第167話 エルフの女王


「風の怒りよ、刃となれ」


 エルフの女王は俺に向けて手のひらを向けた。


 するとその瞬間に緑色の光が鎌のような形状になり、俺に向けて襲い掛かって来る……!? やばっ、ゴーレムを造って壁を……!


『させんわ! はあっ!』


 俺が土ゴーレムを作りだそうとした瞬間、吹き飛ばされたはずの師匠が俺の目の前に現れる。風の鎌を両手で払って守ってくれた。


 そして師匠はエルフの女王に挑発するように手招きする。


『お主の相手はワシじゃったはずじゃ』

「くだらない。何故喋れるかは分かりませんが、ゴーレムである以上は命令者を殺せばほぼ無力化される。とは言え……貴方をなんとかしないと、そのゴーレム魔法使いを殺せませんか」


 エルフの女王は手のひらに小さな竜巻を出現させて、殺意のこもった目で俺を睨んでくる。


 なるほど俺を殺すことでここにいるゴーレム全てを無力化しようと。


 確かにゴーレムは命令に従う存在だ。そしてここにいる人間は俺だけだ、なので俺さえ消してしまえば指示者がいなくなる。


 だが彼女は致命的な勘違いをしている。師匠は自我を持ってるから、俺がいなくなっても関係ないのだが……流石に分からんよな。


『風魔法ではワシを倒せんぞ』

「……不気味なゴーレムですね。風魔法を舐めては困ります。たしかに貴方を風で切り刻むことは不可能でしょう。ですが……風は自然を司る。大自然の力に勝てますか?」


 エルフの女王はなにかを指揮するかのように、両手を振るい始めた。


 すると急に周囲が暗くなり始める。上空を見ると巨大な真っ黒な雲に覆われている……!? バカな、さっきまであんなのなかったぞ!?


 …………まさか風魔法で雷雲を運んできたのか!?


「ゴーレム、貴方は風には強いでしょう。ですが……自然のいかずちではどうでしょう? 避けたらゴーレム魔法使いに当たりますよ」


 大きな黒い雷雲の一部が切り離されて、こちらに向けて勢いよく落下してくる!?


『させん!』


 師匠は両手を身を守るように交差して地面を跳躍。地上に落ちてくる雷雲に向けて自ら突っ込んだ!?


 師匠が入った雲に紫の雷がバリバリと走る……そしてしばらくしたあとに霧散した。


『くうっ。流石に少し効いたな!』


 勢いよく地上に落下してきた師匠の鉄の身体に、電流が流れているのが見える。


「師匠! 大丈夫ですか!?」

『今のところはな!』


 ……鉄の身体に雷のダメージがあるかは不明だ。だが師匠に電撃は最悪の相性かもしれない……!?


 ゴーレムを行動不能にする方法は二つある。


 ひとつは足などを粉砕して物理的に動けなくすること。そしてもうひとつはコアを直接粉砕することだ。


 ゴーレムにとってコアは心臓だ。心臓を潰されたら流石に死んでしまう。


 師匠は鋼鉄の身体を持つ上に超俊敏だ。なのでコアまでたどり着く攻撃などなく無敵と思っていた。


 だがゴーレムである以上、内部のコアがもし損害を受ければマズイ。そしてあの雷は師匠の身体に帯電しているのだ。


 もし雷が師匠の体内を走って、内部のゴーレムコアを損傷させられたら……。


『ならば先手必勝じゃ!』


 師匠はエルフの女王に向けて勢いよく突撃していく。


 下手に雷雲を受け続けるよりも、さっさと術者を倒した方がよいと考えたのだろう。師匠もゴーレムコアの損傷の可能性を考慮したのだ。


「風よ、わが身を舞え」


 だがエルフの女王はふわりと宙に浮いて、師匠の突撃を回避。そのまま空高く飛翔してしまう。


 ……やはり女王も空を飛べたか。風魔法の使い手だもんな。


「ゴーレム魔法の使い手よ。私は貴方を恨む。貴方さえ生まれなければ、私たちは平和に生きられたのに。世界は平和であったのに。貴方のせいで大勢死ぬ。自らの罪を省みて降伏せよ」

 

 女王は俺に殺意を向けて睨んでくる。幼い容姿でありながらその目には迫力があった。


 この感覚には覚えがある、王として民を統べる者の威容。レイラスとどことなく共通点があった。


 彼女の言うことも多少は分かる。女王からすれば、いやエルフからすれば俺は天敵以外の何者でもない。だがこの言葉はエルフ目線過ぎる……俺にとっては理不尽の極みだ。


「なに自分達は正しいみたいに言ってるんだよ! それはお前らの都合だろうが! そもそも戦いを仕掛けてきたのはお前らで! ついでに言うなら自分達が上位者であり続けたいから、身勝手に攻めてきただけだろうが!」


 忘れてはならない。この戦いはすべてエルフ側から仕掛けてきたことを。


 彼らの言葉を言い換えれば、「自分達が常に人より優位であれば攻めない」だ。もしゴーレム魔法に代わる脅威が生まれたら、また何かしら仕掛けてきただろう。


 数に劣るエルフからすれば優位でないと困るのかもしれない。だが俺達はそんなことに付き合ってやる必要はないのだ。


「我々は人がゴーレム魔法を捨てていれば、戦争など仕掛けるつもりはなかった」

「どうだかな。それだって本当かどうか分からない。なんにしても負けてやるつもりはないがな!」

「そうか。ならば死にて罪を浄化せよ」


 女王はさらに手を振るう。


 再び空の雷雲の一部から切り離されて、地上へと落ちてくる。だがこれ以上はさせない!


「ドリルゴーレム! 来い!」


 俺は近くにドリルゴーレムの一体を呼び寄せた。そしてゴーレムコアを作りだすと、ゴーレムの腕の先端のドリルに埋め込んだ。


 ドリルの形状が変化していき、四枚の花弁を持つ花に近い見た目になる。


「なにを……」

「お前らのお株を奪わせてもらう! ドリルゴーレム改めプロペラゴーレム! 雲を吹き飛ばせ!」


 俺の指示に従ってゴーレムの腕の先端、換気扇のような形状のプロペラが高速回転し始める。


 そして発生した旋風によって、こちらに向かってきていた雲は散った。


「なっ……!?」


 驚いた顔でこちらを見下すエルフの女王。


 まさかゴーレムが風を巻き起こすなど計算外だったのだろう。そしてその隙は致命的だ。


 なにせ彼女はこの戦場の最大の脅威に対して、警戒が薄れてしまったのだから。


『隙ありじゃ! はあっ!』

「がっ……!?」


 地上から跳ねた師匠の体当たりが、上空のエルフ女王に直撃した。師匠はそのまま墜落して地面に着地、女王はかろうじて浮き続けているがかなりフラフラしている。


 あのままならバランスを崩して墜落しそうだ。


「くっ……」

「お前たちこそ降伏しろ! 悪いようにはしない!」


 俺の降伏宣告にたいして、エルフの女王は目を見開いて俺に視線を向ける。


 その顔には激怒の表情がこもっていた。


「断る! そうすればお前たちはいずれ必ず我らを殺す! エルフの子孫のために……そんなことは認めない! エルフの兵士たちよ! 一気に進軍して王都へと……」

『ベギラ、よくやってくれました。おかげでエルフの陣形は崩れ始めました』


 エルフの叫びをかき消すかのように、戦場に別の声がこだまする。


「こ、この声は……!?」


 エルフの女王は動揺して周囲を見回す。だが俺はこの声をよく知っている。


『勇敢なるレーリア軍よ! いまから巨人ゴーレムが竜巻を破ります!』 

 

 レイラスの声が戦場に鳴り響き、周囲を纏う竜巻の外から巨人ゴーレムが動いているのが見えた。



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プロペラゴーレム、夏に一台欲しいゴーレム。

というか扇風(ry


そしてエルフ終了のお知らせ。勝ったながはは。

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