王女の深謀遠慮 (2)

王女との話はつづいた。


「本国の王位継承法をしらべたとき、いつからいまの制度になったか、気がつきましたか。」

「三代まえの王様のときです。」

「それよりまえの王家は、一夫多妻だった。男の王族とそのきさきでない女の人のあいだにできた子も王子とよばれ、王位継承の候補になることがあった。候補者が複数いてあらそいになることもたびたびだった。その反面、後継者がいなくなる心配はなかった。ところが、国の近代化とともに、一夫一妻制がのぞましいということになった。王家はその手本になれということになって、王族の子のうちでも正式に結婚した夫婦から生まれた子だけが王族になれることになった。そのうえ、むかしは女王がいたこともあるにもかかわらず、王族の女は結婚するとかならず王家を離れて一般国民になることになった。それで、王位継承者になれるのは、男の王族の妃になった女の人が生んだ男の子だけになった。これだけ制限されれば、人数がだんだんへっていくのは、あたりまえだよね。」

「お妃が確実に子どもを生めるかどうか、あらかじめわかりませんよね。子どもを生んだ実績のある人ならば、また生めるだろうと予想してよいかもしれません。しかし、そういう人をむかえるには、すでに夫と子のある人に離婚して再婚してもらう必要があるし、王子には王族でない兄や姉がいることになる。それは本国の法律のうえでは可能なことだけれど、王家がそんなふうになってほしいと思う人は、あまりいないでしょうね。」


「わたしは、もちろん子どもを生んだ実績はないけれど、医者のみたてによれば、子どもを生む能力はある。もし、わたしが、結婚しないで、王家を離れないで、子どもを生んだらどうなるだろう。」

「法律には、王族が結婚しないで生んだ子のことは書かれていませんね。法律の下の政令はあるのでしょうか。」

「王族の男が妃以外の女の人に子を生ませたばあいについての政令はある。その子は、王族にはならず、母親が一般国民ならば子も一般国民、母親が外国人ならば子も外国人として登録される。でも、王族の女が結婚しないで子どもを生んだばあいについては書かれていない。男が一夫一妻の道徳をやぶることはありうるけれど、女はまもると思われているようね。実際、国内では監視の目をくぐるのはむずかしいけれど、今のわたしのように、あやしまれずに国の外に出ていれば、やろうと思えばできる。」

「その政令の意味が、お子さまの身分は母親と同じ、ということならば、お子さまも王族になりますね。」

「そのように王女につごうよく解釈してもらえることは、王家の慣習からすると、ありそうもない。王子がたりなくてこまっているおりだから、ありえないともいえないけれど。」

「逆に、政令の、結婚しないで生まれた子は王族でない、というところが参考にされると、お子さまは一般国民にも外国人にもなる理由がないから、法の保護をうけられないおそれもありますね。外国に住んでわかりましたが、直接には本国にたよっていなくても、本国があるおかげて助かることがあります。国籍がない人はつらいですね。」

「未婚で子を生んだことが恥とされて、王家を追放されるだけでなく、王家と手紙のやりとりをすることさえ制限されるおそれもある。自分の損は覚悟するとしても、子どもの将来を賭けるわけにはいかない。」

「お子さまが王子とみとめられたとしても、今の弟君についてのご心配と同様なことがありますね。そのとき今の姫君のようにささえてくださるかたがおられるか。」

「心細いよね。わたしががんばって王家をさきにのばすことができたとしても、王家の問題の構造はかわらない。そして、わたしは王女の身分にこだわりはないし、自分の子をぜひ王族にしたいわけでもない。すなおに結婚とともに王族からぬけるのがいいかな、と思う。」


「わたしがだれかと結婚して王族からぬけてからも、あなたはわたしの騎士をつづけてくれますか。」

「はい、原則としては。ただし、どれだけ本気になれるかは、おあいてがどんなかたかによります。わたしを騎士とみとめてくださるかたならば、つづけられるでしょう。」

「もしわたしがあなたと結婚したいと言ったらどうしますか。」

「わたしには、自分が王族のかたの家族になることは、想像さえできません。でも、もし姫君が王族から離れてわたしと家族をつくりたいとおっしゃるのならば、まじめに考えます。即答はできませんけれど。」

「ありがとう。いまは決めないけれど、ひとつの可能性として考えに入れさせてね。」

「可能性としておくのならば、わたしがほかの人と結婚する可能性も残しておいてくださいね。そのばあいは、わたしが姫君の騎士でありつづけることをみとめてくれる人をえらびますから。」

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