武者修行の目標
ある日、ぼくは、ちょっとふざけて、王女に「姫君」と呼びかけた。そうしたら、「わたしを「姫君」と呼んでくださるなら、わたしはあなたを「騎士どの」と呼びますよ」と言われた。それは呼びかただけの問題ではなかった。王女はぼくが王女のために働くことを期待したのだ。
「騎士どの、武者修行をしてくださいな。」
「武道をならえとおっしゃるのですか?」
「いいえ、わたしに必要なのは、花旗国の法律の使い手です。本国の王室と政府から帰ってこいと言われたとき、花旗国の裁判所をみかたにつけられるように。」
「花旗国の弁護士資格は、すでに検討しました。外国人でもとれて、確実に永住権につながる資格として、まっさきに出てくるものですから。でも、あれは高嶺の花です。花旗国の優秀な学士でも、なかなか合格できません。」
「あなたが法律の達人になってくれたらうれしいけれど、ならなくてもいいのよ。あなたは、わたしにあなたの調べものの手つだいをさせたでしょう。」
「申しわけありません。」
「とがめてるのじゃなくて、ほめてるのよ。あなたには人をつかう才能がある。わたしがこまっているときに法律の達人を呼びだしてくれる人になってほしいの。達人に働いてもらうにはしかるべき報酬をださなくてはいけないことはわかってる。それはわたしがだせるように、わたしの職業能力を高める努力をつづけます。」
花旗国の法律事務所には、たいてい、弁護士のほかに、そのもとで働く事務職員がいる。ぼくにも事務職員ならつとまりそうだ。しかし、外国から応募しても採用されそうもない。ともかく花旗国に行き、法律の勉強をしよう。弁護士資格をとるのぞみは捨てないが、そのあいだに法律事務所の事務とか営業とかのいい職がみつかればそこに行ってもよい。ぼくが花旗国にわたって当面何をするかは、王女からの要請のおかげで、明確になった。
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