第175話 合体


 思いついた策は賭けだ。


 成功できるかもわからない。事前準備や試したこともないどころか、たった今思いついた方法。


 だが、だからこそだ。成功すれば目の前の少女に通用する。神算鬼謀で全てを見通すような少女に、辛酸をなめさせることができる。


 彼女の信念を打ち砕いて説得するには、計画性のある行為ではダメなのだ。どれだけ未来を予想して計画を立てても、それは覆ることだと教えなければならない。


 いやそんなややこしいことじゃないな。


 俺のゴーレム魔法の可能性を示すことで、レイラスの予定を壊す。つまり今ここでゴーレム魔法を数年分飛躍させて、エルフたちを絶望させるほどの力を見せればいい。


 ゴーレム魔法の発展によって、数年後にはエルフ達に絶対に勝てるようになるではダメだ。今ここでこの時点で。技術革新させる。


「レイラス、見ていてくれ。これが俺のゴーレム魔法の可能性だ。ドリルゴーレムたちよ、ぶつかり合え!」

「……っ!?」


 俺は近くにいたドリルゴーレムに命じながら、ゴーレム魔法を発動する。


 二体のドリルゴーレムが体当たりのようにぶつかり合う。だが互いに崩れない。


 いやそれどころか彼らの身体が、まるで磁石でもあるかのようにくっ付いた。


「まだまだ! 他のゴーレムもぶつかれ! 一つになれ!」

「ベギラ、なにをするつもりですか……!?」

「なんだろうな! 予測してみろ、できるならな!」

 

 ゴーレムたちはどんどん集まっていき、連結し始める。


 もちろん連結と言ってもただくっ付いただけだ。これだけでは意味がない。


 人なら二人三脚のようになっているだけだ。それが百人百一脚になろうが、ただ動きづらいだけである。


 だが……こいつらはゴーレムだ。彼らの身体は魔法で変形できる、そしてゴーレムは一体ずつ魔力コアを持っている。


 ゴーレムが量産できない理由、それはコアを造るのに大量の魔力が必要だからだ。ならばすでに造っていたコアを改造するなら、そこまでの魔力は必要としない。


 例えばコアの暴走、アレも俺自身はあまり魔力を消費していない。元からあったコアに少し手を加えるだけだからだ。


 ゴーレムの身体を少し変えるのも同様。つまりゴーレム魔法の魔力消費は、ほとんどがコアの作成に費やされている。


 ならばだ。ここにある大量のコアやゴーレムに手を加えるのにも、あまり魔力は必要ないはずだ。


 そして……この集まったゴーレムを混ぜ合わせることが出来れば、約百体分のゴーレムの性能を持つコアにすることができるはずだ!


 ゴーレムコアは何かと混ぜることが可能だ。それ自体は……俺の師匠が自らの魂で証明しているのだから。


 人の魂とすら融合できるゴーレムコアが、コア同士で混ざらないことはない!


「ゴーレムたちよ、混ざり合え! 身体もコアも、最初からひとつだったかのように!」


 俺はくっ付いたドリルゴーレムの一体に手を当て、ゴーレム魔法を発動した。


 バラバラだった大量のゴーレムコアを、ひとつに集めて行く。それと同時にただくっ付いていたゴーレムたちの身体が、ドロドロのゲル状になり始めた。


 混ざりあっていく。コアも身体も。


 そして融合した百体分のコアが、身体を構成し始めた。液状化していた身体が、再び固まっていく。

 

 先ほどのようなただくっ付いただけではなく、一体の人型として変わっていく。


 ゴーレムの身体が大きく膨らんでいき、全長6mを超える巨体へと変貌したのだ。


「ゴオオオオオォォォォォォォ!!!!」


 新ゴーレムはうなり声を上げた。その威容にレイラスは目を丸くしている。


「嘘……こんなゴーレム魔法、なかったはずです! まさか隠していたのですか……!?」


 レイラスが俺に向けて焦りながら叫んでくる。


 俺はそんな彼女に対して、自信満々に笑って告げることにした。


「なかったよ、隠していたわけでもない」

「ならこれは何ですか!」

「今、この場で考えて造った。そしてこいつはこれなんかじゃない……マッドゴーレムだ!」

「それも今名付けたのですか!?」

「そうだ!」


 マッドゴーレム。こいつは俺ひとりで造りあげたモノではない、合作だ。 


 とある天才ゴーレム魔法使いの、妄執とも呼べる禁忌の魔法。その混ぜ合わせる理論を少しだけ応用した、だから狂気マッドゴーレム。


「レイラス、俺は他のゴーレムを混ぜ合わせることができる。そしてこの力にそこまでの魔力は消費しないんだ。つまり……これからは巨人ゴーレムも量産できる」


 エルフの風の防壁が脅威だったからこそ、レイラスは皆殺しを考えたのだ。


 だがもうエルフは怖くない。今後は俺以外のゴーレム魔法使いも立派な戦力になる。


 例えばフレイアたちが作ったゴーレムを、俺が混ぜ合わせるのだ。そうすれば巨人ゴーレムを超えるモノだって、短い期間で用意できるようになる。


 これでもうエルフたちに負ける要素はない。仮に一週間後に戦ったとしても、確実に勝てると断言できてしまうのだ。


 だがレイラスは俺を親の仇のように睨んでいる。


「ふざけないでください……! 私がどれだけ、どれだけ計算して準備して……どれだけ覚悟してこの場に立っていると思っているのですか!? それをこんな突発的な発想だけで覆そうとして……!」


 彼女は目に涙を浮かべていた。


 ……ここまで感情を爆発させるレイラスは初めて見る。おそらく俺の言葉に理解はできているのだろうが、気持ちが追い付いていないのだろう。


 レイラスは必死に覚悟して決意したのだ、エルフの根斬りを。


 当然やりたくなかったことだとしても、その場の思いつきで崩されるのは馬鹿にされていると思ってしまう。


 ましてや彼女は徹底的に計画するタイプだから、綿密に立てた予定が思いつきで壊されるのを嫌う。その気持ちも分からなくもない。


「認めません……そんなその場の思いつきは、きっと問題がある! 貴方はメリットだけ掲示して、デメリットを隠している! こんなあり得ない奇跡を信じるほど、私は子供でも幼くもない!」


 だからこそ……それを鎮めるのは夫の俺の役目だ!


「レイラス! なら見せてやるよ! その場の思いつきの力を! マッドゴーレムの性能を!」


 頭で拒むなら力ずく! どうせレイラスに口で勝てるとも思ってないし、この方が俺らしい! 押し倒して勝ってやる!


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