第169話 間違っちゃいないが


『ベギラよ。我が弟子よ、どうする? 下がれと言われたが』


 師匠が俺に顔を向けて問いかけてきた。


 ……レイラスがエルフを皆殺しにする理由は理解できる。そしてそれが間違いとは言い切れないことも。


 この場でエルフ達を生かしたとして、またいずれ逆らう可能性は十分にある。今回こそ勝ち戦だが苦戦はしたので、次も確実に勝てるという保証はない。


 ならばここで滅ぼすというのは、為政者として悪とは断じられない。だが……俺は、そんなことをして欲しくはない。


「……レイラス、待って欲しい。エルフは確かに現時点では脅威だ。でも数年後ならもう脅威じゃなくなるかもしれない。ゴーレム技術が更に発展すれば、さっきの竜巻も搦め手なしで打ち破れるようになる」


 確かに今回こそエルフの竜巻を破るのに苦労した。エルフ軍に地中からの不意打ちを仕掛けた上で、巨人ゴーレムにレイラスの風魔法での支援が必要だった。


 だがゴーレム技術は短期間で超発展を遂げているのだ。もう数年ほど経てば、もうエルフの竜巻程度簡単に打ち破れるようになる可能性は高い。


 それこそ巨人ゴーレムのような縦長巨体じゃなくて、平たい要塞のような形にすれば風にも負けない。あるいは鉄で巨人ゴーレムを造ればいける。


『……ベギラ、貴方の言う通りです。数年後、エルフはもはや脅威でなくなる可能性が高い』

「ならこの場で全滅させなくても、従属させればいいじゃないか! 絶対に勝てない戦を仕掛けてくるほど、エルフたちも馬鹿じゃない……よな? ……いや馬鹿じゃない!」


 これまでのエルフの行いが頭によぎったが、即座に振り払って叫ぶ。仮に馬鹿なら馬鹿で、何の策もなく攻めてくるなら勝てるから問題ないはずだ!


『貴方の言うことは正しいです。おそらく九割九分九厘、数年後にはエルフは脅威ではありません。ですが……一厘、危険が残る』

「そんなの俺が絶対に解決してやる!」


 たった一厘、確率なら千分の一だ! そんなほぼ起こらない可能性のために、エルフの蹂躙などやるべきではない!


 ゴーレムたちに殺戮をさせたくない。そしてなにより……そんなことしたら、レイラスの評判はどうなる!


 相手がエルフとはいえ女子供含めて殺したとなれば、残虐な殺戮者として世界中に悪評が立ちかねない! レイラスにそんな汚名は似合わない!


『私も貴方を信じています。ですが……もし貴方が明日死んだら状況は一変します。その危険性を残したくない』


 レイラスは淡々と告げてくる。


 一緒に暮らして来たから分かる……もうエルフの殺戮は、彼女にとって決定事項なのだ。そして俺が口でレイラスに勝てるとは思えない。


『もう一度言います。ベギラ、下がってください』

「……」


 どうするか少し迷う。エルフを守りたいというわけではない。敵だし奴らも俺達を滅ぼしに来たのだから。


 だが……それでも降伏させられるなら降伏させたい。必要な血はともかく、必要以上の血を流す必要はない。


 やはり俺は、虐殺はダメだと思う。ましてやそれが……ほんの僅かな僅かな危険性のためだけならば。そんなことを、ゴーレムに、そして何より……レイラスにさせたくない!


 だがレイラスは俺の言葉では止められない。もうエルフの切り札は破ったので戦いの勝利は決まっている。あの竜巻がないならば、普通のゴーレムでエルフたちには勝てる。


 ならばやることはひとつしかない!


「師匠! 力を貸してください! 巨人ゴーレムを、レイラスを倒します。それで力ずくで説得します!」

『よいのか? エルフはゴーレムの天敵じゃぞ? 奴らのせいで技術を潰された。それにレイラスお嬢ちゃんの言うことにも一理あるが』


 師匠は感情のこもっていない声を出し、俺に顔を向けてきた。


 だが俺の心は決まっている。


「レイラスが無理に悪魔になる必要はないです。俺が責任持ってゴーレム技術を発展させてみせますから。それに……ゴーレム魔法は人を救う力であって、殺すためのものではないでしょう?」


 ゴーレムは人を殺すものではない。


 それは俺が師匠から教えられたこと。ここで巨人ゴーレムがエルフを殺戮すれば、もう世界中で兵器としか見られなくなる。


 師匠は腕を組んで俺の言葉にうなずいた。


『弟子よ、その言葉に偽りはないな? 今後も絶対に』

「ありません」

『よく申した、ならばあの巨人を止めるぞ。とは言え……はっきり言って勝てるかは分からんがの』


 師匠は巨人ゴーレムを眺めながら、珍しく自信なさげに呟く。


 だがその言葉も当然だ。なにせ敵は巨人ゴーレム、これまで何度も戦いを終わらせて来た俺の切り札。


 それにあのレイラスが、最強の知略を持った少女が、風魔法で支援している。はっきり言って最強、というかこんな事態でもなければ絶対に立ち向かわない。


『行くぞ我が弟子よ! この戦いに比べれば、これまでの戦いは全て前座と思うのじゃ!』

「はい!」


 俺達の最後の戦いが、最強の敵を前にして始まるのだった。



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エルフ女王は前座だった、是非もなし。

レイラスwith巨人ゴーレムがラスボス。ほとんど伏線なかったはずなのですが、予想していた人が何人かいましたね……。

レイラスwith師匠じゃなかっただけマシか(。


ちなみにレイラスを止めなかった場合、千年後も悪名が残ります。

信長の比叡山焼き討ちみたいに。

エルフがクズだったとか、そういう細かい理由は残らないでしょうね。

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