姫君と騎士の異国生活

顕巨鏡

図書館で (1)

外事学校の学生だったぼくは、学校の図書館の書庫にこもって調べものをしていた。卒業生のうち数人は外交官に採用されるけれど、自分がそれにえらばれる可能性は高くない。どこに行ってどんな職業についたらよいか考えるための調べものなのだった。


まえに読んだ本をちょっと確認したいと思ったら、棚になかった。だれかが持ちだしているのだ。書庫のとなりの閲覧室に行ったら、その本を読んでいる人がいた。女子学生だった。1時間ほど待って、「あと何時間かかりますか」と声をかけてみた。「2時間ぐらい」と言われたので、「わたしの用事は、索引で「. . . 」ということばをひいて、そのページを見せてくれればすぐすむのですが」と言ったら、そのようにしてくれた。簡単にお礼を言って、名まえもきかないで、わかれた。


それからたびたび、図書館の、ある分類の棚のところで、彼女と顔をあわせた。ある本を読んでいて、よくわからないところがあった。彼女もその本を読んでいたことを思いだして、「ここはどういう意味か、わかりますか?」ときいてみた。「自信がないけれど、こういう意味ではないかしら」と、いっしょに考えてくれた。

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