第2話 朝御飯はしっかりと
「起きてください」
学生服の少女が、廊下でふわふわと浮きながら寝る男に声をかけた。
「ん?あぁ、すまん。…って、何で学生服?」
「今日は月曜日ですから、登校しなければなりません。朝食は冷蔵庫にありま……何ですかその顔」
「いや……自殺志願者が学校に行くとか言い出したら困惑もするでしょ」
「…貴方が、学校と言う場にどのような印象を持っているか知りませんが、少なくとも私は嫌いではない」
「うへー…まじかよすげぇな」
「貴方、一応賢者を自称しているのでしょう?それはどうかと思うんですが」
「俺は学ぶっつーより拓く側だからな」
「では賢者より開拓者と言う方が合っているのでは」
「知らん。俺が自称した訳じゃない。周りが呼び始めたのがきっかけだ。まぁ、お前が少なくともこの世界において真の賢者たれと願うなら、そうしなくもないがな」
「またそれですか。一体、何なんですか、貴方」
「何か、と言われれば、お前が決めろと返す他無い。ちなみに、過去俺が何と呼ばれたか、参考までに教えようか?」
「いいです。いらない」
「そうか、ならお前が決めろ」
「何故です?私は生きると言ったでしょう。貴方の目的は果たされたなのに何故まだ私に生きる理由を与えようとするのですか?」
「だってお前、生きる理由なきゃ死ぬタイプの人間だろ?俺がいる内に生きる理由を見つける事に慣れて貰おうかなって。そしたら、死なないだろ?」
「私は、必要とされない人間です。他でもない私自身が、自らが生きる事に価値を見いだしていません。貴方の行為は無意味です」
「価値も何も、俺から言わすりゃ有限世界のものなんて合理性で言ったら皆無価値だぞ。最後には全て、痕跡も残らず消える。と言うより、本質的に価値あるもの何てのは幻想だ」
「それでも、私は、あの人たちから必要とされなくなった私には、価値などっ」
初めて、その少女の感情が見えた気がした。
そして、同時にその裏にある録でもないものの影も。
「……すみません。取り乱しました。朝食は冷蔵庫に入っているので、勝手に食べてください。それと、今日中にはこの家から出ていってください」
それだけ言って、少女は逃げる様に玄関から出ていった。
「ふぅん。成る程。随分と、趣味が悪いね。俺がこう言う人間関係のゴタゴタ嫌ってるって、アイツ知ってると思うんだけどなぁ。それとも、俺の試練にするくらい、あの娘の家庭事情かなんかがヤバいのかぁ?はぁ、まだ世界に体が馴染んで無いし、仕方ない。足使って調べるか」
指をパチンと鳴らして、ローブ姿からこの世界に相応しい格好へと衣服を変えた。
「
そう言いながら家から出る男。
「まずは周辺調査といきますかね」
そう言って、空間に裂け目を作り、そこから小さな箱を取り出した。
「この世界でも世話になるね。よろしく頼むよ、グリズ・イリヤ」
そう言いながら魔法陣で筒を作り、その中に箱を放り込む。
「行ってらっしゃい!」
そう男が言うとほぼ同時に爆音がなり、目に見えない程の速さで箱が空へと飛んでいく。
小型衛星「グリズ・イリヤ」。
数多の世界を彼とともに観測する観測者、その一つ。
『今回は随分早い召喚でしたね。創造主』
「あぁ、今回は俺が苦手な案件っぽくてさ」
『さっさと終わらせたい、と。分かりました
「毎度助かるよ。ちょっとあの家に住んでた女の子の過去の情報とか調べられる?」
『分かりました。ですが少しお待ちを。この世界のネットワークに接続します』
「うい。それじゃあ、俺はその間に図書館にでも行きますかね」
そう言って男は図書館へと歩き始めた。
◆◆◆
(ふーん成る程。概ね書斎で見たのとズレは無いね)
たった一つ、一切魔法に関する記述が無い事を除けば、だが。
(どぉして、こうも世間様は魔法を隠したがるのかねぇ?)
眼が使えれば、何千何万何億年の過去だろうと見通せるが、生憎と今は力を解放する時ではない。
「はぁぁぁぁ、何か今回は人間トラブルっぽいし、モチベ低下まぬがれないよぉ」
『創造主、図書館ですよ。お静かに』
「そーだけどさぁ。あ、何か分かった?(小声)」
『はい。ですがその前に』
「あぁ、分かってるよ。奴さんの相手してやんねぇとなぁ。どうやら寂しがり屋さんみたいだ」
そう言って後ろを振り向く。
「ほう……気付かれていたか」
黒い服にダンディーな渋いおっちゃんがこれまた渋いイケオジボイスで言う。
「ほへぇ、良い声。俺にボコられて泣き目見る前に転職を進めるよ」
「声優かい?悪いが夢破れた後なんだ」
「声優志望がどうなってそうなる。殺し屋」
「どうだかね。人の道は無限だろう?」
「傲るな止めとけ。気軽に無限とか、まじで酷い目に会うぞ。ソースは俺」
「ハハハ!面白ぇ兄ちゃんだ。これから殺しちまうのが惜しいぐらいに」
「おいおい、誰が死ぬってぇ?あと、教えとくが俺はお前の兆倍生きてるぜ、小僧」
パンッ
乾いた破裂音が図書館に響く。
悲鳴は無い。
変わりに黒服数人が本棚の間から顔を出した。
「ホログラムかい?」
イケオジが口を開く。
「ぷっザマァ。俺はもうそこにゃいねぇよ」
元々いなかったけどね。その言葉を、朝の味噌汁と共に飲み込んで、男は未だ少女宅にて舌鼓を打っていた。
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