第170話 脅威


『やはりこうなりますか……ですが関係ありません。私はどんな手段を用いようともエルフを根斬りにします。巨人ゴーレム、エルフを潰しなさい』


 レイラスの命令が戦場に響き、巨人ゴーレムがこちらに近づいて来る。


 俺達のことは無視してエルフたちを蹂躙するつもりだ。


『弟子よ、ワシは巨人ゴーレムを攻撃するつもりじゃ。お主はどうする?』

「……ゴーレム魔法で援護したいところですけどね」


 俺は今の持ち駒であるドリルゴーレムたちを見る。


 残念ながらこいつらでは巨人ゴーレムに歯がたたない。少なくとも真正面から戦ったら文字通り足蹴にされるだけだ。


 ゴーレム魔法は準備期間に応じて戦力を増やせる反面、こういった事前準備のない戦いだとかなり弱い……。


「師匠、巨人ゴーレムの相手をお願いできますか? その間に俺は色々とやります」


 無意味な攻撃をするのは愚かだ。ここは自分にできることをやる。


 やることを明言しないのはレイラスに聞かれないためだ。レイラスは風魔法で戦場の声を聞きとっているので、迂闊に発言すると盗聴されてしまう。


 そうでないとさっきからの会話もできないしな。


『よかろう。ならばワシは行くぞ』


 師匠は巨人ゴーレムに向けて走って行った。


 巨人ゴーレムと師匠の強さは、スペック上はほぼ同等だ。なのでいい勝負をしてくれるはずだが……相手にレイラスがいるのが怖い。


「ゴーレムたち。こっちに集まって来い」


 俺はドリルゴーレムたちを呼び寄せる。周囲に散らばっていたゴーレムたちが、続々と俺の近くまで集まってきた。


 そんなゴーレムたちを一体ずつ手で触れて行く。言葉で命じられないので手で触れて意思を伝達する。


 命令は簡単。巨人ゴーレムの周囲の地面に落とし穴を作れ、だ。


 ドリルゴーレムを巨人相手に戦わせても戦力にならないが、落とし穴ならば少しは役に立つかもしれない。


 …………問題はレイラスに見透かされそうなことだが。


「「「「ゴオオオオオオ」」」」


 ゴーレムたちは俺の命令に従って、ドリルで地中に潜り始めた。


 俺はついていかない。最悪、巨人ゴーレムに踏みつぶされることも考えたらな……。


 そして俺は未だに伏しているエルフの女王に視線を向けた。


「おい。あんた、なんでさっきから動かないんだ?」


 彼女は別に気絶していたわけではない。ただ茫然と伏していただけだ。


 こんな緊急事態を前にして動かないなど信じられない。そんな女王は俺に向けて渇いた笑みを浮かべた。


「ははは、もう終わりだからだ。我らが最強の風魔法が、まさか破られるとは思っていなかった。あの大災害の竜巻は、我らエルフの歴史にして誇りだ。破られた時点でもう終わり……」


 明らかに全てを諦めた様子のエルフの女王。


「……終わり? じゃあ踏みつぶされてもいいってことか?」

「いいか悪いかではない。もう避けようのないことならば、無駄な抵抗をしないだけだ。無駄に逃げて刃などで苦しみながら殺されるよりは、踏みつぶされてすぐ死ねるほうが幾分マシだ」

「……」

「人の女王の最後の慈悲というわけだ。下手に抵抗したらどうなるかわからぬ」


 エルフ女王の言うことに一理はあるかもしれない。


 下手に逆らって苦しむよりも諦める、理解はできる。それにあの巨人ゴーレムは俺が作ったので、この状況を作りだした原因の一端……いや結構な部分が俺にある。


 だからこそ、責任は取らないとダメだ。


 巨人ゴーレムの方を見ると、すでに師匠との戦闘が開始されていた。


『はあっ!』


 師匠が巨人に向けて拳を振り上げながら跳躍する。


『風よ、微笑みなさい』

『むおっ!?』


 だが突風が吹いて、空中にいる師匠を吹き飛ばしてしまった。


 師匠は地面を凹ませながら尻もちをついて着地する。鉄の身体なので着地程度ではダメージはない。


 だがこれではレイラスを直接狙うのは無理だろう。彼女は巨人の肩に立っているので、普通に攻撃しても絶対に届かない。 


『やはり足から崩すしかないかのう!』


 師匠は地面を走って巨人ゴーレムの足もとへと近づいていく。


 空中では踏ん張りが効かずに、風魔法に抵抗できないと判断したのだろう。


『できますか? 風よ、乗るに賞賛し歯向かいに嘲笑を』


 巨人ゴーレムを後押すように追い風が走った。それはつまり、師匠にとっては向かい風になる。


 巨人の足取りが軽く動きが機敏に、逆に師匠は目に見えて前進速度が遅くなってしまった。


 師匠と巨人ゴーレムのスペック上はほぼ互角。ならレイラスの支援がある分だけ……。


 俺は師匠の戦いからエルフ女王へと向き直ったが、すぐに視線を外した。俺がやるべきことは師匠の戦いを傍観することではない。


 だがエルフの女王が話しかけてきた。


「……待て。何故、お前たちは我らエルフのために戦う……? 敵なはずでは……」

「…………別にお前たちのために戦うわけじゃない。ひとつだけ言っておくぞ。敵か味方の二択しかできないなら、今回を乗り切ってもエルフはいずれ滅ぶだろうよ」

「それはどういう……」

「自分で考えろ。ゴーレム、行くぞ!」


 そう言い残して俺はゴーレムに命令を下した。

 


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たぶんエルフの女王からすれば、ベギラの行動の理由が理解できてないでしょうね。

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