後日談 冷蔵庫ゴーレム


 エルフとの戦いが終わってから半年後。


 俺は色々と頑張っていて、ようやく周辺国とのいざこざも一息付けた気がする。


 ちなみに頑張っていたのは巨人ゴーレムを量産だ。巨人の軍勢を出陣させて敵国を降伏させたり、降伏してこない相手には城壁を踏みつぶしたりした。


 酷い? そもそもエルフを使って先に仕掛けてきたのは奴らだから慈悲はない。


 そうして落ち着いてふと思ったことがあり、屋敷の地下室でミニマム師匠に相談していた。


「なんじゃと? 食べ物を新鮮なままで運びたいとな?」

「はい。ほら俺も子供がいますし」


 メイルとの子は無事に生まれて成長中だし、ミレスやレイラスも妊娠している。


 産まれた子供に少しでも安全な食事を与えたいのだ。


「荷台ゴーレムがおるじゃろ」

「移動させている間に痛みかねませんので」

「そんなこと言ったらなにも食べられない気がするのう」


 確かに師匠の言う通りだろう。


 この世界では本来運搬は馬車だ。それに比べれば馬車ゴーレムや荷台ゴーレムは、十倍以上の速度で運べるのだ。


 当然ながら速くつくので食べ物も傷みづらい。それは理解できているのだが……。


「それでも少しでも危険を排除したいのです!」

「親バカじゃのう」

「師匠はゴーレムバカじゃないですか。それに面白そうでしょ?」

「そんなに褒めるな。それでどうするつもりじゃ? なにかよい案でもあるのか?」

「冷凍荷台ゴーレムを作ろうかと」

 

 荷台ゴーレムはもはや、現代日本のトラックに匹敵する性能を持っている。だが衛生上まだ劣っていた。


 その理由は冷凍、冷蔵がないことだ。逆に言えばそこさえ解決すれば、もはや我が国の運搬は現代日本と比べても遜色なくなる!


 いや荷台ゴーレムはトラックほど量産できないから、運搬の最高速度はともかく平均値はボロ負けのままだが……。


「そもそもお主、以前にアイスゴーレムを作っておったが」

「あれは足が遅すぎますよ」

「まあそうじゃな。徒歩に近いものなぁ」

「そういうわけで氷で荷台ゴーレムを作りましょう!」

「仕方ないのう、まあ面白そうじゃから構わぬが。ところで弟子よ、フレイアのことはどうした」

「先日、一緒に寝ました」


 こうして俺は師匠と共に、北の雪山へと向かった。メイルに向かうことは伝言したので大丈夫だ。


 改良を重ねた荷台ゴーレムに乗ってきたので、わずか一日半で到着してしまった。いや本当に速くなったなぁ。


 周囲は雪だらけなので、これなら目的も果たせそうだ。


「さて弟子よ。新しく雪で荷台ゴーレムを作るのか?」

「いえ。ここは合体でいきます」


 俺はゴーレム魔法を発動して、周囲の雪をゴーレムへと変える。


 そして雪ゴーレムと荷台ゴーレムを合体させて、スノウ荷台ゴーレムを爆誕させた。


 荷台ゴーレムの表面が全て雪に覆われていて、更に雪による屋根なども造られている。ようはトラックのコンテナみたいなものだ。


「ほほう。雪の部屋を作ったというわけか」

「ええ。えっと中はっと……」


 試しにスノウ荷台ゴーレムについた扉を開き中に入る。ものすごく寒い、冷凍庫の中みたいだ。


「よし! これなら今後は凍らせての運搬も可能ですよ!」

「なるほどのう。じゃがちと気になることがあるのじゃが」


 俺の足もとに立っているミニマム師匠が、腕を組みながら声を出した。


「なんですか? このアイス荷台ゴーレムに問題があるとは……」

「これ、指示出す人間もこの中にいないとダメじゃぞ。大丈夫か?」


 確かにそうだ。危うく指示人まで冷凍にする、悪魔のゴーレムが生まれてしまうところだった。


 いや厚着したらいける気がするが、なんにしても対策は必要か。


「運転席つけます」

「それがいいかの」


 こうして俺達はトラックみたいな運転席を新たに作って、アイス荷台ゴーレムに乗りこもうとしてやめた。


「先に実験した方がいいですよね? 荷台ゴーレムは安定してますけど、雪にしたらなにか不慮があるかもですし」

「そうじゃな」


 念のため動作チェックしておこう。なにかあっても困るし。


 実験やテストは大事だ。


 ゴーレム魔法は危険な産物なので、予期せぬ事態で死亡事故が起きることもある。自分の腕に自信が出始めたころこそ、警戒しなければならない。


 俺と師匠は運転席から降りて、荷台ゴーレムから少し離れた後。


「よし! アイス荷台ゴーレム! 周囲を走れ!」


 そうして荷台ゴーレムを出発させて、動かせた瞬間だった。


 一歩踏み出した瞬間、いきなり荷台ゴーレムがバランスを崩して派手にズッコケた。運転席が地面に潰されてぶっ壊れる。


「こけましたね」

「こけたのう。こりゃ足まで雪のせいで滑ったっぽいのう」

「じゃあ足だけは鉄のほうがよさそうですね。そもそも脚部は雪である必要もありませんし」


 こうして俺はアイス荷台ゴーレムを改良し、スリップしないようにした。


 なんだかんだでゴーレムを試行錯誤するのは楽しい! 


 そして海へと向かって、新鮮な魚を大量に購入して冷凍して屋敷に持って帰る。


「これだけ買えばレイラスたちも喜ぶでしょう。栄養も取って欲しいですし」

「いい考えじゃな」


 そして俺は愛する妻たちの屋敷に、アイス荷台ゴーレムで帰った。冷たくて美味しいものも持って帰ってきたのだが……。


「いいご身分ですねー。まだまだやることがあるのにー、遊びに行ってー?」

「い、いやほら。新鮮な食事や魚のためにね……? 産まれてくる子供のためにも……」

「先にやること終わらせてからー、相談して出てくださいー。どうせ私に相談したら断られるからー、メイルさんに伝言させたのでしょうけどー」

「はい……」


 レイラスに冷凍ゴーレムよりも冷たい対応で迎え入れられたのだった。


 なおアイス荷台ゴーレムは、物が腐りやすい夏にこそ運搬すべきだったのだが……置物の避暑地になった。


 涼しいから……扉開いて側にいるだけで涼しいから……。

 


----------------------------------------------

頭ゴーレム共は、危機がなければ好き放題。

次回、8月30日に最後の後日談を投稿予定です。

本当はもう一話くらい挟もうと思ってましたが、時間が足りなかった(´・ω・`)


8月30日に『弱点ゼロの吸血鬼の領地改革』が発売します!

Web版を改稿して、より面白い作品になっています!

よろしければ買ってくださると嬉しいです!


https://www.kadokawa.co.jp/product/322304000579/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る