館員に相談することならばいつでもできるけれど、彼らは本国政府の下にある外務省の職員であり、王家のことについては宮内庁経由で知っているだけだ。姫君はご両親と手紙のやりとりをしているけれど、その内容はだれにでも見せられるものではない。しかし、ひとりで考えているだけでは行きづまることもある。姫君はぼくに、姫君の頭脳の延長となることを求めている。


こちらの面では、ぼくのたちばは、姫君の個人的友人だ。共有する秘密が多くなって、ますます親密になった。しかし、結婚の計画は、まったく進まなくなった。

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