第166話 人VS人
俺達が地上に這い出ると、エルフ軍の側面に出たようだ。
エルフたちは俺達を睨んでいて、少し離れた場所には竜巻による風の壁が周囲を囲っていた。そしてすでに師匠は戦いを開始している。
いやあれは戦いではない。
『はあっ!』
「「「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁ!?」」」
「「風よ! 刃とかせ!」」
『効かぬっ!』
師匠が体当たりをすると、三人のエルフが吹っ飛んでいった。しかもエルフの風魔法は師匠には効き目がない。
つまりはいつもの蹂躙であった。残念だったエルフ共! お前たちの切り札である竜巻も地中をくぐれば問題ないんだよ!
「よし土ゴーレムたち! 突撃しろ!」
俺は穴から出終えたゴーレムたちに指示する。ゴーレムたちは特に隊列を組むわけでもなく、好き勝手にエルフに向けて歩いていく。ドリルゴーレムはまだ待機だ。
エルフたちはゴーレムに弱い。ここでゴーレムを暴れさせればエルフの数が減って、周囲の竜巻も弱まるかもしれない。
「チッ! やはり分が悪いか……女王陛下をお呼びしろ! それまではお前たちの出番だ!」
普通より衣装が少し華美なエルフが叫ぶ。すると他のエルフの間を割って出るように、新たな軍が俺達の前に出てきた。
エルフならばゴーレムで瞬殺……そう思っていたのだが。
「……長耳がない?」
エルフを守るように前に出てきた兵士たちは、エルフ特有の長い耳がなかった。それに武器も大きな鉄のメイスや金棒などの鈍器系だ。
おかしい。エルフは非力なので重量のある武器は持てないはず……つまりあいつらは人間だ。
なんでエルフ軍に人間がいるんだ!?
「人間ども! ゴーレムを粉砕しろ!」
「「「「おおおおおお!!!」」」」
おそらく二百を超える人間兵は、ゴーレムに向かって突撃していく。
い、いやでも大丈夫だ。仮に人間だったとしてもゴーレムにはそうそう勝てない!
俺は命令を取り消さず、ゴーレムは人の兵士を迎え撃つが……。
「おらぁ! 土のゴーレムなんぞに負けるかよ!」
「四人一組を忘れるな! 連携してぶっ潰せ!」
「鈍器ならぶっ潰せるな!」
彼らはゴーレムの拳をたやすく回避、もしくは武器などでいなす。そしてメイスなどの武器をゴーレムに叩きつけて行く。土ゴーレムでは耐えられない、何体もの身体が崩れて土に戻って行く。
「なっ……!」
計算外だ! あの人の兵士たち、どう見てもそこらの一般兵より動きがいい!
ゴーレムは確かに足こそ鈍いが、巨体から繰り出されるパンチなどは別に遅くはない。避けるのは簡単ではないし、武器などで攻撃をいなすなど至難の業だ。
そもそも兵士という類はゴーレムと相性がよくない。基本的に兵士は人と戦うことを想定した者。なので対人戦こそ慣れているが、ゴーレムみたいな人ではない存在相手の経験は薄いはずだ。
なのに彼らはアッサリとゴーレムを潰している。
「……冒険者か? それも手練れを雇っている?」
俺も短期間だが冒険者になったことがある。
冒険者は魔物相手がメインとなるので、人より大きな相手との経験値は溜まりやすい。そして優秀な冒険者たちならば土ゴーレムを倒すくらいワケはない。
…………エルフめ、人との戦争に人を雇うとはな。奴らもちゃんと考えているようだ。
「ならドリルゴーレム! 前進しろ!」
確かに土ゴーレムたち相手なら、優秀な冒険者は勝てるだろう。だがドリルゴーレムは岩、さらにドリル部分は鉄で造られている。
丈夫さが段違いなので人相手でもそうそう負けはしない! 鉄のメイスで殴ってもそうそうやられは……。
「「「岩よ! 敵を襲撃せよ!」」」
敵軍の中からそんな声が響いた。それと同時に巨大な岩が飛んできて、ドリルゴーレムに向けて襲い掛かって来る!?
岩はドリルゴーレムの何体かに直撃し、その身体を砕いて破壊した……。
「そうか……そうだよな。人なら風以外の魔法も使えるもんな」
ゴーレムはエルフにたいして無敵に近い。それは間違いなかった。
だからこそ忘れていたのだ、ゴーレムがこの世界において不遇であった理由を。
ゴーレムはそこらの魔法使いでも破壊できる存在……ゴーレム魔法使いは戦争だけで見るなら、他の人間魔法使いの劣化だったことを。
(どうする? 人の魔法使い相手なら鉄のゴーレムが欲しい。だが巨人ゴーレムの製造に必死だったから、土と岩のゴーレムしかいない。本音を言えば撤退したいところだが……)
まさかエルフが人の傭兵を雇えるとは思わなかった。
あんな奴らに力を貸す人間がいるなんて……いや驚いている場合じゃない。勝てるように出来る努力はすべきだ。
「正気かよ! エルフは人間を見下しているんだぞ! 金が欲しいならエルフ以上に払うと約束するぞ!」
俺は傭兵たちに向けて叫ぶ。
もし彼らが傭兵ならば金で雇われているはずだ。そしてエルフが嫌われ者なのは間違いない。なら買収も可能かと考えたのだが……。
「悪いな! こちとらエルフ以外からの雇われの身でな!」
「おい余計なことは言うな!」
「買収など無意味だ!」
傭兵たちは口々に叫んでくる。
エルフ以外からの雇われの身? ……エルフ以外の人間が傭兵を雇って、エルフに貸し与えているとかか?
なんにしても買収は無理そうかくそっ!
『弟子よ! 案ずることはない! ワシがおる! とうっ!』
師匠は地上から十メートルほど跳ね上がると、敵傭兵の近くの地面に跳び蹴りを放た!
地はクレーターを作ってひび割れ、その衝撃で十人ほどぶっ飛んだ!
「「「「「ぐわあああああああ!?」」」」」
「なんだこの化け物!?」
「ゴーレムの中に人間入ってるだろ!?」
そ、そうだ。こちらにはチートがいる! 師匠がいれば傭兵がいくらいても物の数ではない!
敵軍は混乱し始めた。この間にゴーレムを攻めさせて……!
「お待ちなさい、人の理を破った者よ。私が相手をしましょう」
だがそんな師匠に幼い少女のエルフが立ちふさがる。
『お嬢ちゃん、そこをどかぬか』
「どきません。我らエルフの未来のため、ここで貴方は砕きます」
少女は真剣な面持ちで師匠を睨む。
見た目こそ子供だが衣装はすごく華美で、纏っている雰囲気もとても幼いとは思えなかった。
『……少女を倒す趣味はない。ならば無視させてもらおう』
師匠はそんな少女の横を素通りしようとする。少女はそんな師匠に殴り掛かった。
そんなことをすればむしろ自分の拳を痛めるだろうに。師匠もそう思って少女の拳を受け止めようとしたのだが……。
『むおっ!?』
拳が当たった瞬間、師匠は吹っ飛んだ。そしてその身体は着地した地面をえぐっり、まるで巨人の手で土をすくったかのような跡ができた。
な、なんだあの少女!? 師匠を吹き飛ばすなんてあり得ないだろ!?
「さ、流石は女王様だ! 続け! あのゴーレムはお任せして、我らは竜巻魔法の維持を!」
周囲のエルフが叫ぶのが聞こえる。女王……あれがエルフの女王!? まだ子供にしか見えないぞ!?
「……貴方たちは私が砕く。エルフの長として、脅威は取り除かなければなりません」
少女は師匠を睨みながら宣言するのだった。
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