第3話 プギャァ

「プギャァ!面白いくらいに騙されてやんのwww」

『相も変わらず性根が腐っていて安心感すら覚えますよ。創造主』

「ハハハ、そう言うなって。にしても美味いな、この味噌スープ」

『良かったですね。あ、創造主の仰っていた情報です』

そうイリヤが言うと、何もないはずの虚空にウィンドが現れた。

「おー、サンキュー」

『お安い御用です。それでは』

「おーう!あんがとな」

「ふんふん。白峰玲華、へぇ三大財閥の娘か」

そのウィンドウに写し出された情報を吟味しながら、男は自分の脳内より徹夜で詰めた情報を引っ張り出す。

白峰財閥。

日本三大財閥の一つ。軍事方面が主。趣味の悪い人体兵器を作り出した白峰河間とかいうマッドの子孫の死の商人の一族。

兵器産業の傍ら傭兵業を営む。

第二次大戦後急激に成長した財閥だ。

現状、この世界の平穏は彼らの気紛れで保たれていると言っても過言では無い。

……一つ、言わせて欲しい。

何で某傘のウイルス蔓延させる系企業みたいなののさばらせてんの?

まぁ、まともにっても最悪共倒れするからなのだろうが。

にしても、財閥を解体できなかった影響もろに出てて草なんだ。

「草生やしてる場合じゃねぇよなぁ」

どうするか。

仮に今回のラスボスが白峰財閥関連だったとして、人体兵器が昨日読んだ資料通りの性能ならば、多少苦戦するだろうな。

時間がたって大戦時のものより高性能化してるだろうし、内部工作とかも視野に入れるか?

でもなぁ、めんどくさいんだよなぁ。

今はもう記憶の彼方にある元の世界故郷ではそう言うの全部仲間ボスがやってくれてたし。

出来なくはないけど最高の結果は見込めない。そして最高の結果以外アイツは納得しねぇだろう。

「おいおい。いつからこの家は不審者がのさばるようになったんだァ?」

不良風の少年が廊下から此方を見ている。

「ンァ?昨日からだよ。お前だれ?」

「テメェが名乗れやァ」

「今はまだ名もない天才賢者さ。あ、別の世界のでいいなら教えるよ?」

「ふざけてンのか?あぁ?」

少年はそう凄むと此方へと大股で近寄ってきた。

「……舐めてんのかァ?大体、何でアイツの家に男がいるんだよ?」

「えぇ何君怖ぁい。玲華チャンのファンか何か?」

「……テメェ」

えぇなに怖いこの子さらに睨んできたぁ。って言うか、冷静に考えてこいつ何だ?恐らく玲華チャンの友達か何かだろうけど。

……でも鍵かけてる友達の家に無断で入るか?

はいん無さそー

だとしたら彼氏?家族?

うーん視た限り血縁ではないなぁ。

じゃあ彼氏?玲華チャンの方にそう言う因果が薄かったから恐らく違う。この子も薄いし。

……えぇ?じゃあ本気でなんだ。

イリヤさーん。

《あの、少しは自分で調べたらどうですか。彼は宮間昌みやまあきら。白峰玲華の幼馴染みです》

「あぁ、君、あの子の幼馴染みかの宮間クンかぁ」

瞬間、胸倉を掴まれる。

昔から喧嘩腰でこられると人を煽ってしまうのは悪い癖だ。

「テメェ…」

宮間が何か言いかけた直後、俺は宮間の足を崩し、床に伏せた。

ババババババババ

「っ!?」

宮間が驚愕の表情で男を見つめる。

「はぁ、もう辺りをつけたか」

恐らく、先程図書館でまみえた連中だろう。

「派手にやってくれるねぇ」

コロンと、手榴弾が転がってくる。

「うぇ、そこまでするぅ?」

咄嗟に簡易的な結界を張る。

バァァァン

結界はその役目をしっかりと果たして消失した。

無論、俺達に傷ひとつない。

「夢破れたオッサンが、ガキの邪魔するもんじゃないぞ、小僧」

男が緩慢な動作で立ち上がりつつ、穴の空いた壁から出てくる黒服の男を見た。

「ハハハ、言ってくれるねぇ。あそこからここまで、急いで来たんだぜぇ?褒めてくれよ」

アサルトライフルらしき銃火器を肩に担ぎ、黒服がニヤリと笑う。

「うーん。その程度なら出来て当然。そうだろ?

黒服はその言葉に大きな動揺はなく、その殺気を強める。

「何でそれを知ってんのかねぇ。アンタにゃ色々聞かなきゃいけねぇらしい」

そう言って、ライフルを男と宮間昌へと向けた。

「まぁ、一回死んどけ」

その言葉の直後、再び弾幕が部屋を蹂躙する。

「たっーく、異世界賢者舐めんなよ?」

そう言って、先程とは比べ物にならない強度の結界を展開した。

(さっきより弾幕は薄い…が)

恐らく、第二段が待っている。

休息なく射ち続ける気らしい。

フィジカル使えよ強化人間と思わなくもないが、恐らくあのライフルも強化人間用に反動度外視で作られた物だ。威力の桁が彼の知る現代世界のライフルとかけ離れている。

けれど、所詮はその程度とも言える。

現に、男の張った結界は微動だにしていない。

(反射使っても良いが…)

それだとご近所に被害が出るトラブルになる

居候と言う身分上、ご近所トラブルは避けたい。

なので、

「おい昌少年、ここで少し待っとけ」

「は、ハァ?何なんだよアンタ!?ってか、何なんだよアイツら!」

パニック状態か、めんどくさい。

宥めんのも面倒だな。

「まぁ、アイツらの正体については俺より玲華チャンに聞いた方が詳しいと思うぞ?じゃ、取り敢えず気絶しといてね」

そう言いながら、伝統芸たる首トンをして気絶させる。

もうちょい結界頑丈にして…選別機能も付けとこ。

「さぁーて、久しぶりに運動しますか」

そう言いながら、結界の外に躍り出た。

「つてぇ!」

「おぉう、容赦無いね」

そんなことを男が口にした直後、無数の弾丸が男を蜂の巣にする。

しかし、蜂の巣になった男から血や肉塊が飛び散る事はなく、まるで霧のように霧散した。

「っ!」

「学ばないねぇ?」

男は、黒服の真後ろに立っていた。

「なんっ─────」

疑問の声を発しようとした直後だ。

黒服の男の下顎が消えた。

「ありゃ?意外に脆い?」

人道外れたクソ実験の産物の割には、大したことのない耐久性だ。

「ハガッ」

黒服が男の手に握られている自らの下顎に気付き、その顔色を変えた。

懐から何かを探りながら宮間昌方向にバックステップで距離をとる。

しかし、

「もしかしてお前さんが探してるのってこれ?」

そう言いながら広げられた男の両手からは、ナイフやピストル、薬物の入った注射器など、さまざまなものが落ちてきた。

「っ」

その光景を見て、誰もが息を飲む。

その意味を正しく理解したからだ。

自分達は、目の前の存在からすれば、即座に片付く塵芥なのだと。

故に、恐怖した───訳ではなかった。

いや、生物としての本能は限りなく恐怖し、この場からの逃亡を訴えている。しかし、彼らの作り込まれた理性が、その本能に完全に蓋をした。

故に、彼らが男の雰囲気に飲まれたのはほんの一瞬。

「へぇ」

次にとった彼らの行動に、男は感心したように目を細めた。

彼らの半数が近接武器を持ち出し、そしてまた半数が逃亡を開始した。

彼らは分かっていたのだ。

到底男に敵わないことを。

故に、彼らの背後にいる何者かに男の情報を届ける選択をしたのだろう。

しかし、それを見逃すならば、彼は別の世界で賢者などと呼ばれていない。

「悪くないが、基本スペックが違いすぎるなぁ」

落胆、と言うよりかはまるで教え諭すかのような声音。

いっそ不気味にすら感じる飄々とした男。

しかし、彼らは恐怖しない。

逃亡しようとしていた半数は瞬く間に殺され、おそらく自らの犠牲は無駄になる。

しかし、彼らはそれでも、不可能だと分かっていても、まるで機械の様に任務を遂行する。

「ほえーこれでも掛かってくるのか」

感心した様に呟きながら、襲い掛かってきた黒服達の命を無造作に引き裂いた。

そして、現状唯一生き残っている敵に、この場で唯一に、視線を向けた。

「なぁ、指揮官さんよ。アンタは来ないのかい?」

自らが始めに下顎を抉った故、発音が困難になっているのか、その問いには荒い呼吸音しか返されない。

「どうするかなぁ…。でもアンタの部下殺しといてアンタを見逃すってのはなぁ」

その瞳に、恐怖が色濃く反映される。

『創造主、提案があります』

そんな声が何処からともなく響く。

「何だ?イリヤ」

『彼は先程の者達とは違い恐怖を感じているようです。それに、彼はそれなりの立場のようですし、情報源になるかと』

「成る程、名案だな」

そして、男は下顎のない黒服を見た。

「とは言え、その状態じゃ喋れんか」

一歩、男が前に出ると、黒服が無意識なのか一歩下がり、そして転んだ。

「ちょーっと、逃げるなよぉ!別に殺さんから」

そんな説得力皆無な言葉を吐きつつ、男は消えた下顎部分に触れた。

「今治すから。あ、クソ痛いけど我慢しろよ」

そう言いながら何かの魔法を行使すると同時、下顎が妙にグロテスクに再生しだす。

「───────っ」

言葉にならない悶絶が、黒服の口から漏れた。

「あ、気絶しちゃった。まぁ良いや。イリヤ、見張っといて」

そう男が口にすると、何処からともなく光輪が現れ、黒服を拘束した。

「俺はこれ直すかぁ」

そう言いながらぶち壊された家の壁を見る。

「時間魔法、溯行リバース

超位魔法の中でも基本魔法に該当する溯行を使うと、家の壁や飛び散った物はみるみるうちに元に戻っていく。

「あーそこ邪魔だな」

そう言って念動力のように魔力で死体を動かす。

「うん、まぁこんなもんか?」

そう言って、襲撃前とさして変わらぬ様子を見せる家の中を見る。

『良いのでは無いでしょうか。それより、宮間昌への記憶の封印処置についてですが、』

「別に良いよ、やんなくても」

『ですが…』

「良いって。彼がこれを白峰玲華と関連付けて考えて白峰玲華に関わらなくなるなら、その程度のモブって事だし、これを知って関わるようなら、シナリオに必要になる人材かも知れない」

『分かりました。仰せのままに。…ですが創造主、その他人を試すような性格はどうにかした方が良いですよ』

「はいはい。…じゃあ、この黒服を移動させますかね」

宮間はどのようにいたしましょう?』

「あー、彼学校とか行ってる?」

『白峰令嬢と同じ学校に通っているようですが』

「そこの保健室に放置しとけばえぇんとちゃう?」

『畏まりました。そのように』

さて、俺はこの男から話し聞くとするかぁ。

「つっても、この部屋汚す訳にもいかんしなぁ。どっか良い場所ないもんか」

と言うか、今日中に出てけっていわれるし、寝泊まり出来る場所探さないとな。

うん、金どうしよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

識者の行く末 あじたま @1ajn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ