図書館で (2)
雑誌に、外事学校を紹介する記事が出た。その中に、この国の王女が外事学校の学生になっている、と書かれていた。くわしく読んで、おどろいた。図書館で顔を合わせていた人は、王女だったのだ。
「王女さまとは知らず、なまいきなことを言って、失礼いたしました」とあやまったら、「今までどおり、学生どうしとして、あいてをしてくださいな。ただし、王女がどんな本を読んでいるかは、ひとにきかれても、だまっていてね。」 と言われた。王女とぼくが出あったのは、外国の法律や政治制度についての本の棚で、ふたりとも読もうとしてぶつかったのは、花旗国の移民法の本だった。ぼくは、自分が花旗国に移住することが可能かどうか考えていた。この本を熱心に読む人の動機として、ほかのものがありうるだろうか。
王女も、ぼくに対しては隠せないと思ったようで、うちあけてくださった。
「わたしが、華族女学校ではなく外事学校に進学することを、宮内庁の役人たちも歓迎してくれた。それは、王族のうちに外国からのお客の応対ができる人がいたほうがよいからだった。この国の法律で、わたしは、結婚すると、王族ではなくなるのだけれど、宮内庁は、わたしが王の親族として外交の役わりをつづけることを期待している。でも、そうすると、わたしは、王族でない国民にはあるはずの職業をえらぶ自由がなくなるし、わたしが結婚するあいてもその条件にあう人にかぎられてしまう。わたしは宮内庁にしばられたくない。それには、外国に移住して、本国にたよらずに生きていくしかない。わたしを移民として受け入れてくれる国があるか、そこに住んで食っていくためにはどんな職業につけばよいか、しらべているのよ。」
王族でも貴族でもないぼくと、事情はちがっていたが、いまめざしているところは だいたい同じだった。
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