第176話 並び立つ


 レイラスは風の刃を放ってきた。マッドゴーレムはそれを受けて、右腕が落とされてしまう。


 流石はレイラスだ。風魔法でありながら、ゴーレムに痛手を与えてくる。


 だが俺がゴーレム魔法を起動し、落ちた右腕はすぐに生え変わった。


「ゴーレム魔法、随分と厄介な代物になって……!」

「だろ? もうエルフには負けないと言ったはずだ! 大人しく諦めて帰ろうぜ!」

「お断りします! ここでエルフたちを潰して、周辺諸国への見せしめにする。それはもう決めていたことです!」


 レイラスが叫ぶと同時に、周囲に生えていた樹が地面から抜けて空に浮かび上がった!?


「樹の矢よ、穿て!」


 3mを超える樹々たちが、マッドゴーレムに向かって襲い掛かって来る!?


 なんだその風魔法の使い方!? やっぱりエルフたちよりよっぽど脅威じゃないか!?


 ……くっ! ならばこちらも対応しなければ!


「ゴーレム、避けろ! を死守しろ!」


 ゴーレムがゆっくりと回避行動に移る。


 腕が落とされようが足が吹き飛ばされようが直せる。だが……ゴーレムコアが壊れたら流石に修復できないぞ!?


 くそっ! 風魔法ならコアを貫く攻撃は無理だと思ってたのに!?


 マッドゴーレムは腕で樹を弾き飛ばしたり、身をよじって回避で胴体部分を守る。だが両腕は削り取られてしまった。すぐにゴーレム魔法で修復する。


 すぐに直せるけど、俺の魔力量も無限じゃないんだぞ!


「ベギラ、貴方の切り札を打ち破れば諦めてくれますね? でないと……貴方に危害を加える必要が出てしまう」

 

 レイラスは少しだけ悲しそうな顔をしながら、俺を鋭く睨んでくる。


 彼女はやはり未だに俺のことを気にしているのだ。そもそもレイラスが勝利しようというならば、ゴーレムよりも俺を狙ったほうが遥かに楽なのだから。


 ……やっぱりお前に虐殺なんて向いてないよ。なら、俺が止めなきゃなあ!


「ゴーレム! 前進してレイラスを押し倒せ! 絶対に傷つけるなよ!」


 マッドゴーレムがゆっくりとレイラスに近づいていく。


 対してレイラスは周囲に無数の樹を浮かべる。


「風よ、襲撃せよ!」


 大量の樹が矢のようにゴーレムに襲い掛かって来る!


 いやもうこれ風魔法じゃないだろ!? 超能力とか木属性魔法とかそっち系だろ畜生!?


「ゴーレム! 防御回避を駆使して何とかしろ!」


 投げやりな指示だが仕方ない! あんな無数の攻撃に対して、ひとつひとつ命令なんて間に合わない!


 しかも樹たちは的確に胴体部分を狙ってきてるな!? 流石はレイラス、敵の弱点を徹底的に攻める!


 マッドゴーレムは襲い掛かる樹をなんとか防ぎながら、ゆっくりとレイラスに向けて近づいていく。


 もちろん俺もゴーレム魔法で修復し続ける! 頼むからコアが事故でやられないでくれよ!?


「このっ……! こ、これでどうですか……!」


 俺は目を疑った。レイラスの頭上に浮かんでいるのは……全長3mほどの岩だった。


 …………風魔法ってそんなに重いの持ち上げられるの!? 


 レイラスはかなり辛そうな顔をしているので、だいぶ無理しているのだろうけどもさ!? 


「はぁはぁ……これは流石に防げないでしょう!? 終わりです!」


 岩がマッドゴーレムに向けて飛んでくる!? 固いし重いから防御なんて無理だし、大きいから回避も困難だ!?


「よ、避けろ! いや胴体部分だけは何としても守れ!」

「させません!」


 マッドゴーレムは動くが、やはり動きが鈍重でどうしようもない。


 マッドゴーレムの胴体部分に岩が直撃し、身体が粉微塵になる。


 頭や両腕両足こそ無事だが、胴体部分は完全に破壊されてしまった。 


「……ベギラ、私の勝ちです。エルフは全て滅ぼします」


 レイラスは息を切らせながら、物悲しそうな顔で告げてくる。


 おそらくほぼ魔力を使い果たしただろう。ほぼ全力を以て俺の切り札を打ち破ったのだ。


 レイラスは俺から背を向けて、ゆっくりと離れようとする。


 彼女は明らかに動揺していて平静ではない。だからこそきっと気づけなかったのだ。


「待て、レイラス。まだ俺のゴーレムは生きているぞ」


 俺のゴーレムは死んでいないということに。


 ゴーレム魔法を発動すると、マッドゴーレムの胴体が再生され始める。


 それを見てレイラスは目を見開いた。


「っ!? コアを潰したはず……まさか、騙したのですか!?」


 いつものレイラスならば、こんな手など簡単に気づけただろう。


 だが今の彼女はとても余裕があるように見えなかった。きっと自分の心を偽るのに必死なのと、想定外の事態への混乱。それら二つで普段の思考力の一割も発揮できていない。


 レイラスは未来予知に近い予測を立てられるが故に、不測の事態に慣れていないのだ。


 だからこそ俺程度の策が成功した。


「そうだ! 確かに俺は馬鹿かもしれないが、馬鹿正直に弱点を言うほどじゃないぞ! マッドゴーレム! レイラスを捕えろ!」


 マッドゴーレムがレイラスに向けて突撃していく。


「……っ! まだです!」


 レイラスは最後の力を振り絞るように、近くにあった樹を浮き上がらせようとする。だが樹は浮かばない!


 彼女は魔力を使い果たしたのだ! 


 これで俺のゴーレムの勝ちは決まった。ならばもうレイラスは、ただの可愛い女の子でしかない! つまり俺の手で止めることができる!


「うおおおおお!」

「きゃあ!?」


 俺はレイラスに飛び掛かって、地面へと押し倒した。


 なんとしても説得してみせる!

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